イタリア北部ビエッラ県の、アルプスを望む小さな街、トリヴェロにおいて創業したエルメネジルド ゼニアは、合従連衡の激しいラグジュアリーブランドの中で、今もファミリービジネスを貫く、数少ない世界企業のひとつだ。それゆえ、創立時のスピリットを忘れることなく、家業としてのプリンシプルを保つ。原材料へのこだわりも、創立以来のものだ。

生産プロセスのすべてに責任を持つ真のブランド

エルメネジルド ゼニアが所有するアキル・ファームで生産されるウールの品質は、世代毎に継続的に改良される。「安全性には万全の態勢を取っています」(チャールズ氏)。
エルメネジルド ゼニアが所有するアキル・ファームで生産されるウールの品質は、世代毎に継続的に改良される。「安全性には万全の態勢を取っています」(チャールズ氏)。

2014年、エルメネジルド ゼニアはオーストラリア東部・ニューサウスウェールズ州・ニューイングランドのアキル・ファームを買収、パートナーとなった。その意図を、エルメネジルド ゼニア本社の会長を務めるテキスタイル部門の責任者、パオロ・ゼニア氏が語る。「エルメネジルド ゼニアという、1冊の本をイメージしてみてください。クライマックスに、お客様のお召しになる最高級のスーツが紹介される。ならば、その本の序章には、牧場で一生を幸せに過ごす、1頭の羊が描かれていなければなりません。われわれの本には、美しいイントロダクションが必要なのです」。

アキル・ファームを傘下に迎えることは、ブランド自らが原毛生産者となり、すべての責任を負うことだ。それは、ブランド初のビスポークと、遠く南半球での原毛生産が、自社内で垂直統合されたことを意味する。 パートナーとなったアキル・ファームの当主、チャールズ・コヴェントリー氏は、エルメネジルド ゼニアとの関係は、自らの農場だけでなく、ニューイングランド地域によい影響があると語った。

「1893年にスコットランド出身の祖先が渡豪して以来、この地で代々、羊毛産業に携わってきました。エルメネジルド ゼニアとパートナーシップを結んだことで、より長期的な視点でファームを経営することができます」。

世界の最高級ウールの約90%が、オーストラリア産メリノ・ウールで、この普及に努めているのが非営利組織傘下の、ザ・ウールマーク・カンパニーだ。ここがメリノ・ウールを定着させた功績は大きい。同様に、早くからオーストラリア産メリノ・ウールを支援してきたのが、エルメネジルド ゼニアである。

極上のメリノ・ウールを供給する、義務と覚悟を知る

写真最奥に見える山地のひとつ手前まで、すべてアキル・ファームの地所だ。敷地面積は2,565ha(東京ドーム548個分)。約1万頭の羊と約1千頭の牛を飼育している。
写真最奥に見える山地のひとつ手前まで、すべてアキル・ファームの地所だ。敷地面積は2,565ha(東京ドーム548個分)。約1万頭の羊と約1千頭の牛を飼育している。

「私は、エルメネジルド ゼニアでのキャリアを、1981年、オーストラリアでスタートさせています。南アフリカやラテンアメリカなど、各国に生産地がありますが、オーストラリアのメリノ・ウールは、われわれのテキスタイルに不可欠です。特に最近は、高機能ファブリック、テック メリノなどに使う素材のニーズが高まってきています」(パオロ氏)

エルメネジルド ゼニアは、ハイエンドのファッションブランドであると同時に世界有数のテキスタイルメーカーだ。草を食む羊を育て、最上の一着に顧客が腕を通すまで。そのすべての過程に伴走してくれるブランドが他にあるだろうか。

※2018年秋号取材時の情報です。
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2018年秋号より
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