二枚目な靴は、ちょっと苦手です。

精神的にも物理的にもスマートさとは程遠く、泥臭く生きるしかない自分がシュッとした靴を履いていると、なんだか取り繕っているような気がして、心が落ち着かないんです。

だから好きなのは、どこか間抜けで人間臭い靴・・・。

この7月、フィレンツェで活躍する靴職人・深谷秀隆さんが東京で作品展を開催しました。

ドロドロに溶けだしたような靴、球体になった靴、木の枝のように荒々しく歪み伸びた靴。

彼がつくりだす靴に封じ込められていたのは、まさしく僕が靴に求める、不完全な人間の感情そのものだったのです。

それらはもちろんアートとしての靴であり、人が履くためのものじゃない。でも、こういう「気持ちの」靴を履いてみたいなあ、なんて僕は素直に思えてしまいました。そして表参道で見つけてきたのがこんな靴。

なんと今季のバーバリーです!

いわゆるラウンドトウのウイングチップなのですが、トウの切り替えや履き口の位置を大胆に歪ませた、見たことのないようなデザイン。

その愛嬌のある表情はまるで生きているかのようで、買ったばかりだというのに長年履き込んだような愛着を覚えてしまいます。

ぽってりしたラウンドトウでスーツからカジュアルまで色々な着こなしにフィットしそうですが、僕が絶対に合わせたいと思ったのは、この一着。

かつて私がオーダーし、MEN’S Preciousでも紹介した「究極の変態スーツ」こと、EESETT&Coの「ZERO SUIT」です。今まで合わせる靴が見つからなかったんだよな、これ。

うーん、完璧とは程遠くて、むしろ野暮ったいのだけれど、温かくて高潔な魂を持っている・・・。

サウイフモノニワタシハナリタイ。 そういえば前述の深谷秀隆さんは、僕が着ていた「ZERO SUIT」に驚いて、日本帰国時に自らコンタクトをとり自分仕様の一着をオーダーしたそうです。同じ理想をもつふたりの才能を結びつけられるなんて、編集者冥利につきますよね。いずれ深谷さんの靴も、履いてみたいと思っています。

ちなみに最近のバーバリーはアイコンのトレンチコートなどにもアシンメトリーかつ脱構築的なアレンジを加えており、そのアンバランスさがとても美しい。個人的に「乗れる」コレクションを展開しています。ぜひチェックしてみてください。

この記事の執筆者
MEN'S Preciousファッションディレクター。幼少期からの洋服好き、雑誌好きが高じてファッション編集者の道へ。男性ファッション誌編集部員、フリーエディターを経て、現在は『MEN'S Precious』にてファッションディレクターを務める。趣味は買い物と昭和な喫茶店めぐり。