男の旅を至高の経験にするのも、凡庸な経験にするのも、すべてはトランクに詰め込む、モノ選びにかかっていると言っても過言ではない。徹頭徹尾エレガンスにきめるか? それとも快適さと機能を探求するか?ここで紹介する名品たちがそれぞれに備えた流儀はあなたの旅にドラマティックな記憶を添えてくれるはずだ。
男の非日常を豊かにする本物のモノ選び!
時代を超越して君臨するラグジュアリーな旅の象徴|ルイ・ヴィトンのトランクとトローリーケース
19世紀半ばに誕生した木枠のトランクから、マーク・ニューソンが手がけた最新のトローリーまで、機能とエレガンスを兼ね備えた旅行鞄をつくり続けるルイ・ヴィトン。その真価は使った者にしかわからない。
メゾンのDNAである先進性と、人々の心を和ませる遊び心が凝縮!|エルメスのバッグ
旅のバッグはできるだけ軽いほうがいい。加えていうなら、あまり高価に見えないほうがいい。そういう観点からすると決して完璧とは言い難いけれど、それでも私は今どきの機能派ナイロンバッグよりも、この革製のエルメスの『ボリード1923 ベースボール』を選んで旅に出るだろう。
エルメス〟が1923年に開発した『ボリード』は、軍用車の幌の開閉に使われていた最先端の発明、ファスナーを転用した史上初めてのバッグである。当時としては軽量かつ機能的で、自動車旅行にぴったりのバッグとして名前を売った、歴史的名品だ。それを軽やかにアレンジした写真の新作は、真っ白なボディに赤いレザーのひもを編み込むことで、まるで野球ボールのような素朴で愛らしいルックスに仕上げている。物理的に軽量なバッグや、便利なバッグはほかにもいっぱいあるけれど、こんなに心を軽やかにしてくれるバッグは、ほかにない。もちろんエルメスのクラシックなバッグは最高だが、気の向くままに過ごしたい休日の旅には、決して見る者にステイタスを誇示しない、このバッグが持つ隙が好ましいのだ。
少し前にファッションロケで訪れたキューバで、ロケバスでの長い移動の途中、粗末なバットたった1本を使いまわし、グローブも持たずに草野球に興じていた少年たちの姿を見た。私はうたたねの中夢想した。グラウンドに向かってこのバッグを思いきり放り投げ、「僕も仲間に入れてくれよ!」と叫んでいる自分を。(文・山下英介/MEN’S Preciousファッションディレクター)
旅する紳士必携の機能派カジュアルアウター|ロロ・ピアーナ『トラベラー・ジャケット』
ミリタリーを出自とするアイテムは数多い。立ち襟と4つのフロントポケットを特徴とするM-65タイプのアウターもそのひとつ。さまざまなブランドが派生型をラインナップしているが、大人が選ぶ場合、不良ぶって見えないように注意したい。ワイルドな男っぽさが魅力のM-65であっても、知性的なエレガンスなくして紳士とはなりえない。
遡ること10年余、ナポリでのこと。セルジオ・ロロ・ピアーナ氏からクルーズに招かれた。日焼け肌に真っ白のポロシャツを着てシャンパングラスを傾ける姿は、地で行く伊達男。そして、しばらくして沖で停留すると、風の強さを感じてさっとベージュのブルゾンにそでを通した。M-65=軍モノの古着というイメージがガラリと変わった瞬間だ。そのクリーミーな配色の着こなしは知性的かつエレガントであり、以来、ラグジュアリー・スポーツの手本として、亡くなった今も脳裏に焼き付いている。そして、思うのだ。旅先でロロ・ピアーナのM-65タイプのアウターをはおり、在りし日の姿に少しでも近づきたいと。
この一着は、ロロ・ピアーナが開発したウィンドメイト・ストームシステムを採用した独自のファブリックを使用。軽くて、防水・防風性にも優れる。こだわりようはファブリックメーカーとして興ったブランドの矜持でもあるだろう。そして、高水準の機能は着心地のよさをもたらし、着ている人を自然と笑顔にする力を持つ。ハッピーマインドを与えてくれるアウターは、よき旅へと導く存在だ。(文・鷲尾顕司/編集者)
