伝統も権威も、自らの装いさえも笑い飛ばす、イギリススタイルとは?
ここで追求する英国とは、決して英国製だけではない。
それはいわば英国性(ブリティッシュネス)を備えたもの、表現である。
では、英国性とは何か。王室文化とそれに関連する伝統、またはカントリーライフなどを連想する人も多いだろう。英国製こそ英国性、という見方もあるかもしれない。
しかし、英国の本質とは、そのような表層的・明示的なものなのだろうか。
「アナーキーとは挑むことだ。社会に挑む最良の方法はコメディだ」
こう語ったのは、英国のパンクバンド、セックス・ピストルズのジョニー・ロットン。「アナーキー」は「パンク」と置き換えてもいいかもしれない。ピストルズと同時代に活動したバンド、ザ・ダムドは、ピストルズを
「どこか笑えた」と語り、ゆえに彼らのパンク性を高く評価した。
英国の笑いを語る際によく使われる、「SATIRE(サティア)」という語がある。直訳すれば「風刺」だが、そこには権力、さらには自らをとりまく社会や世界に対して、個人が笑いをもって対抗する、そんな気概が込められている。そして「SATIRE」は、英国のコメディのコアとして、連綿と受け継がれてきた。
「ポンチ絵」という和語を生んだ英国の雑誌『パンチ』の風刺画、ラジオ番組
「ザ・グーン・ショー」でピーター・セラーズが繰り出すブリティッシュ・ジョーク、TV番組『空飛ぶモンティ・パイソン』での王室や時の政治状況への容赦ないおちょくり……、メディアの歩みの中で、常に「SATIRE」を含む笑い、コメディの形が追求されてきた。
さらに、コメディ以外の領域においても、英国では「SATIRE」が息づいている。たとえばギルバート&ジョージの「リヴィング・スカルプチュア」、彼らの紳士然とした姿が表す奇妙な存在感。またはダミアン・ハーストによるホルマリン漬けの牛の半裁に込められた悪意とばかばかしさ。コンテンポラリー・アートにおいても、英国の表現には常に「SATIRE」が色濃く感じられる。
英国らしい装いを考える際にも、この「SATIRE」の感覚は鍵となるのではないか。
トレンドや伝統、またはドレスコードといったファッションにおける「権威」に、個人として対抗すること。
純粋な英国なるものへの傾倒は、むしろ「SATIRE」から遠い姿勢といえるかもしれない。
たとえば個人的な愛着や思いをもとに、古びたもの、珍妙なものをあえて装うこと。つぎ当てしたスーツを着たチャールズ皇太子の姿などは、新しさを追求するファッションに対する強烈な「SATIRE」にも見える。
「紳士の聖地にして反逆の帝国」であること、それこそが権威を風刺でもって制する、ブリティッシュネスの真髄なのだ。
- TEXT :
- 菅原幸裕 編集者
- BY :
- MEN'S PREcious2016年秋号 現代最高の伊達男たちは「英国スタイル」を着こなしているより
- クレジット :
- 撮影/小池紀行(パイルドライバー) 構成・文/菅原幸裕