歴史的なパンデミックを経験している今、ジョルジオ・アルマーニ氏にインタビュー

ジョルジオ・アルマーニ氏

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世界で最も影響力のあるファッションデザイナーであり経営者。コロナ禍を経て、「今こそみなが歩みの速度をゆるめて、考えるべき時」「ファッションは少しの癒しと品格、再び人との交流を始める勇気を与える」と説く。ⒸSGP

ジョルジオ アルマーニ「NEW NORMAL」コレクションとは?

Q1:「ニューノーマル」コレクションは、エレガンスという概念を重要視されてきたアルマーニさんが、快適に長く着られるようにデザインした、タイムレスなコレクションだと思います。今回のコレクションは、ポストコロナ時代のニーズに叶ったものだと思いますか? また、それを消費者がどのように受け取り、新しい時代の要請をどう満たすと思いますか?
 
A:ニューノーマルコレクションは常に形と素材のバランスを通して表現されたジョルジオ・アルマーニの真髄であり、トレンドの概念を超えたエレガンスを生み出しています。
 
ツイル、セーブルシルク、ツイード、ピュアカシミアなどの絶妙な手触りの生地とすっきりとしたシルエットが融合したコレクションです。ニューノーマルコレクションでは毎回流動的でわかりやすいワードローブを発表しています。
 
2020-21秋冬コレクションは、正にその例です。ゆったりしたパンツ、包み込むニット、ロングコート、スタンドカラーシャツなどに合わせたシングルまたはダブルブレストの短いジャケット。 全てグレー、グレージュ、ブラック、ブルーの中間色でバーガンディとブラウンがアクセントになっています。
 
これはいわゆる恒久的な商品であり、現代の要求を満たすジョルジオ・アルマーニのコレクションの中のアイコン的作品です。
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「NEW NORMAL」の広告キャンペーンは、世界的フォトグラファー、故・ピーター・リンドバーグ氏が撮影しました。ナジャ・アウアマンやステラ・テナントなど元祖スーパーモデルを起用し、女性の美は永遠であることを表現しています。ⒸPeter Lindbergh
Q2:ファッションのスタイルは大きく2つに分かれると思います。ひとつは、パンデミックが私たちの生活の中にもたらした、新しい「丁寧な暮らし」と相性のいい、選び抜いた上質なものを長く使う(ファストファッションの対義語としての)「スローファッション」です。
そして、もう一つは、いわゆる「モード ファッション」と呼ばれる、しばしば急速に変化し、私たちに激しい変革をもたらすスタイルです。
この2つのスタイルのバランスをどう取るといいとお考えですか? また、アルマーニさんがファッション業界がこれからどうなっていくとご覧になっていますか?
 
A:私のニューノーマルコレクションは完璧に革新的な要素とクラッシックな要素のバランスが取れていると思います。「新しい」とはそれが現代的であることを意味します。
 
現代のお客様のためにクラシックなスタイルが見直されました。「ノーマル」とは標準です。パーフェクトな作品を作成するために使用される特定の美的コードであり、時代を超越したデザインになっています。
 
2016年に発表したニューノーマルコレクションの中で、私のアイデアを取り込み始めました。
 
一時的なトレンドとは対照的な時を超越したものへの探求。現代のテイストに基づきながらクラシックなスタイルが見直される明確な美のコード。
 
これらを取り込み、長年ワードローブに置いてもらえるようなコレクションを創り出しました。それは過去を現代と繋ぎ、お客様に一時的な流行ではなく、永遠のスタイルという観点でファッションを考えてもらうためのものでもあります。
Q3:この歴史的なパンデミックの中で、ファッションは人々のためにどんな役割を果たすと思いますか?
 
A:ファッションは少しの癒しと品格、そして再び人との交流を始める勇気を与えることができます。
 
ファッションは人間の社会における重要な存在であることを忘れないでおきましょう。更に私はファッションが本質と感動を見極め、より少なく、しかし今までよりもより良く、世の中のため、そして地球のために最善のものとなることを願っています。
Q4:このパンデミックの間、デザイナーズスタジオや店頭などを含むファッション業界の特別なパワーや強さを感じた瞬間はありましたか?
 
A:ファッション業界の反応は速く、かつ実用的で、私はとてもポジティブなことだと感じました。
 
寄付から医療防護服を作るための生産施設の改造まで、誰もが助けるためにそれぞれの仕事をしてくれました。
 
そしてそれを見ることができたのはとても素晴らしいことでした。時にファッション業界はエゴが優先してしまうことがありますが、今回は調和のとれた行動ができました。この困難な時期を乗り越えるには、私たちはくじけずに、団結し続けなければならないというのが、私が信じる一番需要な教訓です。

ポストコロナ時代を迎えて、ジョルジオ・アルマーニ氏が今、感じていること

Q5:ポストコロナ期において「ラグジュアリー」という概念が、何を意味するようになってくると思いますか?
 
A:今回のパンデミックは真のラグジュアリーとは何かを理解する機会を与えてくれました。
 
外を歩く、そして旅をする自由、友人や愛する人たちに会える自由。結果として、人々はこれから先、ラグジュアリー商品とは全く違う接し方をするかもしれません。
 
生活においてシンプルなものにより感謝するようになり、商品を購入する際には今までよりも丁寧に考慮し、買ったものをより感謝して使うようになるでしょう。
Q6:ロックダウンを経験した後、アルマーニさんご自身のポリシーや哲学が変わったりしましたか? また、アルマーニさんの心の中で、以前よりこれは重要だと感じるようになったものごとはありますか?
 
A:パンデミックは一生懸命に仕事をすること、敬意を払うこと、現実を見つめること、というような価値に今まで以上に感謝することを教えてくれました。
 
ファッションの成功とは人々とそのニーズを理解し、それに応じて行動し、長持ちする美しい服を提供することから生まれるものだという基本を再確認する機会でもありました。
Q7:アルマーニさんは、創作を通して、いつも、女性のエターナルな美しさを表現されようとしていると感じています。ポストコロナ期における、女性の役割や生きる道について、どのようにお考えになっていますか?
 
A:女性は職場でも家庭でも、あらゆる分野で中心的な役割を果たし続けると思います。
 
私にとっては女性をサポートすること、女性の可能性を高めること、そして今までしてきたように女性が自分でいられる着やすい服を創り出すことはとても重要なのです。
 
私は常に女性に大きな関心を寄せており、女性に自分たちを表現する方法を提供してきたことを誇りに思います。私が女性に与えたかったのは、何よりも自分を表現する自由、そして選択の自由なのです。
Q8:アルマーニさんが、いつもミラノから全世界に向けて、ポジティブなメッセージを届けてくだださっていることを、本当にありがたいと思っています。そこで、改めて心からファッションを愛する日本の女性たちに向けたメッセージをいただけないでしょうか。
 
A:私のメッセージと励ましの言葉は、重要なことを優先するために減速して、長期的なことに集中することです。あなたの友達や家族と、そしてあなたの置かれている環境との関係を育むための時間を過ごしてください。

 

この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
BY :
『Precious10月号』小学館、2020年
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EDIT&WRITING :
下村葉月、中村絵里子(Precious)