いわゆる大人世代の男性向けファッション雑誌やウェブサイトを見ると、スキンケアやヘアケアなど顔回りを若く見せるための特集が必ずといっていいほど載っている。

そんなにみんな若く見せたいのか……ミスターPは、訝いぶかしがるのである。いや、おれは今の、年齢相応の顔でけっこうだ。

男が帽子をかぶる時

今だから似合うキザなスタイル

イラスト/うぬまいちろう

彼がそう思うのは理由がある。童顔の彼は、海外出張のとき、なんとなくナメられているような気がするからだ。それともうひとつ。若い頃より今のほうが似合うものが増えてきた気がするのだ。

たとえばツイードのジャケット。あの年輪のように積み重なった織りが少しくたびれだした肌になじんできた。若いヤツのピチピチした肌ではこうはいかない。それと帽子。就なかんずく中、ソフト(中折れ帽)だ。いや、なんといってもこれかもしれない。ソフトは若いのがかぶるとコスプレにしか見えない。

ソフトは男もののフォーマル系の帽子の中では最もポピュラーなものだ。クラウン(頭頂)が縦方向に折れているから中折れ。なにがソフトかというと素材のフェルトが他のフォーマル系のホンブルグハットやシルクハットよりずっと柔らかいからだ。

Pは最初のソフトを銀座にある老舗帽子店で購あがなった。その店オリジナルの型でダークグレー。ブリム(つば)も中庸な口径のものを店が勧めるがままに。実はPはそれまでフェルトが兎の毛でできていることすら知らなかった。これを長く着ているバーバリーのベージュのトレンチコートに合わせることが多い。気分は映画『サムライ』の殺し屋役のアラン・ドロン。今では同じ型のソフト茶、こげ茶、黒、ライトグレーと5色持っている。

屋内では帽子を脱ぐという鉄則にもPは忠実だ。ちょっとカッコつけだが、これはこれはと帽子を脱いで挨拶をしたり、軽くブリムを摘つまむ簡易挨拶も身についてきたと思う。「服が男を作る」はギリシャだかラテンの格言。だが最近のPには「ソフトは紳士を作る」が実感なのである。

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WRITING :
林 信朗