オーストラリアの現状を、シドニーの駐在員妻・内田葉月さん(39歳、子供1人)目線からレポートします

日々、コロナウィルスの新規感染者数が減少している、オーストラリア。国境閉鎖からのロックダウンで生活が一変する経験を経た、駐在員妻の内田葉月さんから、日本に住む方々へ、メッセージがあります。今、日本に住む私たちができることは、なんでしょうか?

【過去】外出禁止令が出るまでの経緯

普段は多くの人であふれる、シドニーのシンボル、観光地のオペラハウス
普段は多くの人であふれる、シドニーのシンボル、観光地のオペラハウス

2月のシドニーはクルーズ船が頻繁に出入りしていた

「シドニーは、クルーズ船が頻繁に出入りしていたので、2月の半ばくらいから人々がコロナに対し少しずつ危機感を持つようになりました。そのころには、スーパーや薬局からサニタイザー(消毒ジェル)が消えましたね。そして、紙類が棚から消えていきました」

突然の国境閉鎖、その3日後にロックダウン

「3月20日に国境が閉鎖され、3月23日に街がロックダウンされました。その日から、すべての娯楽施設やフィットネス系施設、美術館や図書館などの非居住施設がクローズしました。レストランは店内での飲食は全面禁止となり、デリバリーとテイクアウェイ(テイクアウト)のみの営業が始まりました。

その直前まで、危機感は多少なりとも感じでいたものの、シドニーの街は普通に人が歩き、当時はほとんどの人がマスクもしていなかったので、突然変わってしまった町の様子に、ただただびっくりしました」

平時にビーチで楽しむ人々の姿
平時にビーチで楽しむ人々の姿

オーストラリアの学校はずっと開校、子どもの居場所は確保されている

「ただオーストラリアでは、教育機関はクローズしませんでした。『登校自粛』を呼び掛けて、率先して自粛したのは、高齢者の祖父母と同居しているご家族のお子さんでした。その時点で、オーストラリアの方々の『高齢者を守る高い意識』が見られました。今も学校は開いています。エッセンシャルワーカーのお子さんたちを守るために、学校は閉めないそうです」

【現在】ロックダウンに入ってからの生活は…

外出禁止スタートから1週目は、街に緊張感が漂っていた

「ロックダウンされてすぐの頃は、人とすれ違う時に、お互い避けるようなピリピリした雰囲気があったのですが、4月に入ってからはだいぶ普通になってきて、まるで日曜日の朝の空いている時間のような感じです。今は現地の方、お年寄りも、皆さんマスクをしています。

人の姿が消えたシドニーの街中
人の姿が消えたシドニーの街中

また、私は夜、出歩かないので夫から聞いた話ですが、仕事の帰りの夜の8時くらいにはもう、街がどこもゴーストタウンになっているようです。一人で歩くのが怖いくらい、夜は誰も歩いていません。お店がすべてしまっているのです」

ソーシャルディスタンスは守りながら、目くばせに思いやりを実感

「ロックダウン後にすごく変わったと感じることですが、現在、エレベーターは3人以上が乗ってはいけないんです。密を避け、ソーシャルディスタンスを取るためです。普段なら必ずオーストラリア人がする『スモールトーク』がなくなりましたね。いつも交わされる『How are you?』という挨拶も。

おしゃべり好きなオージーがしゃべらなくなった。でも、しゃべらなくなったけど、散歩などですれ違うと、みんな目で微笑んでくれる。とてもほっこりした気持ちになります。いい国だなあって改めて思います。秋晴れが続いていて気持ち良く、こんな時でも、人々のやさしさは変わらないように感じています」

健康維持のために身体を動かすことも大切
健康維持のために身体を動かすことも大切。不要不急な外出はしないが、健康維持のためのジョギングや散歩は可能

サニタイザーや紙類も戻ってきている! 生活必需品で買えないものはない!

「今はタイミングによって、トイレットペーパーやサニタイザーも店頭で見るようになりました。みんなが買い物の回数も減らしていることも理由ですが、『外に出ないからサニタイザーも必要なくなってきたね』と、友達とも話しています。

少しずつトイレットペーパーも戻ってきている様子
少しずつトイレットペーパーも戻ってきている様子

全体的に、在庫が戻ってきている感覚がありますが、品薄なものもまだあります。小麦粉、米、パスタ、紙類は品薄ですが、まったくないわけではないです。生活に必要なもので買えないものはありません。

スーパーは、店内の人数制限があって、ソーシャルディスタンスを守って並びます。人数制限をしているので、中に入ったらガラガラで、他の方と距離を取った状態で、買い物をすることができます」

ソーシャルディスタンスを守って、スーパーに入る順番を待つ人々
ソーシャルディスタンスを守って、スーパーに入る順番を待つ人々

情報共有はSNSを活用し、日本人同士で助け合い

「FBの『シドニー日本人ママ会』グループで、情報の共有が行われています。例えば、『トイレットペーパーどこかで買えませんか?』という質問に対して『このスーパーにありましたよ!』とか、急きょ帰国することになった方が『これ売ります』『それ買います』というようなやりとりがあったり。

SNSがこの有事において、日本人ママの生活の大切なツールになっています。政府の発表のリンクを貼ってくれたり、日本の現状をシェアしてくれたり。とても役に立っています」

