海外で見知らぬスーク(市場)をさまよい歩いているときの、たとえようもない心細さと高揚感。鼻腔を刺激するスパイスの香りは、そんなかけがえのない記憶を呼び覚ます。
見る人によって印象が変わる!世の中はエキゾチックなアイテムで溢れている!
オモーリャのアランセーター
ウール本来の脂っこい手触りは、寒風や荒波から男を守るため。その個性的な編み柄は、家族の安全や豊漁を祈願するため。そして不幸にして漁師が岸に打ち上げられたときに、それがだれの夫なのかを判別するため……。アイルランドのアラン諸島で生まれ、1000年の歴史を誇る「アランセーター」は、そんな悲しくもロマンティックな伝説とともに世界へ広まった。実は筆者はこの手の話には懐疑的な性分なのだが、初めてオモーリャのセーターに触れた瞬間、納得した。この質量は、編み手である女たちの情念だ。
「トゥアレグ族」のアクセサリーと「ベニワレン」カーペット
サハラ砂漠の遊牧民族「トゥアレグ族」がつくったシルバー製アクセサリーと、アトラス山脈の奥地に住む「ベニワレン族」が織ったラグ。近頃モロッコの人々がつくった民芸品に、世界中から注目が集まっている。それらはデザインもサイズも不ぞろいで、見る人が見れば不良品のレッテルを貼られてしまいそうなものばかりだけれど、つくり手たちの息遣いまで伝わってきそうな迫力に満ちており、目が離せない。そう、私たちはマーケティングからは決して生まれてこない、モノ本来の「におい」を嗅ぎたいんだ!
虹を封じ込めたミッソーニのニット
ミッソーニのマルチカラーニット。それは決してどこか特定の地域にインスパイアされたものでなくとも、私たちの無限のイマジネーションを搔き立てる存在だ。スパイスの薫り漂うアラブの市場。砂漠をさまよいたどり着いた豊かなオアシス。アメリカ大陸の古代都市……。そのニットが封じ込めた驚くほど多彩な色や柄は、着る人によって、または見る人によって、まったく違った印象を与えるだろう。まさにオプティカルアート。色の魔術師の異名は伊達じゃない!
エトロのショール
北インドの山岳地帯ではるか昔からつくられてきた、カシミールショール。歴代のマハラジャたちに寵愛されたその美しい紋様は、のちにヨーロッパにも伝わり、ナポレオン夫人のジョセフィーヌにも献上されたという。エトロというブランドは、そんな希少なカシミールショールの収集家だった、ジンモ・エトロ氏が設立した。本来のカシミール紋様はすでに途絶えて久しいが、彼がよみがえらせた「ペイズリー」とも呼ばれるその柄は、私たちを「空飛ぶ絨毯」のように、夢想の世界へと誘ってくれる。
「スカイストーン・トレーディング」のターコイズジュエリー
ターコイズ、またの名をトルコ石。自らの手ではコントロールできない青い空を彷彿させるこの石を、人間たちは古代から珍重し、祈りを捧げたという。その産地は世界各地に点在するが、なかでも良質な原石が出土するアメリカ大陸では、先住民たちが創意工夫を凝らして、美しいアクセサリーを生み出してきた。一口にターコイズといっても、鉱山によって出土する石の性質には大きな違いがある。青とマトリックス(不純物)とが描き出す唯一無二の模様は、まさしく自然が産み出すたったひとつの芸術なのだ。
アーミッシュの帽子
アメリカには現代においても、いまだに開拓期当時の生活様式を貫く人々が存在する。彼らの名前はアーミッシュ。その生活は自給自足が基本で、電気や自動車などは使わない。服装においても細かな規定があるらしい。なんと東京・青山のセレクトショップ「レショップ」の金子恵治バイヤーは、そんなアーミッシュがかぶっている帽子を買い付けてしまった! フラットなクラウンと、広めのブリムを特徴とするストローハットは、実に素朴なハンドメイド製。ラグジュアリーという呼び方は似つかわしくないが、大人になった今だからこそ、その本質的な贅沢さに心打たれるのだ。
※2019年春号掲載時の情報です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2019年春号より
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- クレジット :
- リード/松山 猛 撮影/戸田嘉昭(パイルドライバー) スタイリスト/石川英治(tablerockstudio)