20世紀を代表する劇作家であったポール・クローデルは、大正から昭和にかけての駐日フランス大使であった。大作「繻子の靴(しゅすのくつ)」にも日本と日本人が登場するし、能や雅楽の卓抜な論評も遺している。おそろしく日本文化に通じた外国人は、しばしばわれわれ以上に日本の美点に優れた理解を見せる。
アジアで初の店を日本に開き、折に触れリミテッド・エディションの品をリリースするルイ・ヴィトンに対して、小生はクローデルへのような感興を持つことがある。その想いを強くするのが、表裏シースルーの腕時計「タンブール スピン・タイム エアー」に登場した、<日本限定モデル>である。
ルイ・ヴィトンの技術と日本の美が融合した日本限定モデル
見入るほどに美しい日本の伝統模様
メンズ向けのモデルでは、ブランドのイニシャルに重ねた“青海波”が小生を捉える。セイガイハ、と聞いて立ち上がる視覚的な記憶は、遠い祖先から受け継いだものだ。扇型の六分波形を重ねた、日本古来の文様。無限に広がる波は「未来永劫へと続く幸せへの願い」と「平安な暮らしへの願い」が込められた、縁起の良い柄と伝えられる。
図柄の語源は雅楽にあり、「源氏物語」では<源氏中将は、青海波をぞ舞ひたまひける><色々に散り交ふ木の葉のなかより、青海波のかかやき出でたるさま、いと恐ろしきまで見ゆ>。「紅葉賀」の巻で光源氏その人と頭中将が恐ろしいほどの美しさで舞う、その曲である。荘重で華麗なその舞楽の二人舞では、いまも青海波柄の衣装を着ける決まりごとがある。
日本の四季を色彩豊かに表現
いっぽうピンクゴールドのモデルは、日本の四季をモチーフにしてダイヤルとキューブに掲げたものだ。秋には紅葉、冬は雪の結晶、春には桜。来たる夏のシンボリックな図柄はホタルである。移ろいゆく日本の季節の美しさと儚さを、華やかな色彩のグラフィカルに描きとめた。サファイヤクリスタル越しのキューブが1時間ごとに繰り返す反転に、四季の自然とそれを愛でるこころを反映する。
誠実で正確な理解のうえでロマンティックに昇華した日本は、面映ゆいほど誇らしい。日本の文化と美点がもういちど見出され、ルイ・ヴィトンの美意識と交感する品は、どこまでも好もしいのである。
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- TEXT :
- 並木浩一 時計ジャーナリスト