2000人以上がメンバーとして登録しているFBの「シドニー日本人ママ会」
2000人以上がメンバーとして登録しているFBの「シドニー日本人ママ会」

ネットを最大限に利用することも、家の中で楽しく過ごすコツ

「他にも、子どもの教育のこと。NHKの教育番組の無料公開、子ども教育関連の会社のオンライン幼稚園の情報など、とてもありがたいですね。海外にいてもアクセスできる『今の時代で良かった』と思います。

また、シドニー市内にあるタロンガズーが、アシカのショーを無料で配信したり、おもちゃ屋さんが塗り絵の紙を無料でダウンロードできるように配信したり、子供向けの動画を無料配信したり、オーストラリアの中でもネットを活用した子供のための動きが見られます」

ABCの提供する教育番組
ABCの提供する教育番組

夫の在宅勤務により、一緒に過ごす時間が増え家族の絆が深まった

「自宅では、子どもと向き合う時間が長くなったので、子どもと密に接することができるようになりました。いかに体力と頭を使わせて疲れさせてあげるか。公園の遊具はすべて使用禁止なので、家でどうやって子供の健全な成長を促すか、考えています。一緒に塗り絵をしたり、折り紙をしたりして過ごしています」

子どもと一緒に始めた塗り絵
子どもと一緒に始めた塗り絵

「夫は金融関連会社に勤務しており、基本的にずっと出社していましたが、先週くらいからは家で仕事する体制になりました。ローカルの会社員の方々は、結構早く自宅業務が始まったようです。職種によっても違うようで、今も毎日、出勤されている駐在員の方もいるようです。

夫婦では、毎晩一緒にオーストラリアワインを飲んで楽しむ時間が取れるようになりました。また、夫が自宅勤務になって、子どもを見ていてくれると、子供を連れずに安心してスーパーに食料品を買いに行けます。

夫がいてくれることの安心感。いかに家族でお互い守りあうかを、考えさせられました」

オーストラリアのワインは、安価でとてもおいしいと定評あり
オーストラリアのワインは、安価でとてもおいしいと定評あり

【未来】これからのためにできること

この時間を、仕事の取り組み方を考える良い機会にする

「夫は、『これからは仕事への取り組み方が変わるのではないか』、と言っています。在宅でも仕事ができると学ぶ機会になったのかもしれません。今回の有事で『働き方改革』が進むきっかけになるかもしれません。

今は、長期戦なのだ、と腹をくくっています。免疫力アップのため、粛々とよく食べ、よく笑い、よく寝ています。エッセンシャルワーカー(医療、公共交通機関、生活必需品を取り扱う場などに勤めている人)として、最前線で命を張って働いている方々に感謝し、同時に末端の自分たちができることは、唯一、『出歩かないこと』。買い物も食べるものを最低限。できることは、出歩かないことです」

オーストラリアにおけるコロナウィルス感染者の推移  水色の棒グラフが、日々の感染者数  4月に入ってから減り始めているのがわかる  4月9日には1日の感染者数が100名を切った
オーストラリアにおけるコロナウィルス感染者の推移。水色の棒グラフが、日々の感染者数。4月に入ってから減り始めているのがわかる。4月9日には1日の感染者数が100名を切った。(Australia Goverment Department of Health参照)

マヌカハニー、プロポリスなど免疫力を上げる食べ物を積極的に摂る

「そして、免疫力を落とさないようにすること。オーストラリアではマヌカハニー、プロポリスなど免疫力向上のために良い、と言われている食べ物があります。ユーカリキャンディ、ティーツリーオイルなど、殺菌力があると言われているものも、生活に取り入れています。

殺菌力があると言われている、ユーカリキャンディーとティーツリーオイル
殺菌力があると言われている、ユーカリキャンディー(左)とティーツリーオイル

あと、ワインですね。ほとんどのお店は閉まっているのにワインショップは開いているんです。オーストラリア人にとっては、ワインは大切な存在です。家での時間をより楽しく過ごすための、ひとつの手段です。『国民の精神を健全に保つ』ために、ワインショップの営業を許可しているのは、ワインを愛する国民に対しての想いなのかもしれないですね」

日本に住む方々へのメッセージ

NSW州からのメッセージ
シドニーのあるニューサウスウェールズ州からのメッセージ

「オーストラリアでは、長い山火事から洪水、コロナによるロックダウンと、ずっと大変な時期が続いています。日本より先に、緊急事態宣言が出たオーストラリに住む者として、日本に住んでいる方に伝えたいことがあります。

高齢者に接触しないこと。自分が保菌者かもしれないという意識を持つこと。だから、出歩かないということ。スーパーで物にベタベタ触らない。ひとりひとりがそういう意識を持つことが、大切なのだと思います。

このロックダウンを経験して、人生観が変わりました。

物があふれ、豊かになっていた生活を見直す機会になりました。食べ物、飲み物、こどもの塗り絵やワークブックなど、今使うものだけを買っています。『人間はこういう生活で、生きていけるのだな』と思いました。欲がなくなるという感じです。感覚が変わりました。

とにかく出かけないでほしいです。人が動いていては、菌は止まりません。可能な限り出歩かないでください。平和な日本が早く戻ってくれることを願っています」

この記事の執筆者
新卒で外資系エアラインに入社、CAとして約10年間乗務。メルボルン、香港、N.Yなどで海外生活を送り、帰国後に某雑誌編集部で編集者として勤務。2016年からフリーのエディター兼ライターとして活動を始め、現在は、新聞、雑誌で執筆。Precious.jpでは、主にインタビュー記事を担当。
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM