ヴァレリー・バルコウスキさんのモノトーン・ミニマルな家

Valerie Barkowskiさん
「V.Barkowski」創設者兼デザイナー、アートディレクター
(ヴァレリー・バルコウスキ)ベルギー出身。大学で建築を学び、卒業後ブリュッセルへ。モスクワでロシア人アーティストをキュレ ートするギャラリーを運営。旅を機にモロッコに移り、1997年、マラケシュの職人たちがつくるリネンや小物を中心とした自身のブランド「V.Barkowski」を開始。アーティスト用のレジデンスも運営。

モロッコは色の街。だからあえてアートも室内もモノトーンに。 シンプル、ミニマル、ピュアがテーマです

モロッコの古都、マラケシュ。歴史的建造物が立ち並ぶ世界遺産のメディナ(旧市街)地区にたたずむヴァレリー邸は、17世紀初めに聖人への祈りの場として建てられた建物を改装。家のそこかしこにアートが飾られ、まるでギャラリーのようです。

「有名・無名にかかわず、好きだと思った作品は迷わず買います。アートとの出会いは一期一会ですから。持ち帰ったら、どんどん飾って、日々眺めます。それが作品に対する最大のリスペクトだと思っています。

アートが暮らしに与えてくれるのが、ポジティブなエネルギーです。花や植物にも同じ力がありますが、アートはさらに、日常を非日常へと導いてくれるような力強さがあるんです」とヴァレリーさん。

ホームリネンを中心としたインテリア雑貨ブランド「V.Barkowski」を手がけるほか、職人の手仕事の温もりを感じさせるモロッコのガラスや、触り心地よい上質なインドのリネンなどのコンサルティングも担当。その審美眼が光るプロダクツは、世界中の高感度な顧客に支持されています。

階段の踊り場も小さなギャラリースペース。鳥が描かれた絵画はロシア人画家・アンドレ・カルポヴの作品。
階段の踊り場も小さなギャラリースペース。鳥が描かれた絵画はロシア人画家・アンドレ・カルポヴの作品。
モノトーンが基調のダイニング。テーブルは〝マリー・バスティッド〟、椅子とラグは、マラケシュで評判のインテリアショップ「ムスタファ・ブラウィ」で購入。大きな扉は、もともとカラフルだったものをグレーにペイン ト。シンプルな白シャツがヴァレリーさんの定番。ワードローブのほとんどは、ベルギーのソフィ・ドールさんのブランド。
モノトーンが基調のダイニング。テーブルは「マリー・バスティッド」、椅子とラグは、マラケシュで評判のインテリアショップ「ムスタファ・ブラウィ」で購入。大きな扉は、もともとカラフルだったものをグレーにペイント。シンプルな白シャツがヴァレリーさんの定番。ワードローブのほとんどは、ベルギーのソフィ・ドールさんのブランド。
本棚の上もアートスペースに。
本棚の上もアートスペースに。

「好きな風景のポラロイド写真を好みのフレームに収めたりコラージュしたり、オリジナルの作品をディスプレイするのも楽しいですよ。最初から大作を買おうと力まずに、ファーストインプレッションに従って好きなアートを手に入れて。それがインテリアに調和する作品と出合う近道です」とはヴァレリーさんからのアドバイス。

’70年代の家族写真を撮影したケニアのアーティストの作品を額装して壁面に。帽子形の照明はイギリスの〝インナーモスト〟。
’70年代の家族写真を撮影したケニアのアーティストの作品を額装して壁面に。帽子形の照明はイギリスの「インナーモスト」。
セメントを詰めていた袋でできたアートは、友人のフランス人作家エティエンヌ・イヴァー作。’99年の作品。
セメントを詰めていた袋でできたアートは、友人のフランス人作家エティエンヌ・イヴァー作。’99年の作品。
モノクロのボタニカルな3枚の写真と絨毯商人のカラフルな写真( 下段の写真)、はフランス人アーティスト、マリー・バスティッド。
モノクロのボタニカルな3枚の写真と絨毯商人のカラフルな写真(下段の写真)は、フランス人アーティスト、マリー・バスティッド。
モロッコの商人が草を運ぶ絵は、オランダ人Anne Goodijnの作品。下2枚はロシア人の若手無名アーティスト作。
モロッコの商人が草を運ぶ絵は、オランダ人Anne Goodijnの作品。下2枚はロシア人の若手無名アーティスト作。
モノクロのフルーツの絵は友人のアーティストMetradjiから贈られたもの。
モノクロのフルーツの絵は友人のアーティストMetradjiから贈られたもの。
階段途中にもフォトアートが(作家名は不明)。
階段途中にもフォトアートが(作家名は不明)。

「モノトーンの色調は、花や木、フルーツなど 自然界の色が、より映えるように思います」

モロッコを旅したのを機にこの地へ。オレンジの木が頭上にあるような自然を感じる暮らしに憧れて、マラケシュで庭のある家を探そうと夫婦で計画。200軒以上の物件を見て回り、出合ったのがこの家だったとか。「長い間放置されていたため保存状態が悪く、とても住める状態ではなかったのです。

