背中がシートに押し付けられる圧倒的な加速、体の隅々に染み渡るエンジン音、絨毯の上を歩いているかのような乗り心地、不整地を難なくクリアする走破性……。卓越した性能を備えるクルマは、その素性をデザインにおいても言外ににおわせている。それは、同じくモノのよさ、美しさを体現したファッションアイテムと組み合わせて使うことで響き合い、つくり手の想像を超える感動を、われわれにもたらす。名車と名品には、確かな相関関係があるのだ。
自分だけのストーリーを思い描いてスタイリング!
憧れの一台を手に入れることがゴールではなく、身につけるアイテムにとことんこだわることで、理想のスタイルを構築する。それは大人の男に許された、究極の遊びと言えるだろう。スタイルは、自由だ。クルマの魅力を読み解き、その上で「自分ならこう使う」というストーリーを思い描き、ふさわしいアイテムをそろえていけばいい。たとえばこのページで紹介している『フェラーリ・ローマ』は、好景気と戦争の反動で人々の暮らしが大きく変化した、1950年代のイタリア文化にインスピレーションを得ている。同国のスター、マルチェロ・マストロヤンニをまねて、現代の「甘い生活」をイメージした。フェラーリを含めて5台の名車を取り上げているこの特集を参考に、あなただけの至高のスタイルを目ざしてほしい。
フェラーリ・ローマ|目ざすはマストロヤンニ!「甘いドライブ生活」のすすめ
フェラーリ史上最もエレガンスを極めたモデルが、日本上陸したばかりの『フェラーリ・ローマ』だ。流麗なボディラインは速さを予見させるだけでなく、ますます妖艶。室内には、一糸乱れぬ完璧なステッチで縫製された極上のレザーが敷き詰められている。そこはコクピットとして座りがいいだけでなく、甘い言葉をささやくにもふさわしい、クラス感のあるコンパートメントなのだ。このタキシードをまとったスーパーカーを着こなすなら、太陽の香りが漂うリネンシャツにパナマハットなんてどうだろう。トゥアレグのシルバーブレスレットでこなれ感も効かせつつ。マネーカードはポケットサイズの小ぶりなチャームにインして、往年の軟派師よろしく手ぶらで乗り込もう。
FERRARI ROMA
ボディサイズ:全長4,656×全幅1,974×全高1,301mm
車両重量:1,472kg
エンジン:V型8気筒ツインターボ
総排気量:3,855㏄
最高出力:456kW(620cv)/5,750~7,500rpm
最大トルク:760Nm/3,000~5,750rpm
トランスミッション:8速DCT
(フェラーリ・ジャパン)
アストンマーティン『DBS スーパーレッジェーラ ヴォランテ』|諜報部員の秘密兵器はカジュアルな装いにも合う!
アストンマーティンは100年以上にわたって上質で高性能なスポーツカーをつくり続ける、イギリスの由緒正しきカーブランドだ。日本でカーマニア以外にもその名が広く知られているのは、なんといってもスパイ映画『007』シリーズでの活躍が、人々の印象に残っているからだろう。そんなアストンマーティンの伝統と映画のイメージを色濃く宿す最新モデルにして、洒脱な印象も漂わせるのが、『DBS スーパーレッジェーラ ヴォランテ』(「ヴォランテ」はコンバーチブルタイプに与えられる名称)。大排気量のV型エンジンは最高出力725馬力というハイスペックで、アグレッシブにして気品漂うプロポーションを構成するボディパーツには、カーボンコンポジット(炭素繊維複合材)やアルミニウムを使用し、軽量化を図っている。スーツをはおった諜報部員の秘密兵器としての資質は言わずもがな。それでいてボディはオープントップにもなる「ヴォランテ」というところが、実にラグジュアリー。幌を開ければ抜け感が演出できるし、着こなしの幅も広がる。
写真のモデルのボディカラーは、「フロステッド・グラス・ブルー」。陽光にも夜間照明にも映える、美しい青だ。これなら、上質なアイテムを組み合わせた大人のカジュアルスタイルを格上げしてくれること確実。リゾートで遊ぶカジュアルなファッションの自由人を装い、潜入捜査に励む諜報部員という、自分だけの裏設定を楽しむのも一興だ。
カジュアルを『007』由来の高機能小物で武装せよ
「ヴォランテ」には「空を飛ぶ」という意味がある。12気筒のパワフルなエキゾーストノートを聴きながら、飛ぶように風を浴びて走るなら、きれいめカジュアル×大ぶりサングラスがちょうどいい。ブルーデニムの足元はくだけすぎないチャッカブーツで紳士らしく。写真の靴はクロケット&ジョーンズのものだが、同ブランドのドレスシューズをボンドが劇中ではいている。タイムピースはオメガ『シーマスター ダイバー 300M 007エディション』(ケース径/42mm)。最新作に登場するモデルだ。闘うボンドにふさわしく堅牢かつ軽量で、もちろん精度は最高水準。ノスタルジックなメッシュベルト&ミリタリー調と、くすぐる要素満載だ。
ASTON MARTIN DBS SUPERLEGGERA VOLANTE
ボディサイズ:全長4,715×全幅1,970×全高1,295mm
車両重量:1,863kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5,204cc
最高出力:533kW(725ps)/6,500rpm
最大トルク:900Nm/5,000rpm
トランスミッション:8速AT
価格:¥34,559,455(アストンマーティンジャパン)
マクラーレン『マクラーレンGT』|オン・オフ自在なスーパーカーで一日を駆ける!
