ヴァレリー・バルコウスキさんのモノトーン・ミニマルな家
モロッコは色の街。だからあえてアートも室内もモノトーンに。 シンプル、ミニマル、ピュアがテーマです
モロッコの古都、マラケシュ。歴史的建造物が立ち並ぶ世界遺産のメディナ(旧市街)地区にたたずむヴァレリー邸は、17世紀初めに聖人への祈りの場として建てられた建物を改装。家のそこかしこにアートが飾られ、まるでギャラリーのようです。
「有名・無名にかかわず、好きだと思った作品は迷わず買います。アートとの出会いは一期一会ですから。持ち帰ったら、どんどん飾って、日々眺めます。それが作品に対する最大のリスペクトだと思っています。
アートが暮らしに与えてくれるのが、ポジティブなエネルギーです。花や植物にも同じ力がありますが、アートはさらに、日常を非日常へと導いてくれるような力強さがあるんです」とヴァレリーさん。
ホームリネンを中心としたインテリア雑貨ブランド「V.Barkowski」を手がけるほか、職人の手仕事の温もりを感じさせるモロッコのガラスや、触り心地よい上質なインドのリネンなどのコンサルティングも担当。その審美眼が光るプロダクツは、世界中の高感度な顧客に支持されています。
「好きな風景のポラロイド写真を好みのフレームに収めたりコラージュしたり、オリジナルの作品をディスプレイするのも楽しいですよ。最初から大作を買おうと力まずに、ファーストインプレッションに従って好きなアートを手に入れて。それがインテリアに調和する作品と出合う近道です」とはヴァレリーさんからのアドバイス。
「モノトーンの色調は、花や木、フルーツなど 自然界の色が、より映えるように思います」
モロッコを旅したのを機にこの地へ。オレンジの木が頭上にあるような自然を感じる暮らしに憧れて、マラケシュで庭のある家を探そうと夫婦で計画。200軒以上の物件を見て回り、出合ったのがこの家だったとか。「長い間放置されていたため保存状態が悪く、とても住める状態ではなかったのです。
悩みましたが、シンプルな間取りと大きな窓、美しい中庭が決め手に。ベルギー出身でマラケシュ在住の信頼する建築家カンタン・ウィルボーに依頼し、約3年かけて改装しました」改装にあたっての希望は、シンプル、ミニマル、ピュアの点。
「モロッコは色の街です。ピンク色の物外壁、イヴ・サンローランが愛したマジョレル庭園の深いブルー、カラフルなモザイクタイル。ミントティーのグリーンに、街中に植えられたオレンジでつくる橙色のジュース...。鮮やかな色があふれています。だからあえて、家の中はモノトーンに。色、空間、モロッコの光、すべてのトーンを考慮して、インテリアとアートをコーディネートしました。
室内の壁は白、クリーム、ベージュなどでニュートラルに。カラフルな色だった木の扉もグレーに塗り、床もグレーのタイルをモザイク状に貼りました。シンプル、ミニマル、ピュアを意識したデザインと色のおかげで、花や木、フルーツなど自然界の色が、より映えるように思います」
ヴァレリーさんのHouse DATA
●間取り…中庭付きリビングルーム、ダイニングルーム、キッチン、仕事部屋、4ベッドルーム、4バスルーム、テラス。約350m²。
●家族構成…ひとり暮らし
●住み始めて何年?…約24年
「スロー」を心がけています。仕事だけでなく、心のあり方も、ゆっくりとしたリズムを意識して
この家に住んで24年。改装の際、中庭に植えた4本のオレンジの木は大きく成長。小鳥のさえずりを聞きながらソファでお茶を飲んだり、本を読む時間が好きというヴァレリーさん。
「『スロー』を心がけています。仕事だけでなく心のあり方も、ゆっくりとしたリズムを意識して。私の仕事は、トレンドをつくるのではなく、長い年月を経ても価値や意味を失わないタイムレスなものをつくること。
そのためには、心からリラックスできる心地よい場所が必要です。私にとって家は、人生のクオリティを高める場所でもあります。また、家は常に小さな変化を求めるもの。だから、アートもインテリアもこれと決めつけすぎず柔軟な気持ちで選ぶといいと思います。
そのためにも、室内の色彩や家具は、シンプルかつニュートラルにしておくと、変化がつけやすいですね。いずれにせよ、自分にとって、家のどこで過ごすどんな時間も愛おしいと思えるかどうかが大切だと思います」
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- BY :
- 『Precious7月号』小学館、2020年
- PHOTO :
- 篠あゆみ
- EDIT&WRITING :
- 鈴木ひろこ、田中美保、古里典子(Precious)