観光に、ビジネスに、余裕をもたらす「もうひとつの眼」|カールツァイスの単眼鏡
若い頃の僕は視力が1.2ほどあったものだが、パソコンなどを使う生活を続けるうちに視力が低下したのも事実である。
普段は裸眼で車の運転もできるが、いざというときに遠くのものが見づらくなる。たとえば旅をしているとき、駅の構内に掲示された列車の電光掲示案内が見にくいことはないだろうか。そんなときに抜群の威力を発揮してくれるのが、このカールツァイスの単眼鏡=モノキュラーのような視覚を補助してくれる道具であろう。
昔聞いた話だが、ドイツでは弱視の人に、このモノキュラーを廉価で販売しているのだとか。
このカールツァイスのモノキュラーは、遠くのものだけではなく、近くのものをクローズアップして見る機能もある。
時計や宝飾品の取材をするようになり、時計のムーブメントや、宝石のコンディションをくっきりと見るのに、そんな素晴しい機能を持つ道具を重宝するようになった。まさにこれは「第三の眼」である。そして小型にして軽量だから、時計フェアの期間は、これをいつも首からさげて使っているのだが、ほかの人に貸してあげると、そのあまりにクリアな見え具合に、たいていの人が驚きの声をあげるのだ。
カメラのレンズのように、ヘリコイドを回すと焦点距離が変わり、遠くのものも近くのものも、自在に手に取るが如くに見えるから楽しい。オペラの舞台や、教会のモザイク画や、混み合う美術館の名画も、人の後ろからじっくり見ることができる、ありがたき第三の眼だ。(文・松山 猛/作家)
4つの通貨を整理できるビジネスマン必携のツール|スマイソンのカレンシーケース
以前、本誌の「旅の名品」特集で小さく掲載されたうえ、旅行に際して、何か必須のモノを推薦してほしいと周囲から頼まれれば、幾度となく“スマイソン”のカレンシーケースを挙げてきた。それほどまで、この商品は旅に役立つと思っているからだ。
わずか22×14cmというサイズの中に、考え抜かれた機能を備える。その名のとおり、各国の通貨を仕分けられる4つのポケットを配し、それぞれのポケットの口に4色のファスナーを色分けしてデザイン。ケースの持ち主が、ファスナーの色と通貨を決めておけば、迷わずお金を取り出せるというシンプルな仕組み。絶妙なサイズ感や、本体の革とファスナーの色の組み合わせが洒落ている。手にしたときの質感も、なんともいいのだ。「もし自分が使うならば」と、多様な使い方を想定している。私は、1度の旅で国を超えて移動することは少ないため、カレンシーケース本来の使用用途ではなく、むしろ、現地であふれる領収書やビジネスで交換した名刺、あるいは電車のチケットなどを入れるために使うだろう。
実は今まで旅先では、手持ちの小さなレザーケースに、領収書などをパンパンに詰め込んでいたが、いよいよ人にすすめるのはこれを最後に、“スマイソン”のカレンシーケースを存分に使いこなしたい。(文・矢部克已/MEN’S Preciousエグゼクティブファッションエディター)
ついた傷の数だけ、男の旅には彩りと味わいが増していく|ティファニーのシルバー小物
キーホルダーやマネークリップといった必需品から、ホイッスルやコンパスといったいざというときに重宝するものまで……。ウィメンズのイメージが強いティファニーですが、実はこのブランドには、日常生活や旅で使える定番アイテムをスターリングシルバー(シルバー925)でアレンジした、「男の小物」がたくさんあります。
