近年、世界中では「自宅の中でいかに有意義に過ごすか」というテーマが注目されています。

日本でも、欧米から流入しているリビングと一続きの庭や、離れの空間といった庭をくつろぎスペースとする考え方が浸透してきており、庭づくりの観点からすれば、憩いの場としての「過ごす庭」がトレンドになっています。

そこで今回は、過ごす庭のデザインを得意とする、株式会社彩園のデザイナー 木下恵介さんに、そのトレンドの背景や事例、よりラグジュアリーに庭をつくるポイントなどをうかがいました。

「過ごす庭」のトレンドの背景

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「過ごす庭」がトレンド

いま、「過ごす庭」がトレンドといわれていますが、そのトレンドの背景にはどんなことがあるのでしょうか? 木下さんにうかがいました。

「最近では、リビングを広くとって、家族それぞれが多用途に使い、それぞれの時間を過ごす“リビ充家族”という言葉がトレンド。これに象徴されるように、大切な人との時間を楽しむため、リビングが大事な場所となり、家の価値が心の豊かさに重点を置いたものとなってきました。

またZEH(※)が標準化の高気密住宅では、省エネ効果は高まりますが、ますます自然から離れていく。その反動として自然を求めるようになったのが、昨今のアウトドアブームやグランピングといった、余暇の過ごし方ではないでしょうか。そこで、自宅にいながら身近に風・光・水・緑を感じることができ、家族と時間を共有できる、内でも外でもないアウトドアリビングに憧れるようになったとも考えられます。

五感を刺激するいわゆる『過ごす庭』は、心癒す場所として、また家族と時間を共有する場所として、求められるようになりました」

※ZEH(ゼッチ)…Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略。外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅。(出典:資源エネルギー庁

トレンドの「過ごす庭」とはどんな庭?実例をご紹介

そこで気になるのが、過ごす庭とは、具体的にどんな庭なのかということ。木下さんがこれまでデザインしてきた「過ごす庭」の事例を見ていきましょう。

■1:ガーデンルームとデッキで「ガーデンルームとせり出したデッキ」作りを実現

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庭で優雅にバーベキュー

「Aさん宅は、リビングの掃出し窓からは広い庭が広がっているけれど、段差もあり使い勝手が悪く、人が庭に出ることがありませんでした。そこでご要望は『庭でくつろげるような空間』というものでした。

全天候に対応できるガーデンルームと、せり出したデッキを設け、アクセントにピザ窯付きのカウンターテーブルを作成。全体を包み込むように植栽し、自然を近くに感じる。木立からの木漏れ日や蒸散作用で、気温の低い風を家の中に取り込むデザインにしました」

■2:壁面緑化しデッキで家族4人が過ごせるスペースを確保

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家族4人が過ごせるデッキ

「Bさん宅は、ダイニングキッチンからの掃出し窓からは、お向かいのリビングが丸見え。視線が気になるため、いつもカーテンを閉めている状態でした。カーテンを開けて外の景色を楽しめるような生活をしたい。外でお茶を楽しんだりできるような、プライベート空間にしたいというご要望がありました。

そこで雨を防ぐルーフを設け、日差しを和らげるシェードをかける。窓の正面に壁面緑化を設置し、デッキで家族4人が過ごせるスペースを確保しました」

■3:お客様をおもてなしするバーベキューやお茶が楽しめる空間作り

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上質なおもてなしの空間

「Cさん宅には、何もないただ草で覆われた庭がありました。お仕事の関係でたくさんのお客さんが来るため、お庭でおもてなしができるスペースをつくりたい。メンテナンスが楽でバーベキューやお茶が楽しめる空間にしたい。道路からの視線を遮りプライベート空間にしたいというご要望がありました。

そこで、タイルテラスでステージをつくり、ガーデンファニチャーとパラソルを設置。外で料理ができるよう、バーベキュー炉、ガーデンシンクと電源を設けました。外周に目隠しとなるウッドフェンスに植栽を行いました」

「過ごす庭」をよりラグジュアリーにするデザインのポイント

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ラグジュアリーな過ごす庭とは?

過ごす庭は、デザインによって、より贅沢に変わるはず。デザインのポイントを教えていただきました。

■1:スタイルに合わせて素材と色を選ぶ

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素材と色はスタイルに合わせて

「スタイルに合わせて素材と色を選びます。しかし決して多用しないこと。木や石材といった質感のあるものをアクセントにし、無色彩を効果的に使うことが大切です」

■2:機能とデザインを両立させる

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夜は照明でよりラグジュアリーな雰囲気を演出

「くつろぎの空間は、同時にプライベート空間をつくることが重要です。そこで機能とデザインを両立させることがポイントになります。

例えば、ルーフを設けることでラグジュアリーになるうえに、きつい日差しや向かいの家の2階からの視線も遮ることができます。

また外周を目隠しになる壁で囲い、床は段差なく広げ、その間を植栽でつなげ、各所に照明を入れれば、昼夜で別の雰囲気を演出できます。すべてのアイテムが連動して相乗効果を出します。ただ、閉鎖的にならないように、格子やルーバー(細長い羽板を平行に並べた戸状のもの)を使い『ぬけ感』を出すのもポイントです」

■3:細かな演出をする

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ガーデンファニチャーで演出を

「デザインパネルやオブジェをアイストップ(Eye Stop/目に止まるもの)にしたり、ウォーターガーデンにおいては水のせせらぎ、その他バイオエタノール暖炉(薪ではなくバイオエタノールというアルコールの液体による暖炉)で炎のゆらぎを楽しんだりするのもいいですね。そしてガーデンファ二チャーでくつろぎの空間をつくれば完成です」

自宅に庭があるなら、「過ごす庭」のトレンドは押さえておきたいところ。そして、くつろぎの空間は、窓を閉め切っているリビングのなかだけでなく、もっと外にも広がっていく可能性が見えてきました。まだまだ自宅はくつろげる場所に変われるかもしれませんよ!

木下恵介さん
株式会社彩園 デザイナー
(きのした けいすけ)幼少期、日本有数の植木の産地福岡県の田主丸町で緑を身近に感じて過ごす。大学卒業後、緑を生業にしたいと一念発起。造園会社で修業。日本庭園や和風庭園の基礎を学ぶ。独立後は自ら設計および施工をしていくなかで多くのお客様と交流し、住環境を建築物だけで終わらすのはもったいないと庭の在り方を模索。自身も家族を持つことで、眺める庭ではなく、大切な人と過ごす為の庭を提案し続ける。休みの日はもっぱらキャンプ。仕事で十分緑に触れているのに、休みの日でも自然を求めて野山に出かけるので、妻は多少呆れ気味。 実のところ野外で飲むお酒を楽しみにしている41歳。三協立山アルミ2016デザイン大賞、ユニソンガーデンコンテスト2016ゴールド賞を受賞。

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この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
EDIT :
安念美和子、榊原淳
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