新型コロナウイルスの世界的大流行により、家庭内での除菌・消毒に対する意識が高まっています。品薄の中、なんとか手に入れたアルコール消毒液やウェットティッシュで、手すりやドアノブのゴシゴシ磨きに励んでいる人も多いかもしれませんが、そのやり方、ちょっと待って!

病院清掃32年のプロであり、医療環境管理士の松本忠男さんによれば、正しい掃除をせずに消毒だけしても、意味がないとのこと。むしろ、掃除をまちがった方法で行うことで、かえって汚れを拡げるなど、逆効果になるおそれもあるようなのです。

今回は松本さんから、家庭内での本当に正しいウイルス対策について教わります。家庭でのウイルス対策で消毒よりも掃除が大切な理由、家庭内でウイルス汚染されやすい要注意スポット、効果的な拭き掃除を行うコツを、順に見ていきましょう。

病院清掃のプロに聞く!家庭内での本当に正しいウイルス対策

消毒よりも「掃除」が大切な理由とは?

消毒・除菌アイテムの過信は禁物
消毒・除菌アイテムの過信は禁物

冒頭でもお伝えした通り、松本さんによれば、家庭内でウイルス対策するには、消毒よりも正しい掃除が第一とのこと。その理由について、松本さんは以下のように話します。

「家庭内で正しくウイルス対策をするには、まずウイルスの性質について正しく理解する必要があるでしょう。

ウイルスは、細菌とは異なり、ヒトや動物に寄生しなければ生存・増殖できず、一定期間経つと活力がなくなります。

こうしたウイルスの性質をふまえると、まず感染リスクが高いのは、感染者のくしゃみなど飛沫を直接吸い込むことで起こる、飛沫感染。飛沫感染の予防には、ご存知の通りマスクの着用が有効です。

次に、ウイルスのついた手で食事をしたり、顔をさわったりすることで、口や目の粘膜からウイルスが入り込むことで起こる接触感染ですが、その予防にはウイルス汚染された場所をしっかり『掃除する』ことが第一です。病院でも、消毒の前にまず掃除を徹底します。

というのも、ウイルスは食べカスや埃など有機物の汚れとともに存在するので、その汚れを除去するだけでも、かなりウイルスを減らすことができるのです。高齢者や疾患を抱えた人など、免疫力の落ちた人が家族にいる場合は別として、健康な人にとっては適切な掃除だけで、家庭内での感染対策は十分だといえるでしょう。

逆に、正しい方法で掃除をせずに、いきなりウェットティッシュなどでゴシゴシ拭きをするのは、ウイルスや汚れをその場に塗りたくっているのと同じようなもので、有効な対策とはいえません。

また、消毒・除菌アイテムのなかでも、シュッとスプレーするだけのタイプのものがありますが、あれも一時的にウイルスの働きを弱めたり、一部のウイルスを不活化させたりする可能性があるだけで、ウイルスはその場に存在し続けます。どれくらいの効果があるかは正直、疑問です。スプレーしただけで安心するのではなく、やはり正しい方法で掃除を行うことが欠かせない、といえるでしょう」(松本さん)

「正しく掃除をする」方法は?

では、ウイルス対策するために「正しく掃除する」とは、具体的にはどうすればいいのでしょうか?

「人が手で触るドアノブや手すり、スイッチは危険だとよくいわれますが、免疫力の低い人が集まっている病院は別として、一般的な家庭では高齢者などが家族にいない限り、そこまで気にする必要はありません。

ウイルスは感染者の飛沫に含まれるので、家庭内では飛沫のつきやすい、落ちやすい場所を重点的に拭き掃除するといいでしょう。具体的には次のスポットが挙げられます」(松本さん)

家庭内でウイルス汚染されやすい要注意スポット4選

(1)食卓

飛沫が落ちやすい代表的なスポット
飛沫が落ちやすい代表的なスポット

「一人暮らしの場合は別ですが、家族で食事する場合は、食卓はウイルス汚染されやすいスポットだといえるでしょう。

食卓を何人かで囲んで団らんすると、どうしても飛沫が落下します。しかも、今は外出自粛要請で、普段よりも家庭で食事をとる回数が多くなっていますので、掃除を怠ると、朝・昼・晩と三度の食事ごとに累積して、汚れとともにウイルスをためこむことになりかねません」(松本さん)

