今年4月にオープンした高級食パン専門店「題名のないパン屋」。

老舗佃煮・惣菜専門店「佃浅商店」が新たな可能性を模索する中で、食パンという新規事業を始めるため、全国各地で次々と高級食パン専門店をヒットさせている、ベーカリープロデューサーの岸本拓也氏にプロデュースを依頼し、誕生した店舗です。

ほかの専門店の食パンと大きく違うところは、惣菜店の強みを活かして、日本5大味噌のひとつである「江戸甘味噌」を使用し、和テイストで「惣菜に合う」味わいを実現したところ。

まさに、食パンのプロである岸本氏と、惣菜のプロである佃浅の出会いから生まれた、ユニークなコラボレーションです。

そこで今回は、佃浅商店の代表取締役社長・杉原健司さんに、「題名のないパン屋」が誕生したいきさつや、3種類の食パンのおいしさの秘密、最高においしく食べる方法について伺いました。

はじまりは、社長の母がお気に入りの「卯の花トースト」

「題名のないパン屋」で2斤販売されている食パンは、プレーンの「無題の熟成」と、江戸甘味噌を使用した「無の極み“味噌”」と、味噌入りの生地にレーズンを練り込んだ「無の極み“ぶどう”」の3種類。

プレーンの食パン「無題の熟成」の画像
「無題の熟成」2斤¥800(税別)
味噌入りの食パン「無の極み“味噌”」の画像
「無の極み“味噌”」2斤¥840(税別)
レーズン入りの食パン「無の極み“ぶどう”」の画像
「無の極み“ぶどう”」2斤¥980(税別)

絹のように白いきめ細かな小麦粉や、コクを生み出す国産バター、添加物を使用しないフレッシュな生クリームといったこだわりの食材を使ってとろけるような舌触りの耳までやわらかい食パンとなっています。

「無の極み」シリーズに使用されている味噌は、もともと佃浅商店で昔から使用していた、明治18年創業の株式会社あぶまたが販売している「江戸甘味噌」。人工甘味料を使用せず、米こうじをたっぷりと使ってしっとりした独特の甘みを持つ味噌です。

パンに味噌というと意外に感じられるかもしれませんが、そこに至るまでには納得のストーリーがありました。

「鶏そぼろ味噌」の画像
店頭で販売している「鶏そぼろ味噌」も江戸甘味噌を使用。もちろん食パンにつけてもおいしい。

「昔から母が、お店で販売している卯の花をトーストに乗せて食べるとおいしいと言っていて、スタッフとのバーベキューでも振る舞ったりしていたんですね。僕自身も人に会うときに話のタネでこの『卯の花トースト』のことを話していたんです。

自分自身も、話しているうちに『和惣菜とパンは意外と合うのかも』と思い始めていました。

そんなときに知り合いに紹介してもらったベーカリーの勉強会に参加する機会がありまして。その勉強会が、岸本さんが登壇するものだったんです。

岸本さんに『和惣菜とパンは合いますかね』と話したら『合う』と断言されて。そのとき『あんぱんだってあんこという和のものとパンのコラボでしょ』っていう話をされて、妙に腹落ちしたんですよね。

それで、最初はコッペパンをやろうと思っていたんですが、岸本さんから食パンの提案がありまして、今に至ります。惣菜屋として、違う可能性を見いだせたかなと思っています」(杉原さん)

和惣菜に合う、味噌を使った食パンは、こうした経緯で誕生したんですね。

食パンの材料に使用する調味料は、醤油という案もあったのだそうです。探っていく中で、「味噌と食パンは面白いかも」という発見があり、いい味噌がないかと探したところ、昔から佃浅商店で使用していた江戸甘味噌(あぶまた味噌)に行きついたのです。

味噌を入れることで甘さを強めたり、保湿性や香りなどが高まるのだとか。実際に食べてみると、味噌の味はほとんどしません。言われなければ、味噌が入っているとはわからない味に仕上がっています。

ただ、この味噌を使った食パンをつくるのは、とても難しいと杉原さんは言います。

「今でも苦労していますよ。発酵物に発酵物を合わせるので、菌同士が戦ってしまうんです。繊細なんですよね。でも、プレーンとレーズンの2種類に唯一無二の味噌が加わったので、ここはうちの店の強みかなと思っています」(杉原さん)

