10月9日より『大人の流儀 伊集院静展』が開催!
文壇を代表する作家の伊集院静氏が、2019年10月9日(水)より展覧会『大人の流儀 伊集院静展』を松屋銀座8階 イベントスクエアで開催。書斎の再現をはじめ、親交のある人々から伊集院氏へのメッセージなど、多彩なプログラムは必見。今回は特別に、ご本人から展覧会の見どころなどを伺いました。
初めて、山の上ホテルの書斎を再現
——伊集院先生が展覧会をされるのは、約20年ぶりだそうですね。
僕は過去を振り返らない性格です。基本的に捨てる人だから、今のカミさんと一緒になる前は原稿を全部処分していたからね。だってメモ用紙にもならないから。作家をしていると「数々の文学賞をおとりになって、直木賞の選考委員までされて立派じゃないですか」とおっしゃる方もいます。
だけど「それがなんだ? 自分は何者でもないから頑張ろう」という気持ちがある。作家は、なかなか一人前にはなれないんですね。
今回も4〜5年前から依頼されていたけれど、ずっと渋っていました。画家が展覧会をするのとは違うし、自分をよく見せたい気持ちが出てはいけない。北野武さんと飲んだとき、彼が「あの会場はいいよ」と言ったことがありました。武さんはかつて、この会場で絵の展覧会をしたことがあったんだね。それが後押しになったかもしれません。
ただ、カミさんが「伊集院静展をすると聞いて『まだ元気なのに』というのが正直な気持ちでした」と言っていて、それに尽きる。生前から美術館をつくる人がいるでしょう。面の皮が厚いにもほどがあるだろう、と思うからね。
——先生と縁のある方からのメッセージを展示するコーナーもあります。
武(北野)さんをはじめ長嶋(茂雄)さん、松井(秀喜)、武 豊とかね、多くの方から文章をいただいてご迷惑をおかけしています。
松井の文章を読んだんですよ。彼は会う以前から読者だったから、僕を褒めるんですよ。文章の最後に「一緒にお酒を飲んで、酔っ払って言葉が聞き取りにくくなったあたりからの伊集院さんが好きです」とあって、男同士でそのコメントはおかしいだろう、と(笑)。なんなら彼が3週間、この会場で少年野球教室をやってくれてもいいのだけれど、とも思うんだけど(笑)。
ずっと強面でやってきたから、面と向かって悪く言う勇気のある人なんかいないわけだ。どうしても褒め言葉になるから、阿川佐和子にはけなしてくれって頼んだけれど、竹内まりやさんは真面目な人だから、けなさないでしょうね。
本番までそれらの文章は読まないつもりだけど、『友達はつくらない』をテーマに書き続けているのに「なんだ、結構いるじゃねえか」って思われるかもしれないね。
——再現されている山の上ホテルの書斎も気になります。
日本刀職人の仕事場なら見応えもあるでしょうが、僕の仕事場じゃなぁ。今まで書斎は撮らせたこともなかったわけだ。これまで撮影を断ったカメラマンには恨まれるかもしれないけれど、それは大目に見ていただいて。
僕はまだまだ仕事をしないといけない作家
——先生の作品の挿絵を数多く手掛けた、イラストレーター長友啓典さんの作品も並びます。
長友さんは僕の作品の挿絵を6,000〜7,000点くらい描いてくれました。酔っ払ったとき、ポロっとこぼしたんだよね。「今年はお前の挿絵をしているから、普段の倍以上の収入があったんだよ」って。そんなに稼いでいるんだったら、割り勘じゃなくて奢ってくれたらよかったのに(笑)。
でも、原画がどこにあるのか、ずっとわからなかったんですよ。『三年坂』とか『受け月』とか初期の作品の絵が見つかったからね。だから長友さんのファンにはたまらないんじゃないかなぁ。
——作家になられる前のお仕事の軌跡も紹介されています。
うちの父親は変わっていて、直木賞受賞の賞状じゃなくて、『ギンギラギンにさりげなく』を作詞してもらった賞状は飾っているんだよ。だから作詞をしていたときにもらったトロフィーとかも残っていて展示するけれど、正直恥ずかしい。
——ご自身が考える、本展の見どころはどこですか?
50歳になってから勉強し直そうと思って、地元の山口に戻って哲学の授業を受けていたんですよ。先生が用意したテキストが並んでいるのを見て「こんなにありがたい経験をさせてもらったんだ」と、展覧会の準備を通して知りました。
それと、競輪のハズレ車券って残しておきませんけど、何かの企画で保管しておいたのを20年ぶりくらいに見たら、1レース1,000万円くらい買っていたわけだ。それを見たら「今、金がないはずだわ」っていうね。
僕が愚かなことをしてきた形跡を感じてもらえればいいけれど。まだまだ仕事をしないといけない作家というのがわかる展覧会だね。
講談社創業110周年記念、松屋創業150年記念『大人の流儀 伊集院静展』概要
会期/2019年10月9日(水)〜10月22日(火)
開催場所/松屋銀座8階 イベントスクエア
開場時間/10:00〜20:00 ※10月9日は19:00まで、最終10月22日は17:00まで。入場は閉場の30分前まで。
入場料/一般¥1,000(¥700)、高校生¥700(¥500)、中学生¥500(¥400)、小学生¥300(¥300)※( )は前売料金
住所/東京都中央区銀座3-6-1
問い合わせ先
- 松屋銀座 大代表 TEL:03-3567-1211
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 太田真三
- WRITING :
- 津島千佳