それらはどれも、特別に変わったデザインというわけではありません。もちろん今どき流行りのWi-Fi機能も付いていません。むしろシルバーは放置すれば酸化によって黒ずむし、比較的やわらかいため傷もつきやすい、欠点も多い金属です。しかし磨き込まれた光沢面の艶めきと、手のひらにのせたときのほどよい重量感、そして握っていると温度がじんわりと伝わり肌になじんでいく、シルバーならではの魅力は私にとって絶対に捨てがたい要素。たとえばその弱点である傷つきやすさは、むしろ経年変化のしやすさととらえています。そしてこれらは使い込むことによって、あたかも旅を重ねたスーツケースのように、自分だけの名品に育っていくのです。
どれほどスーツケースが軽くなったとしても、必要なモノしか持っていけない旅なんて、私には耐えられないことです。自分が大好きなモノを旅先で使い込んだり、手入れしたりすることによって、旅の記憶には彩りが増していくのですから。そう、必要か必要じゃないか、という考え方でモノを選ぶのはつまらない。私はどんなに時代が変わったとしても、ティファニーのシルバー小物が必要になるような旅を、そして生活を楽しみます。(談・石川英治/スタイリスト)
旅先のグルーミングこそとことん上質にこだわる|トム フォードのハンドケアキット
旅先に忘れがちで、なくて困るものの筆頭がハンドケアグッズだ。機内の乾燥でささくれができたり、伸びた爪が無性に気になったりするのだが、現地ではなぜかよいものが手に入らない。多少値が張っても絶対に忘れないもの、むしろ持って行きたくなるものを手に入れてみてはどうか? たとえば贅沢なアリゲーターケースの中にひと通りの道具を収めた、トム フォードのハンドケアキットのような。旅先のホテルでこれを使って爪を手入れする時間は、まるで厳かな儀式のようだ。
紳士の旅カメラにおける最強の布陣はこの2台持ちだ!|ライカの『ライカM10』とinstaxチェキのインスタントカメラ
欲をいえば、男のひとり旅には2台のカメラが必要だ。旅の記憶として一生残る写真を撮るための本格派のカメラと、現地の人々と交流するためのインスタントカメラが。前者の筆頭候補がライカであることは言うまでもないが、後者には『instax SQUARE SQ10』をおすすめしたい。若者が使うチェキと侮るなかれ。こちらはシャッターを押した後で、カメラ内で好みの加工を施してからプリントができる。つまり何回だってプリントができるのだ! 旅先でこちらを見つめる純粋な眼差しに出会ったら、惜しみなく写真をプレゼントしよう。
上質な巻き物はラグジュアリーリゾートに欠かせない|エトロのリネンショール
旅先でこそありがたみに気づかされるのが、ショールという存在だ。飛行機はもちろん、海外のリゾートにあるホテルやレストランはどこも冷房が強烈。地域によっては気温が30度あっても、日陰に入ると急に肌寒くなる。日本の感覚のままで出かけると、あとで体調をくずすことにもなりかねないのだ。しかしエトロのショールを持っていけば安心。風通しのよい上質のリネンは真夏にぴったりだし、その上品な色柄は合わせるアイテムを選ばない。レストランでの食事からプールサイドでの読書まで、決して手放せない一枚になるだろう。
旅のエレガンスは細部に宿る!ジョンロブのトラベルスリッパ
ふだん、私たちがスリッパというものに過度な期待を抱くことは、まずない。だからこそ、はじめて上質なものをはいたときの驚きや快感は別格だ。たとえばジョンロブの『ナイトン』は、スリッパ用に開発した新ラスト『0117』になめらかなスエードやカーフをまとい、ソールにやや厚めのクッションを入れて仕上げた、スリッパの最高峰。しかもサイズ展開も5〜8までと豊富で、ジャストサイズではけば思わず驚嘆の声を漏らすほどに心地よい。旅先のホテルでくつろぐ時間が、これほどまでに待ち遠しくなるスリッパはほかにないだろう。
ここまで紳士的なのになんとパッカブル!|ラルディーニのトラベルスーツ
イタリアのクラシックと現代の機能が融合!