食パンに合う、意外な和惣菜の数々

「佃浅」の惣菜3種類の画像
「佃浅」の惣菜3種類。どれも「題名のないパン屋」の食パンに合う。

杉原さんが目指しているのは、パンを使った和惣菜の普及。「題名のないパン屋」で販売している食パンも「惣菜をたっぷりと乗せて食べる」ことをおすすめしています。

「うちの惣菜は、国産を中心とした材料にこだわり、添加物を入れていないのであまり日持ちはしません。『家族に食べさせられないものは売らない』が信条なので、品質には自信があります。

『題名のないパン屋』の食パンには、ぜひうちの惣菜を合わせて食べてみてほしいです。

瓶詰で販売している『旨っ!辛っ!やみつき唐辛子』という青唐辛子の佃煮が、納豆に混ぜたり豆腐に乗せたり、パスタとからめてペペロンチーノにしたりと万能なのですが、これを食パンに乗せて食べていただくと、ピリッと味がしまります。

四万十川産ののりを100%使用した『のりの佃煮』をジャム感覚で乗せていただくのもいいですね。

かぼちゃサラダではなくかぼちゃの煮つけを乗せるというのも、意外かもしれませんがおいしいんですよ。

そこは、岸本さんも開発の過程で食パンと惣菜がうまい具合に合わさって胃袋に落ちていくような、思わずまた食べたくなるようなペアリングを探ってくれました。

パンと合わせるジャムを売るような感覚で佃煮や惣菜も売っていますが、今では佃煮だけ買いに来てくださるお客様もいらっしゃいますよ。

いろいろな和惣菜が合うと思いますが、食べ方に関しては『こういう食べ方がおいしかったよ』とお客様に教えられることも多いですね。インスタグラムに載せていただいていることもありますし。

また、店頭で試食などを通して、お客様への食べ方の提案も行っています。うちは百貨店で商売してきたこともあって接客にはうるさく口を出しています。そういったやりとりも楽しんでいただきたいですね」(杉原さん)

左に青唐辛子の佃煮、右に四万十川のりの佃煮が並んだ画像
左が青唐辛子の佃煮、右が四万十川のりの佃煮。

今後は「高級食パン定食屋」も?

食パンをちぎっている画像
ごはんのように、毎日の食卓に惣菜と食パンを。

高級食パンと和惣菜のコラボレーションで生まれた「題名のないパン屋」。今後まだまだ新たな展開もありそうです。

「定食事業ができないかなと思っています。もともと和惣菜やメインのおかずを持っていて、それを弁当箱に詰めるか、お盆に出すかの違いなので(笑)。

ごはんにしますか、パンにしますか、と選べるようなことができれば、他にはないお店になりますよね。ごはんか食パンと、それに合う惣菜が何品か小鉢でついているような定食を出せたら面白いなと思っています。店名を『題名のない定食屋』にするかはわかりませんが(笑)。

また、親戚に40年くらいの歴史がある和菓子屋がありますが、残念ながら後継ぎがいないので廃業になってしまうんですね。その技術がなくなるのはもったいないので、何かできないかなと。

例えばレシピをいただいてあんこ屋を始めるとか。あんこは味噌にも合うし、もちろんパンに合わせられますから。そうすることで彼らの歴史も続いていきますよね。

それこそ、小さいコンビニのようなことができたら面白いなと思っています。パンも惣菜も和菓子も野菜も魚屋もと、ひとつの箱の中にプロ集団がいくつもあるような。

そこには雇用が生まれるし、町を元気にしますよね。自分が自分が、ではなく、いろいろな人とタッグを組んで、みんなで笑っていられるようにしたいと思っています。私自身、皆さんがワクワクするようなことをやっていきたいですね」(杉原さん)


店名は「美味しいに言葉やストーリーはいらない。ただ現実に直に感じるおいしさを届ければそこからストーリーが始まる」という思いから名付けられたもの。日本人が昔から親しんできた味噌を使うことで、和惣菜との絶妙なペアリングを楽しむことができる「題名のないパン屋」の新感覚の食パン。

まさに定食のようにお惣菜と食パンを並べて食卓に出し、この新たな出会いを楽しんでくださいね。

問い合わせ先

  • 題名のないパン屋 
  • 営業時間/10:00~18:30 ※パンがなくなり次第終了
    定休日/月曜日
  • TEL:03-3761-3036
  • 住所/東京都大田区大森東1丁目12番地4

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
小林麻美