トヨタの上級SUVとして、1997年に初代が登場したハリアー。世の中に“都会派SUV”という価値観を定着させたパイオニアだ。今回のフルモデルチェンジで4代目へと生まれ変わったハリアーだが、これだけ世の中にプレミアムSUVと称するクルマが溢れてくると、持てる魅力を存分に発揮させることは簡単ではない。エクステリアやインテリアのデザインはもちろんのこと、性能や装備面でもこれまで以上の満足感を与えてくれるのか、実物を目にするまで多少の不安があった。

「らしさ」を残してモダンにアップデート

オフロードも楽しめるRAV4と同じプラットフォームを使いながら、ハリアーは都会的なスタイリングで個性を主張。
オフロードも楽しめるRAV4と同じプラットフォームを使いながら、ハリアーは都会的なスタイリングで個性を主張。
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屋根から後ろにかけての傾斜を強くとった、クーペSUVのデザイン。
屋根から後ろにかけての傾斜がなだらかな、クーペSUVのデザイン。

メンズクロージングの世界では、高機能素材を使った、快適で価格も手頃なスーツが増えているが、ハリアーもそれに近い。理由を説明しよう。

まず新型ハリアーのスタイリングは、先代の基本的なイメージを踏襲している。事前に写真を見たとき、キープコンセプトによる変化はうまく処理しているとは思うが、新鮮さのようなものを感じなかった。裏を返せばそれだけ旧型の先代のデザインが良くできていたといえるのだが、一方で新型の“スタイル上の売りは何か?”というところに、少しばかり不安を感じていたわけだ。

ところが実物はしっかり変化していた。とくにサイドフォルムの伸びやかなデザインと、リアに向かってグッと絞り込まれながらリアへと続くフォルムは抑揚が効いていて、上質感が増している。とくに横一文字に配されたリアコンビネーションランプのデザイン処理の、手の込んだ仕上げは、とても高級感を感じる仕上がりになっている。フロントマスクのデザインには少し物足りなさを感じるが、それを補うだけの変化がサイドとリアにあった。

さらにトヨタの開発サイドの話として聞こえてきたのは、「最近のユーザーはドラスティックな変化よりも、これまで欲しいと思っていた“ハリアーらしさ”を残して欲しいと考えている」というマーケットリサーチの情報。つまり、キープコンセプトこそ正解なのだ。そのうえで、ベースを同じくするRAV4との明確な差別化にも注力している。RAV4はオフロードというフィールド、ハリアーは都会を駆け抜けるSUVという公式に従ったそれぞれの棲み分けは、より明確になった。

一方でインテリアは、乗り込んだと同時に新しさがしっかりと伝わってきた。6年ぶりの刷新がもっと色濃く表現できている部分だろう。横方向にすっきりとデザインされたインパネは、ごちゃごちゃして子供っぽい雰囲気とは無縁の世界。さらに馬の鞍(くら)をモチーフにしたというセンターコンソールもアクセントとして効いていて、新鮮だ。なにより全体として高級感がある。

デジタル技術で感じるラグジュアリー

大画面のモニターが鎮座する、使いやすいコクピット。パッドの素材や仕立てを工夫することで、天然素材を使った輸入車にも負けない高級感を醸し出す。
大画面のモニターが鎮座する、使いやすいコクピット。パッドの素材や仕立てを工夫することで、天然素材を使った輸入車にも負けない高級感を醸し出す。
一瞬で透過状態と調光状態(写真)を切り替えられる、「ワンダーライトDx」。ラグジュアリーな装備だ。
一瞬で透過状態と調光状態(写真)を切り替えられる、「ワンダーライトDx」。ラグジュアリーな装備だ。

乗り出すと、刷新されたプラットフォームのお陰だろうか、低速でも高速でも、とても引き締まった印象の乗り心地である。サスペンションの堅さは多少感じるものの、大きなタイヤの重さが気になる印象はほとんどない。最初に試した「E-Four」はハイブリッドの4WDなのだが、とくにスムーズでソフトな印象が強かった。とても乗り心地がよく、スポーティさよりも快適性を重視する方には、ハイブリット+4WDの組み合わせ、あるいはハイブリッドの前輪駆動がおすすめだ。

そんな印象を受けたあと、前輪駆動のガソリン車を試す。こちらはスタートした時点から軽さというか軽快感がまず印象として体に飛び込んでくる。良くできた前輪駆動のスポーツワゴンにも似た走り味で、2リッターエンジンを軽快に回しながら市街地から高速まで走ってくれるのだ。もしあなたが比較的交通量の少ない地域にお住まいで、郊外を流す使い方が多いなら、なにもハイブリッドを選ばなくても価格的にも負担が少ないし、こちらで十分だと思う。とにかくガソリンモデルの軽快さは、ちょっとした驚きだった。

装備面でまず目に付いたのは、「デジタルインナーミラー」だ。実はこれ、前・後方録画機能付きで、後部の専用カメラで捉えた様子をルームミラー上に映し出せるだけでなく、記録保存できる。つまりドラレコでもある。ずいぶん前から、「あれだけカメラを装備していながら、なぜやらないのか?」と疑問に感じていたのだが、ようやくトヨタが実現してくれた。ちなみに輸入車では、テスラがモデル3などで採用済み。これから増えていくに違いない。

調光ガラス「ワンダーライトDx」が、量産車としては世界で初めて採用されたのもニュース。瞬時に透過光を制御できるガラスは、実用面ばかりか、上質な空間作りにも十分に力を発揮する装備なのだ。このほかにも、市販車への搭載は今回が初めてというパナソニックの車載用「ナノイーX」発生装置を装備したりと、目がいくポイントは多い。

上質な走りだけでなく、使い勝手の良さとかゆいところに手が届く装備類の数々、そしてもっとも廉価なモデルでも「コストパフォーマンスに良さでは世界トップクラスかも」と思える内容だった。冒頭で書いたように、これまでビスポークのスーツでしか味わえなかった感動を、ハリアーは最新の技術と工夫で、より身近に提供してくれるのだ。服とクルマとの違いはあれど、「いいモノ感」を味わう楽しさは共通だ。

録画機能付きの「デジタルインナーミラー」。車内外の状況に合わせて、通常の鏡面ミラーと切り替えて使い分けると便利。
録画機能付きの「デジタルインナーミラー」。車内外の状況に合わせて、通常の鏡面ミラーと切り替えて使い分けると便利。
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【トヨタ「ハリアーZレーザーパッケージ・ハイブリッド・E-Four」】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,740×1,855×1,660mm
車両重量:1,690kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:電気式無段変速機
直列4気筒DOHC 2,487cc
最高出力:131kw/5,700rpm)
最大トルク:221Nm(22.5kgm)/3,600~5,200rpm
フロントモーター最高出力:88kw(120PS)
同・最大トルク:202Nm
リアモーター最高出力:40kw(54PS)
同・最大トルク:121Nm
価格:¥5,040,000(税込)

問い合わせ先

トヨタ

TEL:0800-700-7700

この記事の執筆者
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで「いかに乗り物のある生活を楽しむか」をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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