(2)ティッシュボックス近辺

鼻をかんだ後に無意識のうちに手で触れると…
鼻をかんだ後に無意識のうちに手で触れると…

「ウイルスは飛沫だけでなく、感染者の鼻水にも含まれます。しかも、鼻水は飛沫よりも粘着性があるので、付着すると残りやすいという点で厄介です。

この観点から、ティッシュボックス付近は、ウイルス汚染されやすいスポットだといえるでしょう。鼻をかむのに使うティッシュペーパーは、マイクロスコープでよく観察すると、小さな穴(隙間)がたくさんあります。この穴はウイルスよりも大きいため、感染者がティッシュペーパーで鼻をかんだとき、穴を通過したウイルスが手に付着する可能性があるのです。

鼻をかんだ直後にウイルスが付着した手をついてしまうことで、ティッシュボックス近辺が汚染されているおそれはあるでしょう」(松本さん)

(3)ノートパソコン

デスクトップよりノートタイプが要注意!
デスクトップよりノートタイプが要注意!

「スマホの汚染はよく問題視されますが、新型コロナウイスに限ってみれば、通話で頻繁に使用しない限りは、そこまで心配する必要はないでしょう。

むしろ意外と盲点なのがパソコン。最近はリモートワークでパソコンのキーボードに触る時間が増え、また、オンライン会議を実施した場合は、飛沫が飛ぶこともあるという点で、汚染のリスクは高いといえます。

パソコンのなかでも、特に気をつけたいのはノートタイプです。ウイルスのついたノートパソコンを勢いよく開閉すると、前後に風が起こるので、無防備でいる使用者や付近にいる人に、ウイルスが運ばれてしまうおそれがあります」(松本さん)

(4)洗面台

手はきれいにできても周囲が汚染されているおそれも…
手はきれいにできても周囲が汚染されているおそれも…

「手洗い・うがいを行う洗面台も要注意です。手を洗う際、うがいで口の中の水を吐き出す際に、ウイルスを含んだ水しぶきが周辺に飛び散っているおそれがあります」(松本さん)

効果的な「拭き掃除」を行うたった2つのコツ

家庭内でウイルス汚染された場所は、どのように掃除すればいいのでしょうか? 松本さんによれば、次の2つのコツを押さえて拭き掃除を行うのが有効とのことです。

(1)一方向拭きを行う

拭き掃除は一方向が大原則
拭き掃除は一方向が大原則

「拭き掃除というと、クロスをごしごしと往復させる人がよくいますが、消毒を目的とする場合、クロスは一方向拭きにするのが大原則です。往復拭きでは、クロスに付着したウイルスを拭いた面になすりつけることにしかなりません」(松本さん)

(2)乾拭きを行う

水拭きでかえって汚れやウイルスを拡げるおそれも…
水拭きでかえって汚れやウイルスを拡げるおそれも…

「往復拭きと並んで多くの人がやりがちなのは、いきなり水拭きを行うことです。もともと埃やウイルスは乾いた状態で存在していますが、いきなり水拭きを行うと、水分を含んだ埃やウイルスが、拭いた面にくっつきやすくなります。

乾いた布で一方向に拭くという正しい方法で行えば、汚れもウイルスも激減させることが可能です。逆に、水拭きで往復すると、かえって汚れなどが増えてしまう、という実験データもあります」(松本さん)

以上、家庭で行う正しいウイルス対策をご紹介しましたが、いかがでしたか? ウイルスに汚染されやすいスポットで“一方向の乾拭き”を実践して、大切な家族や自分自身の健康を守っていきたいものですね。

松本忠男さん
医療環境管理士、株式会社プラナ代表取締役
(まつもと ただお)東京ディズニーランドの開園時の正社員、ダスキンヘルスケアを経て、亀田総合病院のグループ会社に転職。病院の清掃を含む衛生管理に携わり32年、現場のマネジメントや営業に従事。1997年、医療関連サービスのトータルマネジメントを事業目的として、株式会社プラナを設立。亀田総合病院では100人近く、横浜市立市民病院では約40人のスタッフを指導し、現場で体得したコツやノウハウを、医療、介護施設、清掃会社、家庭に提供している。
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この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美