現役を貫くだけでなく、70歳を過ぎてもなお第一線で活躍し続けるキャリアたち。それぞれの分野の第一人者でもある4人にお伺いしました。本記事では建築家・小林純子さんにお話を伺います。
清潔でホッとする心身ともに深呼吸できるようなトイレが設計のモットーです
多くの外国人観光客が感動するという日本のトイレ空間。機能性や清潔感、快適さで世界一といわれる日本のトイレを、建築家の小林さんは30年間設計してきた。手がけたトイレは全国の商業施設をはじめ空港や駅、病院、公園など公共施設も含め200か所を超え、今も常時20以上のプロジェクトが動いている。
小林さんが(そのつもりはなかったのに)トイレ設計の専門家になったきっかけは、40代のとき。瀬戸大橋の開通に合わせて、5億円規模のトイレをつくる事業に携わったことだ。
女性建築家のほうが利用者の気持ちを汲くめるだろうと統括設計者にリーダーを任され、小林さんは女性だけのチームを構成。中庭のある吹き抜けの2階建トイレを設計した。
「これが多くのメディアで取り上げられ、次の仕事を呼び、気づけばトイレばかり(笑)。でも実際にやってみると、とてもおもしろかったんです。まずトイレという場所の矛盾性。トイレはすごくプライベートで閉じた空間なのに、それを他人と共有し、安全のために開かれている必要もある。正反対の性質を扱う難しさがあり、それがやりがいでもあります。また、日本人はトイレに精神性を感じその場所を大事に扱う傾向があることや、内向的な人が多くトイレがひと息つける癒しの場所であることも、日本のトイレがここまで発展した理由だと思いますね」
小林さんたちが人々のニーズから新しいトイレをつくれば、いつしかそれがスタンダードになった。真の意味で求められるトイレをと、自らハードルを上げながら七転八倒し挑戦してきたという。
「ひと息つけて、清潔で臭わない、心身ともに思いっきり深呼吸できるトイレを今後もつくり続けていきたい」
小林さんの仕事年表
●22歳 日本女子大学家政学部住居学科卒業後、東京、札幌、仙台の建築事務所で経験を積む。
●44歳 5億円をかけた香川県の公共トイレ「チャームステーション」の設計に関わる。
●45歳 「一級建築士事務所ゴンドラ」を設立。
●52歳 一般社団法人「日本トイレ協会」副会長に就任。
●59歳 文化女子大学で非常勤講師として教壇に立つ。
●65歳 目覚ましい活躍で社会に貢献する女性に贈られる「エイボン賞女性大賞」受賞。
●70歳 東洋大学にて工学博士号取得。
- PHOTO :
- 望月みちか
- WRITING :
- 大庭典子
- EDIT&WRITING :
- 喜多容子(Precious)