「労う」「労る」…美しい日本語ですが、使い方を間違うと失礼にあたる、危険な表現です!

今年のゴールデンウィークについて、関東の一都三県が『いのちを守るSTAY HOME週間』という共同キャンペーンを打ち出しています。できる限り外出自粛を…という「STAY HOME」の意識は、心ある全国の皆さまが共有しているところでしょう。

そうした中でも、職業的に「STAY HOME」できない方々、医療従事者や、生活インフラを支えるお仕事をしてくださっている方々に対して、最近、ある言葉を大変よく耳にするようになりました。

…というところで、1問目のクイズです。

【問題1】「労う」ってなんと読む?

「労う」という日本語の読み方をお答えください。

ヒント:「立場が同等、または目下の相手の苦労や尽力をなぐさめ、感謝する」という意味の言葉です。

<使用例>「ダブルインカムなのに、家事の負担は妻の私のほうが圧倒的に多いの! うちの夫には、もう少しパートナーを労う気持ちを持って欲しいわ!」

「○○○う」と読み仮名3文字です。
「○○○う」と読み仮名3文字です。

さて、正解は?

※「?」画像をスクロールすると、正解が出て参ります。

正解は↓に!!
正解は↓に!!

正解は… 労(ねぎら)う です。

使うお相手、シーンに要注意の日本語です!
使うお相手、シーンに要注意の日本語です!

最近、テレビのニュースで「医療従事者や、生活インフラを支えてくださる方々に、皆さま、労(ねぎら)いの気持ちを持ちましょう」という言い回しを耳にしました。

間違いではないのですが、ちょっと違和感を感じる表現でもあります。

ヒントでも触れたように、「労(ねぎら)う」という言葉は「苦労や尽力に感謝する」という意味を持っているものの、対象は「立場が同等、もしくは目下の相手」となる表現なのです。

この有事に、医療従事者や生活インフラを支える仕事に従事する人々に対し、「同じ社会の一員同士」という「同等」の立場から感謝する…という意味では一応成立しますが、「下さる」「方々」という表現は、どちらも相手への尊敬のこもった「目上の相手」に使用する表現であり、「労う」という言葉と併せて使うのは、今ひとつちぐはぐな印象です。

しっくりくる、他の日本語はないのでしょうか?

「労う」の類語を探してみますと…というところで、2問目のクイズです。

【問題2】「労る」ってなんと読む?

「労る」という日本語の読み方をお答えください。

ヒント:「同情の気持ちを持って親切に、丁寧に接する」という意味の日本語です。

<使用例>「怪我人を労るのは、当たり前のことでしょう?」

「○○○る」と読み仮名3文字です。
「○○○る」と読み仮名3文字です。

…さて、正解は?

※「?」画像をスクロールすると、正解が出て参ります。

正解は↓に!!
正解は↓に!!

正解は… 労(いたわ)る です。

こちらも、対象が限定される日本語です。

「労(ねぎら)う」という言葉の対象「同等、もしくは目下」であったのに対し、

「労(いたわ)る」の対象は「弱い立場の相手」になります。優しい言葉ですが、尊敬語とはニュアンスが違いますよね?

「労う」に相当する尊敬表現を探してみたところ、「苦労や尽力に対し」という意味合いを持たない「感謝する」という言葉しか見つかりませんでした。

似たような事例として「ご苦労様です」「お疲れ様です」という言葉があります。

「ご苦労様」は、同等以下の相手にしか使えない表現です。ビジネス会話の常識としてご存知の方は多いでしょう。「ご苦労」はもともと、部下の労を労(ねぎら)う日本語ですので、明らかに部下、という相手以外には「お疲れさまです」を使用しますよね?

…なんと、日本語には「目上の人の働きを評価する」固有の表現が存在しないようです。昔の考え方として、「上にいる方の仕事や苦労を評価するのは、恐れ多い」という意識があったのもしれません。

また、「目上の者が目下の者に与えるのは当たり前」という、上位者の美意識も働いていそうです。

ともかく、目上の方の働きや苦労に対しては「感謝する」「尊敬する」など、働き・苦労に限定しない、包括的な賛辞の表現しか存在しないのです。

現代の「人はみな平等」という前提のもとでも、尊敬語、謙譲語、丁寧語の使い分けの機微が存在する日本語には、新たに「目上の方の営みに対し、尊敬を持って評価しつつ感謝する」表現も必要なのでは?と感じてしまいます。

…という話はさておき、「労う」「労る」共に、上司や恩師など、明らかに目上の方に対して使用すると失礼にあたる表現ですので、お気をつけください。

本日は、

・労(ねぎら)う

・労(いたわ)る

という日本語をキーワードに、感謝の言葉に関する、日本語的背景を探ってみました。

この記事の執筆者
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ILLUSTRATION :
小出 真朱