働く女性の子育て支援やキャリアプランの充実を目指したり、実現している企業が増えているとはいえ、まだまだ家庭とキャリアの両立は難しい。若いときは男性と同等に働いていても、結婚や妊娠をきっかけに家庭に入り、その後社会に復帰するきっかけを失ったり、そのハードルの高さに諦めてしまう女性も少なくないのが現状です。
一方で、家庭生活と会社の板挟みになるより、自分のできることを生かして会社を興す「起業」という選択肢もあります。「起業」というと、ニュースを賑わす華やかなベンチャー企業のイメージがあり、「難しそう」「責任が重そう」と腰がひけてしまう人も多いのですが、仕組みがわかれば実はそんなに難しいことではないのです。
そこで、「女性の起業」に詳しい公認会計士の佐藤幸恵さんに、「女性の起業のノウハウのあれこれ」を伺う連載を始めます。この佐藤さんご自身も、ふたりの子供を育てる専業主婦を続けながら、一念発起して3年半に及ぶ受験勉強をし、なんと37才で公認会計士試験に合格。監査法人へ勤務し、実務経験を積んだのち、ご自身も独立して起業された経歴の持ち主です。今回は「起業ノウハウ」連載の序章として、佐藤さんがどのような道を歩んできたのかをご紹介します。
専業主婦からキャリアへ。お弁当工場からのスタート
公認会計士の旦那さまと20代前半で結婚し、ふたりの子供を育てる専業主婦だった佐藤さん。子育てをする傍ら、社会に出てみたいという気持ちがありました。喘息を持つ幼子を抱えて働ける職場を探したところ、見つかったのがコンビニチェーンのお弁当工場。外国人労働者が多い、深夜勤務のパートのお仕事です。
「単純作業ならできるはず」と思っていた佐藤さんですが、いざやってみると、ほかのパートさんの作業スピードに追いつくことができず、自信を喪失。次に考えたお仕事は近所のスーパーでの業務でしたが、「人目につくと嫌だな」という思いから、踏み込むことができなかったそうです。
そこで、経済や経営のことがもともと好きだったことから、32才から会計の通信教育講座の受講をスタート。結局、何も勉強できない状況だったので一念発起して34才から、本格的に公認会計士を目指して大手の資格取得専門学校へ通い始めました。とはいえ、いろいろな資格がある中でも「公認会計士は司法試験に次ぐ」といわれるほど難易度が高い資格。片手間でクリアできるようなものではありません。
自分の可能性を信じて得たものは、家族の選択肢が増えたこと
筆記試験勉強が佳境に入ると、毎日専門学校へ通って勉強せねばならず、最後は朝から晩まで勉強していたそう。勉強を始めたとき、上のお子さんは小学2年生、下のお子さんは幼稚園。お母さまと同居はしていたものの、旦那さまは激務、子供がまだ小さかったため、泣きながら家を出て通学したことが何度もあったとか。
そこまでして佐藤さんが頑張れた理由は「もはや意地でした」。専門学校の費用や時間を費やしてきたため、「この投資を回収しなきゃ」という意地と、「自分の可能性を信じたい」という一念が佐藤さんを頑張らせたのです。
その後、一度試験に落ちながらも2007年に公認会計士試験に合格。勉強を始めてから3年半経った、37歳のときのことでした。念願叶って資格を得、大手監査法人に入所。8年ほど監査業務などの実務を積んだのち、退職。その後、乞われて参議院議員秘書として、会計や財務、経済分野に携わりました。
現在は税務・会計相談に加え、女性経営者の想いに寄り添う事業の持続可能性を重視したビジネスモデルや、事業戦略のコンサルティングなども行っています。
佐藤さん自身が起業を経験して感じたのは、「自分が認められたいという気持ちが満たされるのはもちろん、自分が経済的に自立することで家庭にも選択肢が増えた」ということ。
たとえば、化粧品や洋服は「買ってもらう」という意識だったのが、自分で自由に買うことができる喜びを感じることができる。自分の才能はもちろん、子供の才能を伸ばしてあげたいと思ったときに、習いごとや経験・学習へ投資することができる。家族旅行の回数が増える、等等。長年、専業主婦を経験していた佐藤さんだからこそ、お金の話とは切っても切れない、生活面での変化に多く気づくことができたのかもしれません。
一度外れてしまうとなかなか戻れないイメージが強い「キャリアの道」ですが、逆に、キャリア0からでも、30代からでも築けることを自ら教えてくれた佐藤さん。今まで働いていた女性なら、立ち止まったり方向変換したりしながらも、自分らしいキャリアを築いていくことは、実はたやすいのでは、と思わせてくれました。
次回からは、佐藤さんと一緒に、女性の起業に関してのノウハウをなるべくわかりやすく解説していく予定です。お楽しみに!
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 安念美和子(Precious.jp)