装いの基本はTPOである。そして、実践の場として際立つのが旅だ。限られたワードローブで、さまざまなシーンにどのように対応するか。それが腕の見せ所。仕事柄、海外出張がままある。たとえば、ニューヨークでの一日。朝からリゾートのハンプトンズで撮影を行い、夕方にはマンハッタンに戻って招かれた食事会に出席する。そのような場合に役立つのが、硬軟自在に着回せるスーツ。
理由は付属のケースに入れてコンパクトに持ち運べること。さらに、シワになりにくく、伸縮性に長け、移動時間が長くても苦にならない。そして、決定打となるのが、そうした優れた機能性を有しながら、紳士的な面構えをキープしていることである。この一着はイタリアの名門ラルディーニの卓越した技術力とセンスのよさが結実した、まさに旅名品。ジャケットとパンツをセパレートした装いまで視野に入れれば、着回し力は無双。ヘビーローテーションになることは予定調和だ。(文・鷲尾顕司)
決して侮れないラグジュアリー感とはき心地!|グッチのサンダル
たとえ旅先がビーチリゾートでなくとも、バスルームやホテルのプールなど、いわゆるラバーサンダルが活躍する場所は多いから、手を抜いてはならない。ヴィンテージ調のロゴが施されたリネンキャンバスのアッパーや、足にぴったりとなじむフットベッドを配したグッチのサンダルであれば、紳士の足元にふさわしい。
紳士のパジャマは英国モノに限る|デレクローズのパジャマ
たとえ普段はスエットだったとしても、旅に出るときくらいはパジャマで休むのが、紳士のたしなみであり非日常を演出する手段。中でも由緒正しき英国ブランド「デレクローズ」のパジャマは、シルクのような超長綿と白蝶貝のボタンを使った、ジェントルマンな名品。ガウンでもはおって、ロマンティックな気分に浸ろう。
都会への旅にぴったりな極上パンツ|ボレリオの ストレッチパンツ
日本に初上陸したベルギーのパンツブランド「ボレリオ」。昨今のイタリアンブランドと較べると奥ゆかしいセンスがこちらの売りで、細すぎないすそ幅や浅すぎない股上が逆に新鮮。便利だがチープすぎたり、スポーティに見えがちな化繊のスラックスを、ここまで洗練させられるブランドは、そうはないだろう。
カリグラフィー入りのナイロンを使った名品バッグ|ベルルッティのバックパック
ベルルッティからナイロン素材のバックパックが登場した。しかしこのブランドが、ただ軽いだけのバッグなどつくるはずもない。なんとお得意のカリグラフィー模様を施したナイロンを採用することで、今までにない嗜好品としてのバックパックを生み出したのだ。その圧倒的な機動力と、愛でたくなるような味わいは、男の旅をもっと楽しくしてくれるはずだ。
名門ならではの機能と品格が宿る!|ジー ゼニアのメリノウールTシャツ
通気性がよく、汗をかいてもべたつかず、においも残らない……。そんな天然の機能素材スーパーファインメリノウールに、ジー ゼニアがさらに最新技術を施して、真夏にぴったりの素材「テクノメリノ」が誕生! ジャケットをはおってシックにきめても、ハードなスポーツに興じてもよい、唯一のTシャツだ。
これ1本で、男の旅はもっと自由になる!|ディージョのナイフ
重さ37gという圧倒的な軽さと、安全性、そして美しいデザインを併せ持った、フランスのブランド「ディージョ」のナイフ。アウトドアや秘境への旅だけではなく、手紙の封を開いたり、市場で買ったリンゴを剝いたり、買った洋服のタグを切ったりと、その用途は無限だ。ナイフという道具の魅力を、改めて感じてほしい。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2018年夏号より
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- 撮影/戸田嘉昭・唐澤光也(パイルドライバー) スタイリスト/石川英治(tablerockstudio)