ヨーロッパはすでにエミッションや開発費の問題などでディーゼルを諦めたんじゃなかったのか? なんて少しばかり皮肉もいいたくなるほど、このところの欧州メーカーのディーゼル上陸攻勢が続いている。それが今度はイタリアンのアルファロメオである。「レブリミット近くまで一気に吹け上がり、官能的なサウンドを残して……」などと、そのガソリンエンジンが表現されてきたアルファロメオまでもが、なんとディーゼルエンジン搭載モデルである。

 と、いいたいところなのだが、実はきめ細かく燃料噴射を制御し、ディーゼルエンジンの高効率化やクリーン化という、現在のディーゼル車に不可欠な「コモンレール技術」の開発において、アルファロメオはパイオニアなのだ。1997年、世界初のコモンレールディーゼルを搭載した量産型乗用車が「アルファ156 JTD」だ。その自慢の技術で仕上げたディーゼルエンジンを、同社が初めて手がけたSUVであるステルヴィオに載せ、ラインアップに加えたのだ。

軽量化を追求したクリーンなユニットを搭載

日本の狭い道でも扱いやすいミドルサイズ。
日本の狭い道でも扱いやすいミドルサイズ。
すべての写真を見る >>
エンジンカバーがあるため、昔のような華やかさは感じられないが、それでも赤い「Alfa Romeo」の文字に気持ちが高ぶる。
エンジンカバーがあるため、昔のような華やかさは感じられないが、それでも赤い「Alfa Romeo」の文字に気持ちが高ぶる。

 日本市場ではアルファロメオ初のディーゼルモデルとなる、ステルヴィオ 2.2 ターボディーゼルQ4。ちなみにスポーツサルーンのジュリアにも、同じ排気量だがチューニングの異なるディーゼルエンジン搭載モデルがラインアップされている。それでもやっぱり今回の主役はSUVのステルヴィオである。低速から力強いディーゼルと車重のあるSUVの相性は抜群だからだ。

 アルファロメオは、このエンジンを「スポーツ・ディーゼル」と呼んでいる。2.2リッター4気筒ディーゼルエンジンは最高出力154kW(210馬力)、最大トルク470Nmと、スポーツを名乗るだけあり、かなりパワフル。もちろん日本の厳しい排ガス規制をパスするクリーンなエンジンである。このエンジン、パワーだけでなくアルミブロックや中空カムシャフトを採用するなど、軽量化を追求している。

 スポーツを標榜するなら軽さは必須条件だが、どうしてもディーゼルエンジンというとフロントの重さが気になる(ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりも大きく重いため)。エンジン単体の重量は155kgに収めたというのだが、果たしてそれがどの程度、効果として現れるのだろうか?

 ドライバーズシートに腰を下ろすと、目の前には大きな丸型メーターがふたつ。右に速度、左にタコメーターという、いかにもアルファロメオらしい風景が広がる。ガソリンモデルと少し違うのは5,000回転に刻まれたレブリミットで、これこそディーゼルエンジンの証拠のひとつ。ちなみに2リッターのガソリンモデルでは6,000回転がレブリミットになるわけで、タコメーターを見ただけでもエンジンの違いは理解できる。

 始動ボタンを押すとタコメーターの針が一瞬ぐんと立ち上がって、1,000回転辺りでアイドリングを刻みだした。少しばかりざらついた感触はある。振動もあるし、特有のガラガラとしたエンジン音も聞こえてくるのだが、ストレスになるようなレベルではない。都市生活者が日常の足として使ったとしても、周囲に気遣いをするほど騒がしくないし、いわれなければディーゼルと気づく人は少ないかもしれない。もっといえば、マツダも含め、国内で販売されている最新のディーゼルエンジンで、アイドリング時に気遣いをしなければいけないような騒音・振動レベルのエンジンはほとんどないと思う。

飛ばしたくなるディーゼル

シフトレバーの右下にあるのがドライブモードセレクター。ダイヤルをひねることで、「d」(ダイナミック)、「n」(ナチュラル)、「a」(アドバンス)に切り替えられる。
シフトレバーの右下にあるのがドライブモードセレクター。ダイヤルをひねることで、「d」(ダイナミック)、「n」(ナチュラル)、「a」(アドバンス)に切り替えられる。
ラゲッジは想像以上に広い。SUVとしての実用性もなかなかだ。
ラゲッジは想像以上に広い。SUVとしての実用性もなかなかだ。
すべての写真を見る >>

 ホールド感のいいシートにしっかりと体を収め、走り出してみる。このエンジンの最大トルクは1,750回転。発進するとあっという間にマックストルクを迎えてしまう。感覚的には右足をたいして動かすことなく、楽々とピークパワーの走りを手に入れている感じで、相当にスポーティな印象だ。おまけにそこからさらに踏み込んでいっても、あまりトルクが細くなる印象がなく、むしろグングンとトルクを引き出してくる。もちろんQ4なので、そのトルクはしっかりと4輪に分配され、適切に路面へと伝わる。その安定感のある走りゆえ「もっと飛ばしてやれ!」なんていう気になってしまうので、自制心が必須だ。

 ガソリンエンジンのようにカァ~ン、カァ~ンとレブリミットまでスムーズに回転が上昇する感覚ではない。少しばかりのざらつきを感じながらも、低回転からぶっといトルクで恐ろしいほどの加速感を感じさせてくれるディーゼルエンジンにも、走らせる楽しさ、魅力があるのだ。今回は箱根のワインディングや西湘バイパスの短めの高速走行を中心に試乗しただけなので、実用使いでの燃費は計測できなかった。それでも当然、カタログデータの16.0km/L(WLTC モード)近くは達成できるはずだから、軽油ということも含めて経済性は高い。

 ステアリングはガソリンモデル同様にスポーティな味付け。センター付近からちょいと切り込んだだけで、ノーズはクイッと向きを変える。市街地で使うならもう少しダルくてもいいかな、という気もしたが、アルファロメオのスポーティ感はこういうところにあるのだから、あとは好みの問題だ。

 こうしてしばらく走りこみ、体に馴染んでくる頃になって、あることに気が付いた。それはエンジンを軽量にした恩恵である。もう少しフロントヘビーの走りになるかと想像していたのだが、思いのほか素直な、バランスの取れた走りになっていて、アルファロメオらしい刺激度も感じられる。見た目は優男系でも、中身は実に硬派で男っぽいクルマなのだ。世界的に見てこのセグメントはもっとも強敵がひしめいているわけだが、イタリアン好きなら指名買いしても後悔はない、と断言できる。

【アルファロメオ・ステルヴィオ2.2 ターボディーゼルQ4】
全長×全幅×全高:4,690×1,905×1,680㎜
車重:1,820kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
エンジン:直列4気筒DOHCターボ 1,968cc
最高出力:154kw(210PS)/3,500rpm
最大トルク:470Nm/1,750rpm
価格:¥5,712,963(税抜)

問い合わせ先

この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。