悩みましたが、シンプルな間取りと大きな窓、美しい中庭が決め手に。ベルギー出身でマラケシュ在住の信頼する建築家カンタン・ウィルボーに依頼し、約3年かけて改装しました」改装にあたっての希望は、シンプル、ミニマル、ピュアの点。

「モロッコは色の街です。ピンク色の物外壁、イヴ・サンローランが愛したマジョレル庭園の深いブルー、カラフルなモザイクタイル。ミントティーのグリーンに、街中に植えられたオレンジでつくる橙色のジュース...。鮮やかな色があふれています。だからあえて、家の中はモノトーンに。色、空間、モロッコの光、すべてのトーンを考慮して、インテリアとアートをコーディネートしました。

室内の壁は白、クリーム、ベージュなどでニュートラルに。カラフルな色だった木の扉もグレーに塗り、床もグレーのタイルをモザイク状に貼りました。シンプル、ミニマル、ピュアを意識したデザインと色のおかげで、花や木、フルーツなど自然界の色が、より映えるように思います」

ヴァレリーさんのHouse DATA

●間取り…中庭付きリビングルーム、ダイニングルーム、キッチン、仕事部屋、4ベッドルーム、4バスルーム、テラス。約350m²。
●家族構成…ひとり暮らし
●住み始めて何年?…約24年

寝室。鮮やかなマスタードイエローのベッドリネンがアクセント。
寝室。鮮やかなマスタードイエローのベッドリネンがアクセント。
テラス。17世紀と現 代の時間軸を超えて調和するインテリア。ソファはパリのインテリアショップ「カラヴァン」で購入。クッションはすべて〝V.Barkowski〟。 ワイヤーチェアは〝ベルトーヤ〟、レザーのアンティークチェアは「ムスタファ・ブラウィ」で。
テラス。17世紀と現代の時間軸を超えて調和するインテリア。ソファはパリのインテリアショップ「カラヴァン」で購入。クッションはすべて「V.Barkowski」。 ワイヤーチェアは「ベルトーヤ」、レザーのアンティークチェアは「ムスタファ・ブラウィ」で。
テラス奥にはシエスタにぴったりのスペースが。クッションは〝V.Barkowski〟。ランプシェードはチュニジアのブランド〝ロック・ザ・カスバ〟のもの。敷物はモロッコ伝統の織物「ハンディラ」。モダン×エスニックのミックスに。
テラス奥にはシエスタにぴったりのスペースが。クッションは「V.Barkowski」。ランプシェードはチュニジアのブランド「ロック・ザ・カスバ」のもの。敷物はモロッコ伝統の織物「ハンディラ」。モダン×エスニックのミックスに。
バスルーム。モロッコのインテリアで人気のモチーフ、星形の照明がキュート。
バスルーム。モロッコのインテリアで人気のモチーフ、星形の照明がキュート。
カラフルなポンポン付きのタオルは、2003 年までヴァレリーさんが手がけていたブランド〝ミアジア〟のもの。
カラフルなポンポン付きのタオルは、2003年までヴァレリーさんが手がけていたブランド「ミアジア」のもの。
〝Moucharabieh(〟ムシャラビエ)と呼ばれるモロッコの伝統的な装飾がほどこされた窓枠。繊細な飾りから漏れる太陽の光が幻想的な模様を描く。もともと木製だったが、最近はメタル使いが主流だそう。
「Moucharabieh(ムシャラビエ)」と呼ばれるモロッコの伝統的な装飾がほどこされた窓枠。繊細な飾りから漏れる太陽の光が幻想的な模様を描く。もともと木製だったが、最近はメタル使いが主流だそう。
独特の緑色が特徴のマラケシュ・タムグルート焼の器には、庭のレモンやオレンジが。
独特の緑色が特徴のマラケシュ・タムグルート焼の器には、庭のレモンやオレンジが。
「V.Barkowski」のオリジナルリネンを愛用。ベッドの四隅に飾られた木枠は、モロッコのアンティークの飾りを取り付けた、オリジナルのデザイン。

「スロー」を心がけています。仕事だけでなく、心のあり方も、ゆっくりとしたリズムを意識して

この家に住んで24年。改装の際、中庭に植えた4本のオレンジの木は大きく成長。小鳥のさえずりを聞きながらソファでお茶を飲んだり、本を読む時間が好きというヴァレリーさん。

「『スロー』を心がけています。仕事だけでなく心のあり方も、ゆっくりとしたリズムを意識して。私の仕事は、トレンドをつくるのではなく、長い年月を経ても価値や意味を失わないタイムレスなものをつくること。

そのためには、心からリラックスできる心地よい場所が必要です。私にとって家は、人生のクオリティを高める場所でもあります。また、家は常に小さな変化を求めるもの。だから、アートもインテリアもこれと決めつけすぎず柔軟な気持ちで選ぶといいと思います。

