オリスはスイスでも数少ない独立系時計ブランドで、現在は機械式時計しかつくらない。1904年の創業以来270種類の自社製ムーブメントをつくってきたブランドには、プライドがあってしかるべきだ。そのオリスが創業110周年につくったのが「10日巻きの自社製手巻きムーブメント」である。ライフスタイルにもよるが、10日間も止まらない腕時計は、一年中いつでも準備万端で着用に備えられる。
9月上旬、中国・上海に各国のジャーナリストが集まったオリスの新作発表会。ロルフ・スチューダー共同経営責任者により披露されたのは、自社製ムーブメントの最新版「キャリバー115」を搭載した「ビッグクラウンプロパイロットX キャリバー115」であった。このキャリバーのルーツが、まさに2014年に初公開された「キャリバー110」である。10日間=240時間のパワーリザーブという非凡な性能で、小生をあっと言わせたキャリバーだ。さらにはノンリニア・パワーリザーブ表示という、オリス特許取得のテクノロジーも注目であった。
画期的なアップデートを遂げた、オリス「ビッグクラウン プロパイロットX キャリバー115」
それから毎年、付加機能を加えたアップデート版が発表されたのだが、第6弾である今回の「キャリバー115」は画期的だ。それは本格的で本質的な“スケルトン”のムーブメントなのである。スケルトンは腕時計の世界では伝統的な“装飾技法”として扱われてきた。懐中時計の時代から、既存のムーブメントを徹底的に骨抜きし、彫金を施したスケルトン(仏語でスケレット)時計は、視覚的に造形を楽しむ対象としてコレクターに珍重される。つまりは「ムーブメントを芸術的に透かす」ことに意味がある。
性能だけでなく視覚でも楽しめるようになっているケースバック
一方で「キャリバー115」は全くの別のタクティクスによりスケルトン化した稀有な例だ。なぜならこのスケルトンは視線を透過させることよりも「いままで見えなかった部分を見せる」ことに重きを置いていることが一目瞭然だからだ。つまり「キャリバー110」から始まった自社キャリバーの大看板、10日間パワーリザーブのユニットを、完全に晒したのである。スケルトンはそのための手段なのであり、装飾のためなどではない。オリスらしいこの主張を補強するように、見える部分のブリッジにあえて面取りすら行わないことにした。断ち落としのようにみえる断面は、それが構造材であることの確認だ。装飾性を拒否することで、オリスは「本質的なスケルトン」をつくったのである。
手袋をしたままでも掴める大きなリューズ
表側から見ると、12時に端を接したゼンマイの円弧が文字盤の中心=時分針の根元を超えて6時側に越境している。常識を無視したような構造のダイナミズムを持つスケルトン・ムーブメントは、滅多に見られるものではない。そして3時側には、文字盤の半径いっぱいにサブシダリー・ダイヤルを広げた、特許の“ノンリニア・パワーリザーブ表示”が寄り添う。このインジケーターは、残量が少なくなるにつれて幅広く、より緻密に表示を行なう。
どこか荒々しさを感じさせるムーブメント
スケルトン香箱の中の、ぎりぎりに巻き上がった時と10日目のゼンマイの様相の違いを、インジケーターを参照しながら確認できるのである。その両方を眺めながら、小生も手に取り、自分の指で巻き上げてみると、「ビッグクラウンプロパイロットX キャリバー115」の大きなリューズは、極めて有効に官能的である。必要のためだけでなく明らかに「巻き上げるのが楽しい」。巻き上げを可視化するという、スケルトンであることの絶対の理由があるのだ。
スチューダー氏は、この時計について「貴石や華美な仕上げに費用をかけるのではなく、時計そのものに職人の情熱と時間と手間をかけ、実用性と時計の本質を追求した腕時計をつくっているオリスの姿勢をそのまま体現している」と語る。まさにその通りの、オリスらしいスケルトンだ。外装はチタンであり、傷つきにくく軽い。オリスのこの腕時計の居場所は、コレクションボックスの中ではなく、持ち主の腕にほかならないのである。
問い合わせ先
- オリスジャパン TEL:03-6260-6876
- TEXT :
- 並木浩一 時計ジャーナリスト