「本物の家具」がもつ魅力を味方につけてもらうために、インテリアエディター「D」が厳選した大人のためのインテリアアイテムをご紹介する連載。

身長156cmと小柄なエディターが、実際に家具を触ったり、座ったりしながら、女性ならではの視点でインテリア名品の魅力を掘り下げます。

第18回は、美しい照明の名作がたくさんそろうデンマークのブランド「ルイスポールセン」 の「PH5」。多くのカラーや仕様がありますが、そのなかでも経年変化を楽しめる真鍮ヴァージョンをご紹介します。

無塗装の真鍮は、経年するとアンティークの風合いが楽しめ、また違った表情を見せてくれるのが楽しみのひとつ
無塗装の真鍮は、経年するとアンティークの風合いが楽しめ、また違った表情を見せてくれるのが楽しみのひとつ
【ブランド】ルイスポールセン【商品名】PH5ブラス(真鍮)【写真の仕様の価格】¥138,240(税込)【サイズ】幅500×奥行き500×高さ267mm 全長 約1.9M【重量】約3kg【材質】メインシェード:真鍮(無塗装・鏡面仕上げ)、フレーム:白色塗装、ボトムカバー:フロストガラス【電球】同梱ランプ:E26 LED電球×1 白熱100W相当(白熱電球は150Wまで使用可能)
【ブランド】ルイスポールセン【商品名】PH5ブラス(真鍮)【写真の仕様の価格】¥138,240(税込)【サイズ】幅500×奥行き500×高さ267mm 全長 約1.9M【重量】約3kg【材質】メインシェード:真鍮(無塗装・鏡面仕上げ)、フレーム:白色塗装、ボトムカバー:フロストガラス【電球】同梱ランプ:E26 LED電球×1 白熱100W相当(白熱電球は150Wまで使用可能)

黄昏時をいつくしむ感性と、数学的な裏付けの両軸を併せ持つ「PH5」

誰もが一度は目にしたことのあるダイニング用のペンダント照明「PH5」。1958年にデンマークで発売されると、「国民的ランプ」と称されるほどの圧倒的な支持をうけ、海外で知られる最初のデンマーク製品のひとつとなりました。以来60年以上経った現代でも、世界中で愛されています。

「PH5」という、科学記号のような名前は、デザイナー(ポール・ヘニングセン)の頭文字と、メインシェードの大きさが直径50cmということからつけられました。

真鍮とホワイトシェードの新しいコンビネーションは、2019年に、デザイナーのポール・ヘニングセンの生誕125周年を記念してリリースされた仕様です。鏡のように磨かれた真鍮は、周囲を写しこみ、シェードの特徴を際立たせます。また無塗装仕上げなので、時間の経過と共に味わいのある表情に変化していきます。

「名作なのは知っているけど、実際暗いのでは?」と心配される方が多いのですが、テーブル近辺はしっかり明るいです。
「名作なのは知っているけど、実際暗いのでは?」と心配される方が多いのですが、テーブル近辺はしっかり明るいです。

写真は、明るいダイニングを中心に、奥の台の上と右奥にも照明があり、明暗の濃淡がなんともいえない雰囲気をつくり出しています。天井照明ひとつで隅々まで均一に照らした空間よりも、部屋の奥に視線が抜けることで、部屋を広く感じられるという効果があります。

「PH5」の「黄昏時の光と調和するように考えられたやわらかな光」は、人の横顔や卓上に置かれた物に美しい陰影をつくりだします。まろやかな魅力をまといたかったら、どちらの照明のインテリアで過ごすのが効果的でしょうか。

テーブル上から照明の最下辺までを600mmの位置で吊るします。
テーブル上から照明の最下辺までを600mmの位置で吊るします。

テーブル面を明るく照らし、着席する人々の表情をやわらかく見せるには、卓上から器具下端の距離を600mmと、低く吊り下げるのが最適です。「そんな低い位置に垂らしたら、頭をぶつけるのでは?」という疑問の声もあると思うのですが、毎日生活する場所を、体は学習するので心配するほどの問題にはなりません。

テーブル真ん中のものを扱うときの立ち居振舞も、自然と気を使うようになります。
テーブル真ん中のものを扱うときの立ち居振舞も、自然と気を使うようになります。

必要な場所に明るさを効率よく集めるための研究の末、デザイナーのポール・ヘニングセンは、入射角と出射角を37度に設定した独自の対数螺旋を考案しました。「PH5」のシェードの形状は、機能から導かれた数学的な根拠をもつカーブで構成されています。

自然界にも多くみられる、螺旋の一種「対数螺旋」。魅力的な形状は、幾何学の純粋な美しさを秘めているからかもしれません。
自然界にも多くみられる、螺旋の一種「対数螺旋」。魅力的な形状は、幾何学の純粋な美しさを秘めているからかもしれません。

