クルマを速く走らせるうえで重要なのが、車体の軽量化。軽ければエンジンのパワーはより効率よく速さに転換できる。そしてもうひとつ重要なのがエアロダイナミクス、空気抵抗を減らすためのボディデザインだ。
古くからモータースポーツの世界では、エンジニアたちが目に見えない空気の壁を打ち破るための様々なアイデアを試してきた。なかでも1960年代から流行したのが、ボディ後方で気流が乱れないように、ボディの後端を伸ばすロングテールという手法。車体が長くなる=重くなるという欠点はあるものの、特に直線でのスピードが伸びることから、以後も挑戦するコンストラクターは後を絶たない。
何よりも、スピードを体現した流線型のボディが、レーシングカーの機能美を表している。後ろに長く伸びたティアドロップ・デザインには、スピードに賭けた男たちの情熱が、ロマンが宿っているのだ。
そして今年9月、ロングテールのロマンを宿したロードカーが日本で初めて公開された。その名もマクラーレン「スピードテール」。最高速度403km/hを誇る、全長5m強のハイパーGTだ。
シームレスデザインの秘密
水滴を横にしたような造形は、従来のマクラーレンモデルと共通。だが、「スピードテール」は前述したロングテールだけでなく、ボディ全体をシームレスにデザインしているのが新しい。
たとえばドアミラーは、より前面投影面積の小さい高解像度デジタル・カメラに代わっている。後方の映像はコクピット左右に設けられたスクリーンに表示され、停車時はカメラがドアに格納される。
「アクティブ・エルロン」と呼ばれる補助翼も見どころだ。これはリアエンドの左右に一体化した空力デイバイスで、高速走行時や減速時に立ち上がる、ユニークな仕掛け。旅客機の主翼後端で上下するやつ、といえばわかりやすいだろうか。昔のようにただボディ後端を伸ばすだけでなく、先進の分析技術によって空気を味方につけているのだ。
ラグジュアリーなセンターコクピット
「スピードテール」はハイパーGTというだけあり、荷室もしっかり確保されている。90年代に製造されたロードカー「マクラーレンF1」同様、キャビンの中央に運転席、両脇の少し後ろに助手席を配置したレイアウトも、ひとり旅では両脇が魅力的なラゲッジスペースとして活用できる。
そのコクピットを含むキャビン内は、とてもスマートで贅沢な空間に仕上げられている。カスタムメイドのカーボン・ファイバー製シートは驚くほど薄いが、運転中は体をしっかりとホールドする。シート表皮はフルアニリン・セミアニリン仕上げの軽く上質なレザーで覆われ、乗り降りの際に体を滑り込ませやすい。ちなみに、レザーは好みの色、ステッチ、パターンを選ぶことができ、装飾パターンを入れたり、ヴィンテージ家具のようにエッジに色を付ける仕上げなど、豊富な選択肢が用意されている。
パフォーマンスを最大限に発揮するための専用モード
この、ラグジュアリーなデザインと最新のエンジニリアングが融合した、軽く美しい車体には、4リッターのV8ツインターボエンジンとパラレルハイブリッドシステムが収まる。最高出力は1070馬力に達し、ハイブリッド・パワートレインを高速走行用に最適化するなどした専用の「ヴェロシティ・モード」を使用することで、最高速度403km/hという、矢のような(矢よりも速い?)スピードを達成したという。
すべてがスペシャルな「スピードテール」の価格は、税抜175万ポンドから(2020年9月14日現在の日本円換算で約2億3840万円〜)。男のロマンを叶えられるオーナーの枠は、世界で106人。すでに予約販売は完了しているという。
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- 櫻井 香 記者