1896年に創業した「松田和傘店」は、石川県金沢で唯一、金沢和傘をつくり続ける名店である。軽くて携帯に便利な洋傘を日常的に使う今、頑丈な竹軸を用いたずっしりと重みのある和傘が存在していること自体が、奇跡のようである。

「松田和傘店」の『助六』と『元禄蛇の目』、ずっしりとした重み

頑丈な男らしさのなかに、繊細な細工が共存しているのが、金沢和傘の類まれなる個性である。
頑丈な男らしさのなかに、繊細な細工が共存しているのが、金沢和傘の類まれなる個性である。

金沢和傘の美しさは、まず「用の美」にある。北陸の雪は、水気が多く重い。たいした雪でなくても、傘に降り積もれば十分な重量になる。風雪に耐えるため、丈夫な和紙を傘の生地にする。コウゾ100%で漉いた紙に、防虫防腐効果のある柿渋を塗り込み、一子相伝の配合による油をかけたのち、漆で仕上げた強靭な和紙だ。

類まれなる個性も、つくり手の配慮があるからなせるもの

傘の先端に近い「天井」といわれる技巧が必要な部分は、4枚の和紙をしっかりと重ねて補強し、重い雪に耐える。蛇の目の白いスペースには、和紙の間にもみじを挟み、和やかな美を表現する。骨組みの竹素材とのコントラストが実に風流だ。
傘の先端に近い「天井」といわれる技巧が必要な部分は、4枚の和紙をしっかりと重ねて補強し、重い雪に耐える。蛇の目の白いスペースには、和紙の間にもみじを挟み、和やかな美を表現する。骨組みの竹素材とのコントラストが実に風流だ。
傘を開いたときの内側もまた華麗。「千鳥がけ」と呼ばれる5 色の木綿糸を編み込む伝統伎で、綺麗な円錐形をつくる。重厚さに対比した、繊細な仕事のひとつだが、赤やブルー、グリーンなどの鮮やかな色彩が目に飛び込み、重々しい雪のなかでも、晴れやかな気分にさせる。各¥90,000(松田和傘店)
傘を開いたときの内側もまた華麗。「千鳥がけ」と呼ばれる5色の木綿糸を編み込む伝統伎で、綺麗な円錐形をつくる。重厚さに対比した、繊細な仕事のひとつだが、赤やブルー、グリーンなどの鮮やかな色彩が目に飛び込み、重々しい雪や雨であっても、晴れやかな気分にさせる。

傘のデザインも味わい深い。伝統的な柄を踏襲しつつ、もみじを和紙に挟んだ写真下の『助六』や、男らしい紫紺に市松模様を加えた『元禄蛇の目』などの洒落た表情が、悪天候でも憂鬱な気分にさせない。つくり手の配慮がにじみ出ている傘だ。 

問い合わせ先

  • 松田和傘店 TEL:076-241-2853
    住所/石川県金沢市千日町7-4
    ​営業/9:00~17:00 不定休
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PHOTO :
池田 敦(パイルドライバー)