電球が進化、多様化しても「ブルーアワー」を楽しめる光をつくり出してきたロングセラーの「PH5」

「PH5」の発売当初は白熱球が主流でしが、時代が進むにつれ、電球型蛍光灯やLED電球など光源技術が発展しました。どの電球を使っても、眩しくない(グレア・フリー)、質のいい光の状態を保てるよう、一部のパーツや構造は時代と共に仕様変更されてきました。

具体的には、20年くらい前から電球の高さを微調整できる構造になっています。まずはシェードを外して、実際に調整してみましょう。

反時計回りに回すと一体型のシェードを簡単に外すことができます。
反時計回りに回すと一体型のシェードを簡単に外すことができます。
電球ソケットの奥に、ネジを切ったプラスチックパーツがあります。ソケットを回転させて、位置を調整します。※2019年3月以前に製造されたタイプは、調整方法が異なります。
電球ソケットの奥に、ネジを切ったプラスチックパーツがあります。ソケットを回転させて、位置を調整します。※2019年3月以前に製造されたタイプは、調整方法が異なります。
写真左/付属のLED電球は20mm程度ソケットが見えると、光源が真ん中に来るので理想的な明かりが得られます。写真右/ご自身でLED電球を用意される場合は、右のような全方向に光るタイプを選んでください。
写真左/付属のLED電球は20mm程度ソケットが見えると、光源が真ん中に来るので理想的な明かりが得られます。写真右/ご自身でLED電球を用意される場合は、右のような全方向に光るタイプを選んでください。

ショールームには、電球の光源の高さと、シェードの関係がわかる断面模型があります。

 

光源がシェードに対して、適正な高さにあるとき、すべてのシェードの端まで光が当たり、下方向へ光が収束している様子がわかります。
光源がシェードに対して、適正な高さにあるとき、すべてのシェードの端まで光が当たり、下方向へ光が収束している様子がわかります。
適正な位置より数ミリでも光源が高いところにあると、シェードの隙間から鋭い光が漏れてしまいます。
適正な位置より数ミリでも光源が高いところにあると、シェードの隙間から鋭い光が漏れてしまいます。

光源が低い位置にあると、羽の一部が照らされず「無駄な部材」が出てきてしまいます。同梱されている電球ではないものを取り付けたい場合は、羽の隅々まで光がやわらかく広がっているか、眩しい光が漏れていないか確かめながら、微調整してみてください。

光として質が高く、視覚的にも美しい製品を生みだす「ルイスポールセン」

光で人々と空間に影響を与える魅力的な雰囲気をつくりだす、ルイスポールセンのフィロソフィーそのもののようなデンマーク本社
光で人々と空間に影響を与える魅力的な雰囲気をつくりだす、ルイスポールセンのフィロソフィーそのもののようなデンマーク本社

1874年にデンマークで創業されたルイスポールセンは、ワインの輸入業者としてスタートしました。その後電気の普及が進みはじめた1890年代に、電気用品の販売事業を開始しました。3代目社長の代、1925年に始まったポール・へニングセンとのコラボレーションから、現代のような良質な光を放つための照明器具のメーカーとなりました。

形態は機能に従う、というスカンディナヴィア・デザインの伝統に基づく製品づくりを実践し、光として質が高く、シンプルで美しい製品を生みだすクラフツマンシップが特徴です。

アルネ・ヤコブセン、ヴァーナー・パントン、最近では、オイヴィン・スロット、nendo、ルイーズ・キャンベルといった、才気あふれる建築家やデザイナーとのコラボレーションによって、住宅、建築、街並みの照明のためのグローバルなトップ・プレイヤーとして世界的な地位を築いています。

六本木AXISビル3階にあるショールームでは、過ごしたい時間や家具配置をもとにライティングの提案も対応してくれます。
六本木AXISビル3階にあるショールームでは、過ごしたい時間や家具配置をもとにライティングの提案も対応してくれます。

作家、社会・文化批評家での名声に加え、照明、建築、アート、サイエンスの分野でも活躍した、ポール・ヘニングセン

「PH5」を持つポール・ヘニングセン
「PH5」を持つポール・ヘニングセン

1894年デンマーク生まれ、テクニカル・カレッジで建築を学びます。

生涯にわたり建築家としても活躍し、その使命は「労働者に十分な生活環境を整える良質な住宅デザイン」でした。

1925年のパリ工芸博へのデンマーク参加に先立つ照明デザインコンペで入選し、ルイスポールセン社と協力を開始します。コペンハーゲンのフォーラム展示会場の照明設計をきっかけに、今日3枚シェードの「PHランプ」として知られるペンダントライトの原形を完成させます。

第二次世界大戦中の1941年からデンマーク・チボリ公園の照明設計を手がけ、上空を飛ぶ爆撃機から見えない、水平方向にのみ照射する照明器具をデザイン。そのおかげで戦時中も夜間営業が可能になったともいわれています。

1950年代には、次々と発表される光源メーカーの新しい電球に対する批判をスウェーデンの新聞に寄稿するなど、美しい明かりを求める姿勢はデザインだけにとどまらず、文筆活動にも広がり、ジャーナリスト、作家としても活躍しました。

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM