イギリスには、長い歴史を刻んだブランドがたくさんある。とりわけ、英国王室御用達。王室メンバーから授与された「ロイヤルワラント」ホルダーのブランドは、別格の存在として国内はもちろん、世界に愛されている。商品のクオリティ、ブランドの信頼性や継続性、適正価格などがロイヤルワラントの認定基準だが、サビルロウ界隈の老舗のテーラーを見れば、その価値が十分にわかる。私は、そんなテーラーに仕立ての凄みを感じる一方で、ウイットに富んだ商品にあふれる優れたステーショナリー&レザーグッズの「ロイヤルワラント」ホルダー“スマイソン”に一目置く。
スマイソンを象徴する「ナイルブルー」
紙製品や文房具づくりから始まった“スマイソン”は、淡く優しいブルーの紙製品が象徴的である。「ナイルブルー」と呼ばれるその紙を使った手帳は、周囲の仕事仲間も結構愛用者が多い。同業者のひとりは、ポケットに収められる小さいサイズが気に入り、もう何年も“スマイソン”の手帳一辺倒だそうだ。
そもそも、小さな手帳は、書斎のデスクに置く大きなダイアリーを持ち運びに便利なサイズに替えてつくられた。手帳の種類には、自分が飲んだワインを記せるワインノートや狩猟用のシューティングノートまでもある。いうなれば、生活をいかに楽しもうかとするユーモアがにじんでいるのだ。
アイコン的存在のカレンシーケース
トラベルグッズも豊富である。1887年の創業当初から、創業者であるフランク・スマイソンは洒落た旅行用品となる、グルーミング一式を詰め込めるモニターバッグなども開発した。そのものづくりから広がった、現在にもつながるアイディア満載のトラベルグッズが面白い。
私が使い始めたばかりの“スマイソン”のトラベルグッズは、カレンシーケース。4つのポケットをデザインしたカレンシーケースは、本来の使用目的である、旅行用に各国の紙幣を仕分けして収納するのとは別に、旅先でもらった名刺や領収書入れにも私は利用している。ケースひとつで、紙片類がすべて収まるため、本当に重宝している。
かつて、ロンドンの本店でカレンシーケースに偶然出合って以来、幾度となく本誌『メンズプレシャス』の誌面でも紹介してきたが、今、カレンシーケースを前述のように旅先の小道具として活かしている。
これらの商品は、“スマイソン”を語るうえではほんのひとかけら。長い歴史のブランドには、多くのアーカイブを備える。2019年秋冬から新しくクリエイティブディレクターに就任したルーク・ゴダディン氏が打ち出すコレクションは、さらなるアーカイブの研究から生まれたものが多い。ブランドのヘリテージを継承しつつ、革新的なアイテムをつくり始めているのだ。
たとえば、ベストセラーのひとつである先に紹介したカレンシーケースは、「マルチジップコレクション」として、機能性豊かなボディバッグやミニサイズの小物入れなどに進化。他にも、ニューヨーク発信のステンレスボトルブランド、“スウェル”とコラボレートし、レザーのボトルホルダー&ボトルセットを限定で生産した。
スマイソンとスウェルがコラボした、限定ボトルホルダー&ボトルセット
ボトルホルダーのアイディアは、ルーク・ゴダディン氏が“スマイソン”のアーカイブ資料から見つけ出したコップのセットである。1920年代に発表されたそのセットは、レザーのホルダーにシルバーコーティングされたボトルがぴったりと収まっていた。それをゴダディン氏は、見事に洗練されたボトルホルダーにつくり替えたのだ。
老舗のブランド力に安住することなく、常にユーモアあふれる商品をつくる“スマイソン”。私は、日本で新しい商品情報を得ることに加え、ロンドンの本店でも、珍しい商品に触れる喜びを味わいたい、といつも思っている。
問い合わせ先
- SMYTHSON TEL:03-4578-7274
- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
Twitter へのリンク