今年の6月24日に創立110周年を迎えるイタリアン・プレミアムの代表格、アルファロメオ。フェラーリ社の創設者、エンツォ・フェラーリが、この歴史ある名門自動車メーカーのレーシングチームを率いていたことは、マニアの間で広く知られている。同時にクルマの性能だけでなく、イタリアの伊達男が乗る象徴として、ファッションや生き方までがつねに話題となってきたブランドも珍しい。
当然、それだけ話題のブランドとなれば、メモリアルイヤーである今年は本国だけでなく世界各国で色々な記念行事が予定されていた。6月24日にはミラノで盛大なイベントが開催される予定であったのだが、しかし、ここにもパンデミックの影響は及び、すでに中止、あるいは延期されることは世界中の各メディアに伝えられている。
そんな重苦しい状況の中で、世界中のアルフィスタ(アルファロメオの熱狂的ファン)に対して大きなプレゼントといえるのが、一世紀以上にわたる歴史をまとめた電子書籍「E-Book」の公開だ。公式のヒストリーブックとなる本書は英語版(5月18日公開)や日本語版(6月24日公開)が順次公開される予定となっている。
36歳の若き館長に聞く
このメモリアルな書籍を監修したのは、ミラノ近郊アレーゼにある「アルファロメオミュージアム」の館長、ロレンツォ・アルディツィオ氏。まだ36歳の若き館長であるが、知識の豊富さと情熱、そして何よりもアルファロメオに対する愛は、世界中のアルフィスタから尊敬を受けるほどの存在である。
その館長と各国のジャーナリストや自動車メディアとを、オンラインで繋いだ記者会見セッションが、書籍の公開に先駆けて行われた。これも本来は予定になかったプランだが、急遽立案されイベントであった。お膝元の欧州を始め、アメリカ、中国、そして日本など、その国や地域の時間に合わせる形で、それぞれにオンライン記者会見が開催した。日本向けの会見は去る5月13日の20時から1時間ほどという予定でスタート。
司会進行、そして通訳は自動車雑誌を中心に作家、コラムニストとして活躍する松本葉氏。日本の会見時間に合わせて登場したロレンツォ館長が、自ら口火を切った。アルファロメオミュージアムが所蔵する膨大な資料、動態保存を基本とする多くの貴重な所蔵車に付いての考え方、そして歴史研究の内容などについて、まさにすべてが頭に入っているかのようによどみなく語られていく。時間にして40分以上にもなろうか、ロレンツォ氏のまさに独演会のような状況であったが、世界的に評価の高いミュージアムの内容を事細かに伝えるその内容に、参加者の誰もが聞き入っていた。
その話の中にはロレンツォ氏自身が「アルファロメオの聖地」と呼ばれ、現在はFCAグループが所有するテストコースのあるバロッコという名の村で生まれたこと。そこでドライバーを務めていた父のドライビングを見ながら育ったことで、アルファロメオに関する知識と愛情が身についていったこと。その結果、自分はまさに「アルファロメオの伝道者」とも言える存在になったと言うことなども語られた。
資料をすべて並べると長さ6kmに!
2017年にリニューアルオープンした、このミュージアムに対する基本姿勢についても、「ユーザーを始めアルフィスタや専門家などすべての人に対して、メーカーとの繋ぎ手、仲介者としての役割を担っています」と、ロレンツォ氏は説明する。現在は280台のクルマを収蔵し、そのうち70台が常設展示。事前に予約をすれば、280台すべてを見ることも可能だという。それだけに、現在の新型コロナウイルスの影響でミュージアム自体は休館していることをいかにも残念そうに語っていたが、「再開すれば、色々なイベントを全力で行いたい」と約束してくれた。
そして後半は事前にメディアから募集していた質問に対する回答と、さらに即興の質問への回答などのコーナーへと移っていった。大半はアルファロメオの歴代モデルや歴史に関することが中心であった。そんな中でも特に興味深かったのは、ミュージアムのアーカイブの資料を並べると、なんとその長さが6kmほどにもなること。そのコレクションの中にはエンツォ・フェラーリがアルファロメオに採用されたときの書類など、貴重なものが多くあるという。
さらに自動車メディア関係者からは、「アルファロメオ『ジュリエッタ』の排気量がなぜ1,000ccでも1,200ccでもなく、1,300ccになったのか?」といったマニアックな質問も飛び出した(正解は後述)。それに対してもロレンツォ氏は迷いなく即答するなど、有意義な時間が過ぎていった。気が付けば予定の1時間を大幅オーバーし、1時間40分ほど経過。ここでFCAジャパンにとって初めての試みとなったオンライン記者会見は無事に終了した。
文化的側面も網羅した、価値あるE-Book
6月24日(水)にアルファロメオ公式サイトで公開予定のE-Book日本語版。その内容はアルフィスタ垂涎のマニアックなものもあれば、1940年代のハリウッドスターにとって、希少なアルファロメオを所有することが夢だった……というような、文化やライフスタイルにまつわる話題までと、掲載される情報は多岐にわたる。
一世紀以上の変遷を見ると、決して平坦な道のりではない。むしろ波乱の歴史だ。しかし、そこにはイタリア男の気概、どんな状況であっても男は格好良く振る舞うべしという、やせ我慢の美学がある。だからこそアルファロメオには、ファッション性があるのだ。単なる自動車メーカーのアーカイブとして見るにはもったいない内容のE-Book日本語版。その公開が待ち遠しい。
【排気量の理由についての回答】
フィアット「1100」(1953〜61年)を意識したことや、のちに「ジュリア」を1,600ccでつくる計画もあったため、1,300cc(正確には1290cc)に落ち着いたのだという。
問い合わせ先
- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター