香港とニューヨークでクロージング中心のメンズセレクトショップ「アーモリー」を共同経営し、多くのファッショニスタとの交流を深めているマーク・チョー氏。次世代のクラシックスタイルを牽引するキーパーソンに、改めて熱い注目を集めているクラシコイタリアの、エレガンスの秘密を聞いた。

 2010年、イタリア・フィレンツェで開催される世界最大級のメンズファッションの展示会ピッティ・ウォモにマーク・チョー氏は、はじめて訪れた。香港でのメンズ専門のセレクトショップ、「アーモリー」のオープンを目前に控え、店頭を飾るアイテムのサプライヤーにすすめられて会場に入ったのである。

 当時、あどけなさが残る27歳だったが、クラシックなスーツに身を包んだスタイルが印象に残っている。フィレンツェ随一の名門サルトリアの「リヴェラーノ&リヴェラーノ」との話し合いを経て、新たにオープンする「アーモリー」でのトランクショーの開催を成立させた。若い世代ながらも、「最も旬なクラシック」を世界から集める審美眼は、その頃からすでに持ち得ていた。

「クラシコイタリア」復権のキーパーソン、香港のマーク・チョー氏

ライトウエイトのウール生地を使った「リヴェラーノ&リヴェラーノ」のス・ミズーラのスーツに、香港ブランドアスコット・チャンで誂えたボタンダウンシャツを合わせ、ドレイクスのネイビーのタイを締める。足元は、スペイン、カルミナの黒靴だ。正統的なスーツスタイルだが、ブランドは各国のミックス。それでも、統一感のあるクラシックな雰囲気が貫かれている。何か新しいクラシックな世界を感じさせるのだ。

 今、日本のメンズファッションを見渡すと、「大人のスタイル」といわれるなかにも、カジュアルな着こなしに走りすぎているものがある。着丈が短く必要以上に体にフィットしたジャケット。

 パンツは、くるぶしが見えるほどすそ丈が短く、しかもスーパースリムのシルエット。

  足元は、オーセンティックな革靴ではなく、スニーカーを合わせたスタイルである。 カジュアルなスタイルが悪いわけではない。

  • 1930年代のロレックス。ヴィンテージアイテムを1点加えるのがポイント。
  • カルミナのサイドエラスティックシューズを合わせ、ウィンストン・チャーチルを偲ばせるレイジーマンスタイルを気どる

 しかし、2000年代半ば以降、あまりにもカジュアル一辺倒なスタイルに向かいすぎたのではないか。トレンドがそういったアイテムを打ち出す状況にあったが、いわば「崩れたカジュアル」を厳しく取捨選択せず、カジュアルスタイルに拘泥していたのではないか。

 その間に、チョー氏をはじめとする、東アジア地域で新しくショップを展開する若い世代のオーナーたちは、正統的なクラシックスタイルを楽しみはじめていた。自分のテイストになじませ、新鮮で本来の男のエレガンスを放ったスタイルは、新たにクラシックを呼び起こすものとなった。

  • オラツィオ・ルチアーノのダブルスーツを着用する、ダンディなショップスタッフ。
  • 「アーモリー」の共同経営者のアレン・シー氏。彼もマーク・チョー氏とともに次世代を担う、洒落たセンスの持ち主だ。

 そこで思い出されるのが、1990年代に日本でブレイクしたクラシコイタリア。仕立てのいい本格的なスーツに上質なドレスシャツを合わせ、シルクのタイを結んだコーディネートは、今も記憶に残る、時代を超越したダンディなスタイルである。

「日本でブームになったクラシコイタリアの着こなしには、リアルに影響を受けていません。イギリスで育ったため、クラシコイタリアには触れられませんでした。感化されたファッションは、エキセントリックな雰囲気のブリティッシュスタイルや、’50から’60年代のシンプルなアメリカンスタイルです」

 チョー氏は、当時のクラシコイタリアを意識しているわけではなく、英米で学んだ装いの要素をサルトリア仕立てのスーツと融合させ、独自のスタイルを楽しんでいるのだ。

「着用しているピンストライプのスーツは、ロンドンのシティで働く金融関係者が好むデザインですが、今日は少し違う意味で着ています。スーツの薄い生地はしなやかさを表現しています。大きくやわらかい襟のボタンダウンシャツを合わせることで、フォーマルな装いのなかでさらに、しなやかさを強調しています」 チョー氏はそんな小技が生きるスーツスタイルに、ヴィンテージのロレックスや、サイドエラスティックシューズを合わせ、正統から逸脱しない遊び心をミックス。現在の、いやこれからのクラシックスタイルをつくり出している。

 そう、チョー氏による新世代のクラシコイタリア・スタイルからは、明日の男の装いが読み取れるのである。

PROFILE
Mark Cho マーク・チョーさん
1983年イギリス・ロンドン生まれ。米国ブラウン大学卒業。著名なファッションジャーナリスト、ブルース・ボイヤーの近著『TRUE STYLE』に祝辞を寄せるなど、間違いなく次世代のクラシックスタイルを牽引する男だ。

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この記事の執筆者
TEXT :
矢部克已 エグゼクティブファッションエディター
BY :
MEN'S Precious2016年冬号 今よみがえる!「クラシコイタリア」の伝説より / 2017.9.22 更新
ヴィットリオ矢部こと本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!
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クレジット :
撮影/Amanda Kho(香港取材) 構成・文/矢部克已(UFFIZI MEDIA)