紳士靴の歴史は英国にあり。世界に数多あるシューメーカーの中でも、ここロンドンのセント・ジェームズに店を構える「ジョン・ロブ」は唯一無二の存在だ。その理由を語るのは創業一族であるハンター家5代目、ジョナサン・ハンター・ロブ氏だ。

英国クラフツマンシップ、その真髄と卓越性(エクセレンス)

「ジョン・ロブ」を経営する5代目ジョナサン・ハンター・ロブ氏。4代目である父、ジョン・ハンター・ロブ氏からラストメーキングを学ぶ。現在、「ジョン・ロブ」を経営する彼自身も30年以上の経験を持つ熟練のラストメーカーだ。ふたりの兄弟と共に店頭に立ち、ラストを重視した創業者の哲学を受け継いでいる。
「ジョン・ロブ」を経営する5代目ジョナサン・ハンター・ロブ氏。

「いかにインターネットが普及しようともオンラインで買えないものがあります。トウシェイプやラバーソールといったスタイルは顧客の要望により変えている部分もありますが、私たちが決して変えないのは創業者から継承してきたビスポークの靴づくりの製法、すなわち伝統です。製造するのはビスポークのみ、そしてこの地でつくる意味がある。英国王室との強い絆が、ロンドンを卓越したクラフツマンシップの中心地としましたが、『ジョン・ロブ』は今も英国王室が形成してきた卓越性(エクセレンス)の一部だからです」

この言葉を裏付けるとおり、「ジョン・ロブ」は英国王室からロイヤルワラントを授与されている唯一のビスポークシューメーカーであり、エドワード7世に始まり現在のプリンス・オブ・ウェールズ(チャールズ皇太子)まで、継続してワラントを保持している。

宮殿にほど近いセント・ジェームズにある店内には、時空を超越した空間が広がっている。地上階では5人のラストメーカーが顧客を迎える。地下のワークルームには、2万足ともいわれるラスト(木型)が保管され、10人ほどの職人が働く。ツリーメーカーも含めた外注の職人を合わせると、ビスポークでは最大規模の工房だろう。

地下に保存された膨大な量の顧客のラスト(木型)とラストメーカーのティム・レパノン氏
地下に保存された膨大な量の顧客のラスト(木型)とラストメーカーのティム・レパノン氏

ラストメーカーのティム・レパノン氏(上写真)は数々の名店で修業し、20年を超える靴づくりの経験を持つ。「ジョン・ロブ」の靴づくり、クラフツマンシップにおける強みとは何か、訊いてみた。

「100%、ハンドメイド。それが『ジョン・ロブ』の伝統です。ビスポークシューズはフィット感が最も重要で、スタイルをどうつくるかが次の重要な要素となります。そのため採寸と同じ人間がラストをつくることが不可欠です。さらに経験を積むこと、反復による習熟も必要です。一方で、職人を養成できるビスポークメーカーは少ないが、ここではそれができる。これこそが『ジョン・ロブ』の強みです」

ブラックカーフレザー、セミ・ブローグのダービーシューズ。こうした比較的カジュアルなスタイルにもビスポークならではのエレガンスがある。クラフツマンシップ、素材のレザーと「ジョン・ロブ」の高いクオリティが如実に見て取れる。
ブラックカーフレザー、セミ・ブローグのダービーシューズ。こうした比較的カジュアルなスタイルにもビスポークならではのエレガンスがある。クラフツマンシップ、素材のレザーと「ジョン・ロブ」の高いクオリティが如実に見て取れる。
王室御用達を表す歴代のロイヤルアームス。手前はジョージ5世、奥がプリンス・オブ・ウェールズのもの。
王室御用達を表す歴代のロイヤルアームス。手前はジョージ5世、奥がプリンス・オブ・ウェールズのもの。

世界の超富裕層が集まるロンドンには、職人から職人へ継承されてきたビスポークの歴史がある。この地に継承される英国のクラフツマンシップ、その真髄をロブ氏はこう語った。

「クラフトはその地の伝統、文化、民族性と強く結びついています。靴づくりに代表される英国のクラフツマンシップ、その真髄は私たちがインディペンデント(独立した存在)であることです。13世紀の※マグナ・カルタの時代から英国人は独立心が強く、自由と権利を主張してきた。英国のクラフツマンはインディペンデントであるべきです。その結果、心で感じ、欲したものを自らのクラフト(技巧)を通して形にしてきたのです。それが私たちが継承してきた英国のクラフツマンシップの伝統です。今もその精神は私たちの靴に宿っています」

※マグナ・カルタ/1215年に制定された「自由の大憲章」。国民の権利と83自由を主張し、英国立憲制の支柱となった。
歴史を彩った有名顧客も多い。海運王アリストテレス・オナシスの木型も残されている。
歴史を彩った有名顧客も多い。海運王アリストテレス・オナシスの木型も残されている。
店内中央に鎮座する重厚なキャビネットには過去のサンプルシューズが収められている。本店ロンドンと並び、20世紀初頭にオープンし、’70年代に閉鎖したパリ支店の名が並記され、ヨーロッパ最高のビスポークシューズを踏襲してきた伝統を伝える。
店内中央に鎮座する重厚なキャビネットには過去のサンプルシューズが収められている。本店ロンドンと並び、20世紀初頭にオープンし、’70年代に閉鎖したパリ支店の名が並記され、ヨーロッパ最高のビスポークシューズを踏襲してきた伝統を伝える。
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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2020年春号より
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武田正彦