1月7日~10日まで、フィレンツェのランドマーク的な要塞跡地、フォルテッツァ・ダバッソで第97回ピッティ・ウォモが開催された。昨年同様、年明け早々に開かれたこともあり、会期初日の午前中は、来場者はまばらだった。ピッティのメイン会場となるセンターパビリオンの中も、あまりひと気がなかった。会期2日目の午後に、やっといつもの活気ある風景となった感じだ。
世界中から注目を集めるメンズファッションの展示会へ
ピッティ事務局の発表によれば、昨年1月開催時に比べ総来場者数は10%減少。正確な数字は出されていないが、概算すれば来場者数は約32,400人。その内、バイヤー数は約21,400人。イタリア人バイヤーの減少が、総来場者数に影響を与えたようだ。国別にバイヤーをみると、ドイツ、日本、オランダ、英国と、これまで通りの国が上位を連ねた。
取材した第一印象は、消費者の多様な趣向にどう応えていくかといった課題である。一時期のように、突出したアイテムがトレンドになりにくい状況だからだ。各ブランドは自社の強みを打ち出し、独自の企画で新しいスタイルを絞り込んでいた。注目のアイテムをリポートする1回目は、ジャケットだ。
ジャケットの新しいスタイルを提案した2ブランド
オルビウム
ヨーロッパを中心に、往年の洒落た文化人が着用したコートを基に、オリジナルのデザインを展開する日本のコートブランド“コヒーレンス”。そのクリエイティブディレクターである中込憲太郎氏が、イタリアでの新契約のもと、3シーズン前にデビューを放ったジャケットブランドの“オルビウム”も別ブースで初出展を果たした。「物語のあるジャケットとアイコニックなファブリック」をコンセプトにして、ミリタリーテイストのジャケットを投入した。
肉厚の素材、キーパーズツイードを使ったモデル『HMローブ』は、1940~60年代のフランスやイタリア軍が着用していたローブをアレンジ。上襟やそで口のターンバックにベルベットを用い、ミリタリーの無骨さだけではなく、上品なニュアンスを演出。フロントは、比翼のひとつボタンですっきりと見せる一方、両胸と両脇に大きなポケットをデザインし、機能性を備える。ベルトを軽く結んだ着こなし方が粋である。
タリアトーレ
もう1着は、“タリアトーレ”。トータルコレクションで益々人気を誇り、オリジナルの生地をふんだんに使い、独自のスタイルを築き上げている。発表したジャケットは、1980~90年代をイメージする構築的なモデル。肩パッドとゆき綿を加え、しっかりとした肩のラインを表現した。上襟が長く下に向い、ゴージラインを下げたデザインが、往時の雰囲気をかもし出す。これまでの胸周りを強調した大きなラペルと、シャープなシルエットで表現してきたジャケットとは、明らかに違うスタイルをつくり出した。大柄なチェック柄で強烈な存在感を放つジャケットである。
新しいジャケットの提案をはっきりと主張した2ブランド。どちらもタイドアップで着用するよりも、ニットなどを合わせたカジュアルな着こなしがより似合うだろう。
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- TEXT :
- 矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
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