大田区蒲田。工業地帯が多いからなのか、かつて青線地帯だった名残なのか、蒲田駅を中心に沼のような飲み屋街が広がる。駅の西口を出てすぐに様々な飲み屋が軒を連ねる『バーボンロード』という通りが目に入る。

誕生して50年以上! 蒲田で一番老舗のスナック

左手側の高架下にも右がぎっしり並んでいるのがわかる
左手側の高架下にも右がぎっしり並んでいるのがわかる

この地で誕生して54年。蒲田一の老舗スナックで『バーボンロード』のボス的存在が、今宵訪れる『バッカス』だ。

ローマ神話の酒神と同じ名前を冠した店は、通りから少し奥まったところにある
ローマ神話の酒神と同じ名前を冠した店は、通りから少し奥まったところにある

足を踏み入れると、赤とグレーのスツールが交互に5席置かれたカウンターと、奥に5人ほどが座れるソファ席が見える。決して広い店ではないのだが、スナックの様式美が横溢している。

可愛らしい顔立ちからは想像しづらいが、焼き鳥屋やもつ焼き屋で一人飲みをよくするという山中さん
可愛らしい顔立ちからは想像しづらいが、焼き鳥屋やもつ焼き屋で一人飲みをよくするという山中さん

今宵の美女、山中さんとさっそくハイボールで乾杯だ。

今もカウンターに立つみどり大ママは、この辺のボス的存在

飲み始めて間もなく、お通し2品が供された。

みどり大ママ手作りのポテトサラダとほうれん草のごま和え
みどり大ママ手作りのポテトサラダとほうれん草のごま和え

『バッカス』は、この店をオープンさせたみどり大ママと実の娘である理香子ママで切り盛りしている。毎日内容が変わる手作りのお通しを作るのはみどり大ママの仕事だという。
ポテトサラダの食感を残したゴロゴロのじゃがいも、りんごの歯ごたえが楽しい。ほうれん草のごま和えも出汁のきいた上品な味付けで、「おいしい」と客の間で評判になっているのも納得だ。

みどり大ママの胸元に光るブローチは、20年以上前に客からプレゼントされたもの
みどり大ママの胸元に光るブローチは、20年以上前に客からプレゼントされたもの

「何年もカウンターの中に立ってたから、足腰は丈夫なのよ」
そう笑うみどり大ママの背筋はピンと伸びていて、御年84歳には見えない。今も毎日飲むほど元気で「止めろとは言われるけれど、今さら止めて何が変わるんだ」と、煙草も吸う。
そんなみどり大ママは蒲田で生まれ、19歳で秋田へ嫁ぐ。しかし東京生まれだったこともあって秋田は水が合わず、東京に戻って銀座で水商売の裏方として働いていた。そのノウハウを携えて、地元の蒲田に『バッカス』をオープンさせたのが昭和40年。

滋味深いみどり大ママの話に引き込まれる
滋味深いみどり大ママの話に引き込まれる

54年以上店を続けられているのは「お客さんに助けられたから」とみどり大ママは言う。しかし地方から出てきて東京で働く常連が残業した時、たくさんのおにぎりを作って差し入れるなど、みどり大ママも誰かを助けている。その様子はまるで東京の母だ。

そのせいなのか、ここ1年ほどで客層が少し若返っているという。

「最近の若い人は、腹を割って話せる友人が少ないのかもね。ほっとする場所を求めているようで、うちがそんな場所になれればと思っています」

理香子ママが操作しているソーダメーカーは常連からのプレゼント。「大ママが毎日炭酸水を重そうに抱えて店に来ている姿を見かねてね」とのこと
理香子ママが操作しているソーダメーカーは常連からのプレゼント。「大ママが毎日炭酸水を重そうに抱えて店に来ている姿を見かねてね」とのこと

まだ20代の山中さんもその心意気に感銘したのか、口を開いた。

「スナックってどんなつまらない話でも聞いてくれる懐の深さがあると思うんです。その中でもこの店は特に包容力がありますね」

理香子ママにも話を聞いてみたい。それは後編でお送りする。

【バッカス】

バッカス

問い合わせ先

  • バッカス TEL:03-3735-4060​
    住所/東京都大田区西蒲田7-70-1
    営業時間/19:00〜25:00
    定休日/日曜
    メニュー:お通し¥2,000、セット料金¥2,000、アルコールグラス各種¥800、ウイスキーボトル¥6,000、焼酎ボトル¥5,000、氷・炭酸セット¥1,000(おかわり自由)、カラオケ1曲¥200
この記事の執筆者
フリーランスのライター・エディターとして10年以上に渡って女性誌を中心に活躍。MEN'S Preciousでは女性ならではの視点で現代紳士に必要なライフスタイルや、アイテムを提案する。
PHOTO :
小倉雄一郎