電気とコネクティビティの時代になっても、ハイパー(超)がつくようなスポーツカーの人気は衰えない。
理由はファッションと似ているかもしれない。
スポーツカーはたしかにつくるひとの英知とセンスの結晶だが、それ自体で存在するのでなく、乗るひとと引き立て合う関係にあるからだ。
スピードがほしければ、ハッチバックやSUVだってかなりいい線いっている。でも、それは機能的なアウトフィットのようなものだ。山ならともかく、洒落者は街で生き延びていく必要がある。そのために、たとえば、地中海のリゾートを車名にしたフェラーリ『ポルトフィーノ』のドライビングシートにおさまるといってもいい。
スクデリア・フェラーリに所属したF1ドライバーたちには、普段もフェラーリを運転する者が少なくない。究極のマシンを思う存分サーキットで振り回せるのに、なぜいつもフェラーリに……という疑問への答えは、それが凡百のクルマと明らかに一線を画したスポーツカーだから、である。
人格が埋没しないために、自分の個性が生存していくために、私たちはスポーツカーを選ぶ。美しく、速く、感動を呼び、唯一無二の価値を持つこと。自分たちが目ざしてきた生き方とぴったり重なると思ったひとのために、スポーツカーは存在するのだ。
ゆえにスポーツカーには常に豊かなバリエーションが存在する。
16気筒とか12気筒がすべてではない。6気筒もあれば、ハイブリッドもある。価値観が多様化するなかで、今ほどスポーツカー選びが楽しい時代はない、ともいえる。自分に最もしっくりするモデルは何か。真剣にクルマ選びに向き合ってみる価値は十分にある。(ライフスタイルジャーナリスト・小川フミオ)
フェラーリ『ポルトフィーノ』
リースやロケで毎日のようにクルマを使う僕。2台持ちは大変だけど、夢を叶えるなら「物欲の最終目標」フェラーリ。それも後席付きでオープンにもなるV8の『ポルトフィーノ』で。昔、先代の『カリフォルニアT』に試乗したときと比べると中低速の力強さが増して、そのぶん静かな印象。V12モデルと違い、パートナーと普通に会話できるのがいいですね。それでも踏めばいい音が聴けて、オープンでも堅牢な剛性を保ったまま気持ちよく走れる。前よりもさらによくなっていて、う〜んこれはヤバいっ!
あと、キャビンも窮屈な感じがなく、ドレスアップしても運転しやすいのは新しい発見でした。僕ならボディは黒、内装はコンソールを黒で、ほかの部分はライトブラウンでコーディネートします。自分のスタイルに近づける作業が、また楽しいんですよね。(スタイリスト・櫻井賢之)
マクラーレン『570Sスパイダー』
牽強付会を承知で、英国が生み出したものの典型は、ロックとバブアーだと思っている。アメリカ生まれのロカビリーやロックンロールは、ビートルズを筆頭とした英国のバンドたちによってロックとして磨かれ、世界中に広がり、今日まで続いている。3〜5ピースのバンドによって生み出される、8ビート主体のサウンド。そこに、独特な香りのワックスドクロスを堅持するバブアーに通じる価値観を看取してしまう。
その発想はシンプルで、適度に粗野であり、そして頑固。マクラーレンのコックピット然としたシートに収まり、肉薄する振動とサウンドに触れたとき、それら同様の「英国感」を覚えた。クルマ本来のありようと、そこから生み出される快楽が、ごく直截に伝わる。英国発のラグジュアリー・ヴィークルの真価とはこれかと、深く納得した。(編集者 菅原幸裕)
マセラティ『グランカブリオ』
滑らかで粘るように加速し、さらにアクセルを踏み込むと鳩尾にまで響く爆音。ふだん、SUVを運転する自分にとって、『グランカブリオ』の低い視界は、久しぶりに味わうダイナミックなスピード感があり、憧れに過ぎなかった車が、今すぐにでも愛車にしたいと思わせる瞬間だった。かつて、2シーターの『スパイダー』を一日中試乗したが、その小気味よさとは異なる「重さ」も心地よかった。
グリルが印象的なフロントの面構えや、テールのボリューム感が、あまりにもフォトジェニック。仕立てのスーツにたとえれば、大きなラペルをデザインし、体をツヤっぽいラインに描く感覚である。オールレザーの真っ赤な内装は、派手な裏地を選んだかのようだ。トスカーナ州に多い、糸杉に挟まれた一本道を、いつかこの車で快走したい!(メンズプレシャス エグゼクティブ ファッションエディター 矢部克已)
アルピーヌ『A110』
いわゆるハイエンド・スポーツカーというものに苦手意識を持っている。だってルックスも乗っている人も少々誇示的。下品な言い方をすると、「オラついてる」んだもの。しかし生まれて初めて試乗したハイエンド・スポーツカー、アルピーヌ『A110』は、そんな私の感覚が嫉妬に過ぎなかったことに気づかせてくれた。ロングノーズすぎないボディラインや質実剛健な内装はまったく威圧感がなく、愛嬌すら感じさせる。街の風景に溶け込んで、純粋に運転を楽しめるのだ。体を包み込むようなシートに身を委ね、アクセルを踏み込むと、生まれて初めての解放感が押し寄せる。このルックスと乗り心地を私の専門分野である靴にたとえるならば、フィット感抜群で自然と次なる一歩を踏み出したくなるオールデンのモディファイドラストといったところだろうか?(メンズプレシャス クリエイティブディレクター 山下英介)
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2019年夏号より
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- クレジット :
- 撮影/尾形和美 取材・文/林 公美子 構成/櫻井 香