1948年、ランドローバーの前身であるローバー・モーター社がオフロード向け車両として発売したモデルがランドローバー・シリーズI。「道なき道を行く4駆の王者」という、ランドローバーのイメージを確立した重要なモデルだが、その後は順次改良を加えながらシリーズⅢまで進化。そして1990年に行った改良に合わせて「ディフェンダー」と改称され、2015年の12月まで生産は続けられたのが旧型モデルである。
それから5年。伝統の四角いボディを始め、丸型のヘッドライトやスパッと切り落としたリアのデザインなど、旧型の特徴を現代風に解釈した新世代「ディフェンダー」のデザインは、なかなかの出来映えである。その調理の上手さ、巧みさは、オールド「ミニ」からニュー「ミニ」への世代交代のごとく、上手く行われたDNAの継承例と言える。
一方、旧型を知らない人にとって、この新型はどう映るのだろうか? 実車を目の当たりにした身として、その問いについても答えは「確実に魅力的」と断言できる。
特別パワフルでないのに頼もしい
今回、試乗したのはロングボディの「110(ワンテン)」。ショートボディの「90(ナインティ)」の日本上陸まではもう少しかかる。
第一印象は「でかいなぁ」。都市部での駐車場では厳しいところも多いはずだ。それでも、すでに初期のローンチモデルは完売状態という人気ぶりは、やはりデザインによるところが多いのだろう。
車体の構造はラダーフレームからアルミニウム製のモノコックに変更されていて、リリースによれば「ランドローバー史上最もタフな構造」だという。さらにサスペンションは前後とも独立懸架を採用し、悪路、オンロードとも高い走破性と走行安定性を両立しているそうだ。
走り出してみると、メーカーの自信のほどが、すぐに理解できた。現在のところ日本仕様のエンジンとして用意されているのは、2リッターの直列4気筒のガソリンターボのみで、8速のATと組み合わせられる。最大出力は300馬力で、最大トルクが400N・m。車両重量は2280kgだから、特別に強力というわけでもない。それでも低回転からしっかりとトルクを感じさせてくれ、適切な変速のおかげで不足を感じることはない。
何よりもオンロードのゆったりとした乗り心地の良さは、トップモデルのレンジローバーにも匹敵するほどしなやかで、上質な味わいである。標準装備のエアサスペンションの効果は、かなりのものだ。未導入の「90」はコイルサスペンションが標準装備となるので、その違いはいつかぜひ試したい。
インテリアは随所にツールっぽさが感じられるデザインで、そこはレンジローバーと明らかに一線を画す。それでも細部まで丁寧に作り込まれ、ミニマルなラグジュアリー空間という印象だ。
オフロードを「普通に」走ることの凄さ
汚すのがもったいない気もしたが、やはり「ディフェンダー」が真価を発揮するのはオフロードだ。アップダウンが激しく、石がゴロゴロと転がり、そして滑りやすい路面が混在したルートへと乗り出してみる。結論からいうと、どんな状況でも涼しい顔で走り抜けてしまった。このテの4WDは“いかにゆっくり、確実にトラクションを得ながら確実に走り抜けるか”という性能が重要だが、その点について、かなりレベルの高い性能なのだ。
低いエンジン回転でも、しっかりとトルクを発揮し、低速でガレ場やモーグルを静々と走り抜けていく。こんなステージを日常で走ることはほとんどないだろうが、どんな状況においても安定感があるというところに、このクルマの価値がある。現在、SUVにくくられるクルマはたくさんあるが、「ディフェンダー」の完成度は突出しており、「別物」といえる次元にある。
今後はハイブリッド車や開発中といわれるディーゼル車、さらには投入が遅れているショートボディの「90」が入ってくれば、さらに新しい走りの味が加わることになるはず。
旧型ファンの中には「まぁ、別物だからあまり興味はないね」という人もいるようだが、このクルマが「ディフェンダー」を名乗るにふさわしいことは、間違いない。
【ランドローバー「ディフェンダー110」】
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,945×1,995×1,970mm
車両重量:2,280kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:AT
エンジン:直列4気筒DOHCターボ 1,997cc
最高出力:221kw(300PS/5,500rpm)
最大トルク:400Nm/1,500~4,000rpm
価格:¥5,890,000〜(税込)
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- TEXT :
- 佐藤篤司 自動車ライター