いまや「靴磨き」は、男性の身だしなみの域を超えて、高度な趣味性を備えつつあるように見える。そして靴磨きを請け負うシューシャイナー(靴磨き職人)の存在は、高い技能を持った職人として認知され始めている。世界的にも盛り上がりを見せているシューシャインのムーブメント、中でも日本はそのシーンをリードしている。SNSやYoutubeなどのメディア、そして各地で開催されるメンズファッション関連のイベントなどで、シューシャイナーは引っ張りだこだ。そんな状況を生み出す推進役となっているのが、2018年より銀座三越で開催されている、シューシャインを競技として見せる「靴磨き選手権」。今年も2月15日と16日の両日、会場となった銀座三越9階とオンライン(ニコニコ動画等)にて多くの観客を集め開催された。
多くの観客を集めた「靴磨き選手権2020」
今年で3回目を迎える同選手権。今回は日本全国と海外から計67名の応募があり、動画や書類などの選考を経て選出された32名により予選が開催され16名を選出、その後本選で4名が選ばれ、決勝戦を行った。
予選・本選の審査を行ったのは8名の審査員。選手権で使用した「スコッチグレイン」の靴を提供したヒロカワ製靴の廣川雅一社長、同じく選手権で使うワックス等のプロダクトを提供したコロンブスの服部暁人社長、ルボウの沖本浩一郎社長、R&Dの静孝一郎社長、さらに雑誌『LAST』の菅原幸裕編集長、メンズファッションライターの丸山尚弓氏、そして第1回選手権大会で優勝した石見豪氏とロンドンで開催されたWorld Championships in Shoe Shining 2019で優勝した杉村祐太氏の2名の靴磨き職人が審査に参加した。
予選を通過した16名の靴磨き職人
審査方法に関しては、今回は光沢や所作を評価するテクニカルポイントに、表現力を評価するアーティスティックポイントを加えた得点制で行われた。各ポイント(持ち点)の詳細は次の通り。テクニカルポイント(光沢及び透明感4点/光沢や色味のグラデーション4点/仕上げの美しさ3点/所作6点)、アーティスティックポイント(表現力4点)。光沢の美しさに併せて、全体的な磨きのバランスなども加味される形になっている。
予選はスコッチグレインのブラックのストレートチップ片足を10分で磨く競技。日本のタンナーによる革は、表面に圧を加え均されたもので、10分程度の短い時間では磨きの効果が出にくいことが予想されたが、それでもしっかり光沢を仕上げたものが多く見られ、今大会の高いレベルが窺えた。本選と決勝戦は両足を20分で磨く競技で、同じくスコッチグレインの、仏アノネイ社のブラウンカラーの革を使った靴で行われた。各出場者間の技術レベルが拮抗していることに加え、色合いやバランスなどで独自の表現を目指した磨きも見られ、審査はかなり難しいものになっていた。
16名による本選を経て、決勝戦に出場を果たしたのは、東京・青山のシューケアサロン「Brift H(ブリフトアッシュ)」所属の新井田隆氏、東京にて「Freestyle SHINJYUKU」として拠点を持たず靴磨きを行うなかじまなかじ氏、京都の靴磨き店「Glayage KYOTO(グラヤージュキョウト)」代表の樺澤幹人氏、大阪&東京の靴磨き店「THE WAY THINGS GO(TWTG)」所属の細見大輔氏の4名。決勝戦の結果、第1位に輝いたのは細見氏だった。第1回選手権大会の石見氏、第2回大会の寺島直希氏(現在は独立)に続いて、3年連続でTWTGのシューシャイナーがトップを獲得するという結果となった。
もっとも、決勝戦は4名いずれも僅差の激戦だった。前回も決勝進出を果たした新井田氏は安定感ある磨きを披露。その一方でなかじま氏と樺澤氏は前回出場(なかじま氏は本選敗退、樺澤氏は予選敗退)の経験を踏まえてさらに磨きの質を上げた印象だった。また、4名それぞれが光沢や透明感といった基本的な美のほかに、各自の個性を磨きに盛り込んでいて、その様子は日本の靴磨き文化の厚みを端的に表しているようだった。
各出場者のレベルが回を重ねるごとに向上する中で、今後さらなる激戦が予想される「靴磨き選手権」。今年は限定された条件下で行われる「競技」であることがより強く印象づけられた一方で、だからこそ、わずかな時間で仕上げられたものの背後にある各出場者の技術力や経験値が感じられた大会だった。これを契機に、それぞれの靴磨き職人たちの活動が注目され、ひいてはシューケアやシューシャインへの関心が喚起されることが期待される。それはまた靴を慈しむことにも繋がり、サステナブルという時代の要請にも適ってくるのではないだろうか。
本戦に出場した4人の詳細は、以下URLとインスタグラムでご確認を!
Brift H
Freestyle SHINJYUKU
Glayage KYOTO
THE WAY THINGS GO
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
Faceboook へのリンク
Twitter へのリンク