2019年ラインアップに加わった『マクラーレンGT』。最大の特徴は、ラゲッジスペースが充実していること。マクラーレンがつくるクルマは、いずれもキャビンの後ろにエンジンを搭載した、2座のミッドシップスポーツカーだ。『マクラーレンGT』もそれは変わらないものの、前部トランクに加えて、エンジン上方にラゲッジスペースを備えているところが新しい。
快適性の追求にも抜かりなし。すべてのマクラーレン車に共通の、強固なカーボンファイバー製シャシーは、サイドシル(ドア部分の下にある敷居)が盛り上がっているが、『マクラーレンGT』は従来モデルよりも低い。ドアは上に大きく跳ね上がるので、乗り降りの際に体を不自然にひねる必要はなく、慣れればそれも美しい所作となる。ドライブも快適だ。路面からの衝撃を巧みに吸収し、ハンドルのわずかな動きに応じて滑らかに、正確に応答する。つまり、疲れにくい。だから長距離を旅するのにも向いているし、普段使いにも無理がない。オンスタイルの小物とオフスタイルの小物を、前と後ろのラゲッジスペースに分けて収納しておけば、多忙な男の生活がこれ一台で完結するのだ。
その際、小物は上質な素材で、しっかりしたつくりのものを選ぼう。マクラーレンの思想に則のっとったスタイリングで、振る舞いはいっそうスマートになる。
外からチラ見えするリアには厳選した映え小物だけを
内部が透けるガラス製ハッチからは見映えのよいものしか覗かせたくない。だから積み込むのは少数精鋭が基本だ。おすすめはスーツにもジャケパンにもハマるベルルッティのブリーフケース『アンジュール ミニ』。ヴェネチアンレザーの濃厚な色艶とスポーティ・クラシックないで立ちが、クルマの世界観に見合う。バッグにPCを入れていても専用ベルトで固定できるので、運転中も安心だ。急な天候変化に備えて、パッカブルのフード付きライトコートもイン。
フロントラゲッジには旅行気分と遊び心を忍ばせて
150Lもの容量があるフロントラゲッジは使いで十分。深さがあるからボストンやトロリーなど自立するバッグが出し入れしやすい。写真はベルルッティの新アイコン『シグネチャーキャンバス』シリーズのトラベルバッグ『アバンチュール』。グルーミングアイテムと着替えをセットしておけば、仕事帰りに足を延ばして温泉へ、も気軽だ。スポーティ・ラグジュアリーなソフトカーフのダブルバックルスニーカーが、軽快な気分を盛り上げてくれる。
MCLAREN MCLAREN GT
ボディサイズ:全長4,683×全幅2,045×全高1,213mm
車両重量:1,466kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3,994cc
最高出力:456kW(620ps)/7,500rpm
最大トルク:630Nm/5,500~6,500rpm
トランスミッション:7速DCT
価格:¥24,045,455(マクラーレン・オートモーティブ)
ベントレー『コンチネンタルGT』|英国の洗練を颯爽と乗りこなすテクニック
運転席の頭上部分から、トランクにかけてなだらかな曲線を描くクーペは、斜め後ろからの角度が特に美しい。それは、ベントレー『コンチネンタルGT』に乗ればよくわかる。余裕のあるサイズでクーペの持ち味を存分に表現したそのたたずまいは、ルーフラインだけでなく、メリハリの効いたサイドのラインの効果も加わり、優美で主張のあるシルエットを構築している。まるでビスポークのスーツをまとった紳士のように。
気高き『コンチネンタルGT』のボンネットの下には、静かに回る大排気量エンジンが収まっている。クラフツマンシップあふれる室内に身を置き、外界と隔絶された静寂の中で、アクセルペダルをじんわりと踏み込んだときの加速の心地よさは格別だ。
それだけではない。高速道路での加速などでアクセルペダルを深く踏み込めば、スーパー・スポーツカーさながらの鋭い走りが味わえる。不安を感じることは、まずない。最新の技術を用いたエアサスペンションと電子制御式可変ダンパー、そして4WDによる安定感は、男の魂を揺さぶるのに十分すぎる。
かつて、富裕層の子息を中心とした、血気盛んなドライバーたちによるレース活動、そしてイギリス留学時代の白洲次郎がハンドルを握り、土と油まみれになって大陸を駆けたベントレーの伝説が、現代的な洗練を極めてわれわれをグランドツーリングへと誘う。イギリスの伝統を今に伝えるラグジュアリーブランドの小物があれば、週末のドライブプランは完成したも同然だ。『コンチネンタルGT』と名品による、華麗なるモダン・ブリティッシュの世界を堪能あれ!
