手縫いでないと表現できないM字型のステッチ。レザーを3枚貼り合わせた上で丹念に処理された、ハンドルの分厚いコバ。メタルパーツや化繊を極力使わず際立たせた、自然なレザーの風合い……。このブランドの製品が人々の心を奪うのは、その意匠が単なる机上から生まれたデザインではなく、「クラフツマンシップそのもの」の象徴だからだ。ものづくりを知り尽くしたデザイナーと、それに応えるファクトリーとがあって、はじめて成り立つブランドなのである。

モロー・パリを知る3つのキーワード

■1:至高のクラフツマンシップ

フランス東部にあるモロー・パリの工房にて。取材時はヴァカンス時期とあって閑散としていたが、いつもは6~7人の職人が腕を振るっているという。今回取材の対応をしてくれたのは、全工程の製作をひとりで行える腕利き職人のコリンヌ・ビュジイさん(写真)。ハンドルのハンドステッチから、コバ塗り、ライニングへの箔押し、レザーのカッティングまで、その工程はほとんど手作業で行われる。
フランス東部にあるモロー・パリの工房にて。取材時はヴァカンス時期とあって閑散としていたが、いつもは6~7人の職人が腕を振るっているという。今回取材の対応をしてくれたのは、全工程の製作をひとりで行える腕利き職人のコリンヌ・ビュジイさん(写真)。ハンドルのハンドステッチから、コバ塗り、ライニングへの箔押し、レザーのカッティングまで、その工程はほとんど手作業で行われる。撮影/山下郁夫

そんなこちらのファクトリーは、美しい緑と水に囲まれたフランス東部の小都市にある。働く職人はわずか6~7人。ひとつのプロダクトのためにときには1か月費やすというほど、時間をかけたものづくりを実践している。ちなみにブランドを代表するM字のステッチは、19世紀にトランクを軽量化するために、今まで釘を使っていたパーツの接合部を、頑丈な糸で縫い出したことに由来するという。つまり釘ほどに丈夫なステッチ!

筆者が所有するモロー・パリのトートバッグは、重たいPCや雑誌を入れて4年間ほぼ毎日のように使用しているが、そのハンドルや、ボディとの縫い目にはひとつの糸のほつれやダメージもない。日々味わいを増していくこのバッグを眺めるたびに、私は誇りを持って働くフランスの職人たちに感謝するのである。

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WRITING :
山下英介