数々の「本当にいいもの」に触れ、価値を見極めてきた大人の女性がその真価を語ります|作家・林 真理子さんの場合

創刊以来、Preciousはあまたの「名品」を選び出してきました。それらは、Preciousに関わる多くのファッションプロの方たちの意見をもとに、編集部スタッフが実際に手に触れ、着心地、使い勝手を見極め、その価値を実感したものばかりです。

Precious8月号では、「名品が私に教えてくれたこと…」をテーマに数々の「本当にいいもの」に触れ、価値を見極めてきた大人の女性7名のお話をご紹介しています。今回、作家の林真理子さんにお話をお聞きしました。

林 真理子さん
作家
(はやし まりこ)1954年山梨県生まれ。直木賞、柴田錬三郎賞、吉川英治文学賞、島清恋愛文学賞を受賞。2018年紫綬褒章受章。数々の文学賞の選考委員を務める。『週刊文春』の『夜ふけのなわとび(現タイトル)』は週刊誌エッセイ史上最多連載回数を更新中。近刊に『私はスカーレットⅡ』(小学館文庫)、『ウェイティング・バー』(文春文庫)ほか。

「名品というのは、つまるところ素材と色ということがこの頃わかるようになってきた」

『Precicous2019年5月号』撮影/浅井佳代子(P50〜55) ※名品のイメージ

ストールは何枚も持っていますが、いちばん重宝しているのは、「エルメス」の大判の黒と、「ジル サンダー」の青です。

「エルメス」の黒は、手触りがまるで違います。最高級のカシミアは、ぬめりのような光沢があり、肩にかけたときの重みがやさしい。ただ軽いだけではなく、暖かさを感じる心地よい重みです。

もう二十年以上前に、このストールを母にプレゼントしました。値段など全く知らなかったろう母は、毎日それこそ使い倒していた。抜けた白髪やゴミが付着して、体の一部のようになっていたのを憶えています。

母が亡くなってからは、クリーニングに出しながら使っています。観劇に行くとき、これほど便利なものはないです。コートのようにクロークに預けなくていいし、膝かけに使える。寒ければさっと羽織る。二代にわたって使っていると、いい感じになれてきて体にぐっと添ってくるようです。

そして黒よりも頻度が多いのが、「ジル サンダー」の十五年前に買った青。ありそうでない青です。くすんだ色味がとても好きで、紺やグレイのコートの上からさっと巻きつける。ヘビーローテーションゆえ、最近ややくたびれてきました。新しいものを探しているのだが、これ以上の青には出会っていません。

ところで、アジアを旅するとよく、「とんでもなくお買得のカシミア」に出会います。何枚か買ってみましたが、自分で使ったことはありません。私はあのまっすぐな、気持ちのよい青とかピンクがどうも好きになれないのです。

先日ネパールに行ったときにも、手にとる気になれなかった。すると現地の方が、しゃれたショップに連れていってくれました。アメリカやヨーロッパから帰った、若いアーティストが出品しているところ。ストールやスカーフの色が、ひねくれていて、大喜びした私は何枚も買い占めてしまいました。

シフォンの色にも私はとてもうるさい。

娘の成人式の振袖をつくったものの、あの白いふわふわストールを羽織らせるつもりがありませんでした。娘も嫌い、というので、それこそ東京中、いろんなショップを探しまわりました。

ふんわりとしたピンクのシフォンのストール。だが綺麗なだけではダメ。わかりやすい綺麗さではない。そして「ルイ・ヴィトン」でやっと見つけた。ちょっとベージュがかった、ピンクのシフォンストール。

曖昧さがいい。ニュアンスというものこそ、贅沢なものとつくづく思います。

この記事の執筆者
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Precious.jp編集部 
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『Precious8月号』小学館、2020年
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EDIT&WRITING :
兼信実加子、剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)