そのためにも、室内の色彩や家具は、シンプルかつニュートラルにしておくと、変化がつけやすいですね。いずれにせよ、自分にとって、家のどこで過ごすどんな時間も愛おしいと思えるかどうかが大切だと思います」

キッチン正面にずらりと飾られた木のおたまが素敵 シンプルな形の木の器やカッティングボードなどはモロッコの有名な工芸品。すべてハンドメイド。棚には、クミンやウコンなどモロッコの家庭料理に欠かせないヘルシーな調味料が。
キッチン正面にずらりと飾られた木のおたまが素敵! シンプルな形の木の器やカッティングボードなどはモロッコの有名な工芸品。すべてハンドメイド。棚には、クミンやウコンなどモロッコの家庭料理に欠かせないヘルシーな調味料が。
中庭でリラックスするヴァレリーさん。
中庭でリラックスするヴァレリーさん。
モロッコのおもてなしの定番、ミントティー。使い込まれたティーポットと、再生ガラスのコップが愛おしい。
モロッコのおもてなしの定番、ミントティー。使い込まれたティーポットと、再生ガラスのコップが愛おしい。
フェズ焼きのボウル。繊細な模様使いが特徴。
フェズ焼きのボウル。繊細な模様使いが特徴。
テラスでのランチ。にんじんの揚げ物、紫キャベツとクルミ入りのサラダ、ビーツのサラダ、フェーブ豆のサラダなど、ヘルシーな料理を鮮やかな柄のお皿で。
テラスでのランチ。にんじんの揚げ物、紫キャベツとクルミ入りのサラダ、ビーツのサラダ、フェーブ豆のサラダなど、ヘルシーな料理を鮮やかな柄のお皿で。
タンポポの写真は、偶然アンティーク店で見つけ、ひと目惚れした無名作家の作品。
タンポポの写真は、偶然アンティーク店で見つけ、ひと目惚れした無名作家の作品。
暖炉前の一角には、 赤いひじかけ椅子を配して、ラグとともに色を添えて。椅子はタイムレスなデザインで知られるベルギーの〝エスニ クラフト〟。パン焼き用の古い鍋を天板にしたアンティーク のローテーブルが粋。
暖炉前の一角には、赤いひじかけ椅子を配して、ラグとともに色を添えて。椅子はタイムレスなデザインで知られるベルギーの「エスニクラフト」。パン焼き用の古い鍋を天板にしたアンティーク のローテーブルが粋。
廊下のユニークな顔の飾りは中央アフリカのアンティーク。「ムスタファ・ブラウィ」で購入。 白いシェードもアンティーク。
廊下のユニークな顔の飾りは中央アフリカのアンティーク。「ムスタファ・ブラウィ」で購入。白いシェードもアンティーク。
大きなサボテンが南国情緒たっぷりのテラス。丸いシェードは、夜、キャンドルを入れると小さなパンチングからキラキラとグラフィカルな灯りが楽しめる。
大きなサボテンが南国情緒たっぷりのテラス。丸いシェードは、夜、キャンドルを入れると小さなパンチングからキラキラとグラフィカルな灯りが楽しめる。
ヴァレリーさんの別荘の庭から摘んできた ミモザ。
ヴァレリーさんの別荘の庭から摘んできたミモザ。
小さな多肉植物がグラフィカルに飾られたテラスの壁。イチゴのムースでおやつタイム。
小さな多肉植物がグラフィカルに飾られたテラスの壁。イチゴのムースでおやつタイム。
モロッコの男性の正装に着用される帽子形のランプシェードは〝V.Bark owski〟のオリジナルアイテム。
モロッコの男性の正装に着用される帽子形のランプシェードは「V.Bark owski」のオリジナルアイテム。
木の屋根のテラスでは、 午後のお茶やディナー後に集まって食後酒を楽しむことも。 オブジェのように飾られた箒が白い壁に愛嬌をプラス。レトロな扇風機と、ガーデンチェアのバランスが素敵。オリジナルオーダーしたテーブルは、空間に対して重すぎるために近々新しくする予定。
木の屋根のテラスでは、午後のお茶やディナー後に集まって食後酒を楽しむことも。オブジェのように飾られた箒が白い壁に愛嬌をプラス。レトロな扇風機と、ガーデンチェアのバランスが素敵。オリジナルオーダーしたテーブルは、空間に対して重すぎるために近々新しくする予定。
昔、ミルクの運搬に使用されていた素焼きの大きな壺と、大家族で食卓を囲むモロッコ人にとって欠かせない大皿をオブジェに。
昔、ミルクの運搬に使用されていた素焼きの大きな壺と、大家族で食卓を囲むモロッコ人にとって欠かせない大皿をオブジェに。
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Precious.jp編集部 
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『Precious7月号』小学館、2020年
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PHOTO :
篠あゆみ
EDIT&WRITING :
鈴木ひろこ、田中美保、古里典子(Precious)