このところクラシックなスーツの提案に勢いがないため、ドレスシャツ・ブランドは、苦戦を強いられている感がある。手縫いによる見事なステッチワークのドレスシャツは健在だが、時代の流れは、タイを締めないカジュアルなスタイルに向っている。今の空気感を表現できるバンドカラーなどの軽快なデザインが人気だが、シャツに替わるアイテムの提案では、今回もニットが目立った。

 ニットを専業とするブランドは、色やデザインが鮮やかなタイプ、あるいは、織り柄の凝ったモデルを発表した。大人のカジュアルなコーディネートは、「ニット1枚で、スタイルが様になる」が、キーワードだ。

着こなしの幅を広げるアイテムに欠かせないカジュアルなニット

マクローレン

マクローレンのモノトーンニット
マクローレンのモックネックニット

 まず、イタリア・ブレーシャに本拠を構える“マクローレン”。発祥がイギリスで、現在の生産はイタリア。その両国の持ち味をうまく紡ぎ出したニットで日本のバイヤーからも評判が高い。

 前回ピッティのイメージを引き継ぐ、メランジュ調の糸が新たな味わいを増していた。ウール90%×ナイロン10%の糸を使ったグレー系のモックネックニットは、モノトーンでダイヤとケーブル柄を編んだ一枚。エアリーで軽快な雰囲気を糸と編みで見事につくり出している。

 他にも、その原糸の構成を変えずに多彩なカラー展開で、タートルネックやクルーネックなど、充実したニットのコレクションを展開した。

 “マクローレン”のニットは、ゆったりとしたジャケットや、少しオーバーサイズのコートとの組み合わせで、より味のあるスタイルとなる。

ドルモア

ドルモアのボーダーニット

 もう一着は、“ドルモア”。前回から、センターパビリオン最上階の中心部に出展ブースを移した。以前と比べ、自然光のよく入る場所のため、“ドルモア”のニットの特徴である、冴えた色合いやディテール部分の微妙な編み目までもよくわかる。

 “ドルモア”といえば、イタリアきっての洒落者として知られる、フィアット元名誉会長のジャンニ・アニエッリに愛用された「ビスコッティーニ」という、小さなビスケット型のデザインを編み込んだニットで有名だが、セーターというデザインに留まらず、フルコレクションでニットのくつろいだ世界観を展開する。

 幅の太いマルチカラーのボーダー柄のクルーネックは、ジーロンラムウール100%の糸を使った、やわらかくもコシのある感触が絶妙。イタリア語で「ガルザート」という生地を毛羽立たせた加工によって、なんとも暖かみのあるいい表情をつくり出す。

 このニットは、デニムに合わせてカジュアルに着れば、より存在感が増すに違いない。

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この記事の執筆者
ヴィットリオ矢部のニックネームを持つ本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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