選ぶべきは今どきなエッジを効かせたクラシックモダン
従来型以上にスポーティなエレガントさを放つ、洗練されたモダン、ベントレー。よりモダンにコーディネートするなら、合わせる小物はトラディショナルな英国ブランドの中でも、クールなエッジを効かせたモデルがいい。たとえば、足元はドライビングシューズ代わりに素足ではける、実にやわらかいはき心地のスエードローファー、ジョン ロブ『ヘンドラ』。レザーソールのきちんと感とリラックス感を兼ね備える。名門フォックス・アンブレラの傘なら、ソリッドなシルバーハンドルタイプが似合うだろう。ミッドナイトブルーのグローブ・トロッターは、今年の限定コレクションに登場した新色だ。この英国的な品のよさははずせない。
BENTLEY CONTINENTAL GT
ボディサイズ:全長4,880×全幅1,965×全高1,405mm
車両重量:2,260kg
エンジン:W型12気筒ツインターボ
総排気量:5,950cc
最高出力:467kW(635ps)/6,000rpm
最大トルク:900Nm/1,350~4,500rpm
トランスミッション:8速DCT
価格:¥24,370,000~(ベントレーコール)
ランドローバー『ディフェンダー』|極限を楽しむ男には、クールでタフなギアが必要だ!
第二次世界大戦で活躍したアメリカのウイリス『MB』(ジープ『ラングラー』の源流)に影響を受けて開発されたのが、イギリスの『ランドローバー』だ。終戦直後の鉄不足で、軽いがプレス加工に難しさのあるアルミ製パネルを多用した結果、直線的で角張ったスタイリングになった。それは1990年に車名が『ディフェンダー』となっても変わることはなく、むしろその無骨さが無二の魅力となり、生産が終わる2017年まで多くのファンに愛されてきた。シンプルで男らしく、水にどっぷり浸かっても走れるタフな機能。スポーツウォッチがそうであるように、『ディフェンダー』は男のスタイルに冒険の志を付加する、格好のアイテムだ。
それだけに、昨秋の限定先行予約を経て、今年から日本での正式販売が始まった2代目『ディフェンダー』にも注目が集まっている。従来型のイメージを踏襲しつつ、現代的に洗練させた、ミニマルでクールなスタイリング。あらゆる路面状況に適応する走行モードを駆使すれば、最大90cmもの渡河水深性能を発揮するタフネスぶり。それでいて普段使いでの乗りやすさにも十分配慮された設計。快適性を十分に考慮していない時代に設計された従来型と違い、だれもがストレスを感じることなく走れるのがいい。
そんな『ディフェンダー』に合うのは、ヘビーデューティすぎないデザインで、「あと一歩」を可能にする機能を備えた小物。たとえ極限の状況に出合う機会は少なくても、自らの手で可能性を高め、楽しむことに人生の意義がある。ラグジュアリー・スポーツの逸品は、あなたの心強い味方になってくれるだろう。
難局もサバイバル可能な美しきタフネス小物
今、SUV志向の男たちを虜にしている『ディフェンダー』。注目の高さはゼニスから『ランドローバー エディション』(ケース径/44mm・限定250本)が登場したところにも表れる。先の見えない時代こそ、タフな男らしさが求められるのだろう。クルマだけじゃなくあなた自身もそうあるために、身につけるものもタフな高機能アイテムで固めよう。ただしゴツイだけじゃない、美しさのバランスが重要だ。ドライビングブーツなら定番のトッズ『ウィンター ゴンミーニ』。コバの出ていない細身のシェイプはまさに機能美の塊だ。ハンティング・ワールドの新作バッグ『ウォッシュド』は、丈夫なバッファローレザー製。使い込むほどに味わいが増す。防塵防滴加工された『ライカQ2』を携えて、そろそろ冒険に出かけようか。
LAND ROVER DEFENDER 110(5Door)
ボディサイズ:全長5,018(スペアタイヤ含む)×全幅2,008×全高1,967mm
車両重量:2,186kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1,997cc
最高出力:211kW(300ps)/5,500rpm
最大トルク:400Nm/1,500~4,000rpm
トランスミッション:8速AT
価格:¥5,354,545~(税抜)(ジャガー・ランドローバージャパン〈ランドローバー〉)
※価格はすべて税抜、参考価格です。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020年夏号より
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- 戸田嘉昭(パイルドライバー/静物)、篠原晃一(車両)
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- 大西陽一(RESPECT)
- EDIT :
- 櫻井 香
- EDIT&WRITING :
- 林 公美子