自分の親世代や自分自身についても、避けて通れない「相続」。親族間でも、親族間だからこそ、お金の話でもめるとこじれがち、とわかっていても、いざ当事者にならないと、事前に予備知識を身に付けておく機会がないものです。

そこで本シリーズでは、年末から連続して10日間、全10回に渡り、相続・贈与・遺言のエキスパートである税理士の井口麻里子さんに、相続に関する素朴な疑問に答えていただきます。

井口 麻里子さん
税理士
(いぐち・まりこ)税理士。辻・本郷税理士法人相続部に所属。富裕層の大規模な相続から、一般家庭のミニマムな相続、さらには国際相続まであらゆるケースに精通した相続・贈与・遺言のエキスパート。近年はあらかじめ作成すれば、要らぬトラブルを避けられる遺言の啓蒙に力を入れている。
井口麻里子のブログ

第5回目は「相続対象も高齢化!どんな贈与・遺言が得する?」です。

孫の世代への、生前贈与か遺贈する遺言を書くのが節税ポイント

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孫への生前贈与する方法も

「昨今、被相続人が90代、相続人が70前後などの、高齢者間の相続が多くなってきました。このような場合、子の世代を飛ばし、より多くのお金を必要としている孫の世代に生前に贈与する、または孫へ遺贈する遺言を書くのがおすすめです。今回は、その内容を詳しく解説していきます」

■お得なパターン1:孫へと生前贈与する

「20歳以上の孫、ひ孫への贈与は『特例贈与』といいます。特例贈与は、一暦年(※)に410万円を超える額の贈与をする場合、優遇税率が適用されます。このことから、比較的まとまった金額を複数の孫へ贈与し、祖父母の財産を減らしていくことが、相続対策となります。このとき、子どもたちのファミリーごとに、なるべく平等に贈与することが、のちに争いの火種を残さないために重要です。

※一歴年とは、1月1日から12月31日までの一年のこと。

また、亡くなる前3年以内にした贈与は、相続財産に持ち戻して、相続税の対象となるという『生前贈与加算』という制度がありますが、孫は祖父母の相続においては相続人ではないので、遺言で遺贈を受けない限りは、この制度の対象となりません。そういった意味でも孫やひ孫へ贈与することが効果的です」

■お得なパターン2:孫へ遺贈する遺言を書く

遺言に書けば一回相続で済む

「例えば、ここに預貯金が2,000万円あるとします。これを祖父母から子へ一回相続し、子から孫へ一回相続。二回の相続を経て祖父母から孫へ財産が移転するわけですが、祖父母が遺言に『預貯金2,000万円を孫へ遺贈する』と書いておけば、同じ財産、この場合は預貯金2,000万円につき一回、相続を飛ばし、孫へ移転できます。

孫が祖父母から財産を受け取った場合は、相続税が2割増しになる『2割加算』という制度の対象となりますが、一般的に2回、相続税を払うより有利です。自分の親世代がすでに高齢で、生活にゆとりがあるならば、こうした方法も検討してみてはいかがでしょうか?」

「小規模宅地等の特例」で孫へ遺贈する遺言を書く

「自宅の敷地については、『小規模宅地等の特例』といい、面積330㎡までは、土地の評価額が8割も減額できる制度があります。例えば、祖父が所有する土地の上に家を建て、三世代同居している家族がいたとします。この祖父が『自宅の敷地は孫へ遺贈する』と遺言を書けば、孫が自宅敷地を取得でき、一回相続を飛ばせます。

さらに『小規模宅地等の特例』は、相続人以外の親族が取得した場合も適用可能なため、特例の要件を満たせば、孫は8割減額を受けられ、相続税の節税になります。

70歳前後の子世代が相続しても、いずれ近いうちに孫世代へ相続されるのであれば、親世代を飛ばして孫が相続すると大きな節税につながるうえ、不動産登記などの手続きも一回省略できます。ただし、先述のとおり、孫が相続した場合は、相続税が2割増しになる点は理解しておきましょう」


高齢者間での相続が行われることも多い今、どんな贈与・遺言が得するのかをお話しいただきました。自分の親世代と自分の子ども、三世代でうまく行うことで得できるように対策したいですね。

相続について学ぶ全10回シリーズ、明日は「70代の父が祖父の遺産を相続。将来自分が困らない相続対策は?」という疑問にお答えしていきます!

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この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
EDIT :
安念美和子、榊原淳
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