「好きなものだけに囲まれた家」中国料理研究家・「華都飯店」オーナー、馬衣真さんのご自宅を訪問

馬 衣真さん
中国料理研究家・「華都飯店」オーナー
(Ima Ma)1965年に創業の「華都飯店」の三代目。祖母であり日本における中国家庭料理の第一人者・馬遅伯昌氏に師事。母は馬へれん氏。大学卒業後、さまざまなレストランのプロデュース、メニュー開発に携わった後、東京・港区で料理教室を主宰。現在は、三代目オーナーとして東京、大阪、福岡の店舗の運営に携わる。

「必要なものより、好きなものを。古今東西、雑多にミックスされているけれど、どこか統一感があるのは、"好き"が共通ワードだからかも」

美しく朽ちた100年以上前の古い中国の棚に、やわらかな風合いのエルメスの木のテーブル。現代アート作品に、アンティークショップで見つけた古道具…。

東洋と西洋、新しいものと古いもの、名品と名もなきもの。部屋に集うベクトルの異なるアイテムたちは、まるで最初からそこに置かれるためにつくられたかと錯覚するくらい、見事に調和しています。

「考えてみれば、"必要"だからと選んだものはほとんどありません。どれも、理由はわからないけど、強烈に"好き"なものばかりです」

玄関からリビングへと向かう廊下の一角。旦那様が京都の骨董店で見つけたアンティークチェアと、衣真さんがアメリカのインテリアショップの通販で買ったアイアンのコンソール。実家にあった古いジンジャーポットに、”ニコライ・バーグマン”の花器。そして、ジャン・コクトーのリトグラフ。古今東西、モダンとアンティークがミックスされた美しい空間。
玄関からリビングへと向かう廊下の一角。旦那様が京都の骨董店で見つけたアンティークチェアと、衣真さんがアメリカのインテリアショップの通販で買ったアイアンのコンソール。実家にあった古いジンジャーポットに、”ニコライ・バーグマン”の花器。そして、ジャン・コクトーのリトグラフ。古今東西、モダンとアンティークがミックスされた美しい空間。
ガラスのコーヒーテーブルは、モルテーニ。5年ほど前「アルフレックス東京」で購入。草木染のチャイニーズラグはMUNI。ターコイズブルーの洋書の上には、骨董のペーパーウエイト、作家もののキャンドルスナッファー、ルイ・ヴィトンのトランプがさりげなく。
ガラスのコーヒーテーブルは、モルテーニ。5年ほど前「アルフレックス東京」で購入。草木染のチャイニーズラグはMUNI。ターコイズブルーの洋書の上には、骨董のペーパーウエイト、作家もののキャンドルスナッファー、ルイ・ヴィトンのトランプがさりげなく。
香港のアンティークショップでひと目惚れしたエキゾチックな朱色の棚は、2か月かけて船便で運搬。100年前の中国南方のもので、食器棚として長年愛用。
香港のアンティークショップでひと目惚れしたエキゾチックな朱色の棚は、2か月かけて船便で運搬。100年前の中国南方のもので、食器棚として長年愛用。
実家から持ち込んだハーフムーンのチェストに、古道具店「白日」で見つけた鉄の輪のオブジェを合わせて。「実はこれ、醤油の木樽にはめるタガ(箍)なんです。おもしろいでしょう?」
実家から持ち込んだハーフムーンのチェストに、古道具店「白日」で見つけた鉄の輪のオブジェを合わせて。「実はこれ、醤油の木樽にはめるタガ(箍)なんです。おもしろいでしょう?」
ちょこんと置かれた中国のベビーシューズが愛らしい。
ちょこんと置かれた中国のベビーシューズが愛らしい。

「インテリアのほとんどは、旅先で出合ったもの。旅の思い出やその土地の空気や歴史が感じられるから」

そう笑うのは、三代続く中国料理の老舗「華都飯店」のオーナー、馬衣真さん。創業者の孫娘として経営に携わる一方で、中国料理研究家としても活躍しています。

「シノワズリな家具や小物は、祖母や母から譲り受けたもの、実家から持ち込んだものなどもあります。でも、わが家のインテリアのほとんどは、海外、国内問わず、旅先で出合ったもの。夫婦で散歩途中にふらりと入ったアンティークショップやギャラリー、骨董市でひと目惚れして持ち帰ることが多いですね。滞在中のホテルやレストランで見かけて気になったものがあれば、似たものを後日インターネットで探して購入したこともあります。共通しているのは、直感で"好き!"と、ビビビッときたものだという点。恋に落ちるのと同じように理由なんてないんです(笑)。特にアンティークは一期一会ですから、あまり迷いません。そのせいで、帰路はスーツケースに入りきらない大きな荷物を抱えてたいへんな思いをしたことも…」

大きな鏡の扉を開けると、カウンターとキッチンが。「主人が住んでいたマンションを10年前にフルリノベーションしました。
大きな鏡の扉を開けると、カウンターとキッチンが。「主人が住んでいたマンションを10年前にフルリノベーションしました」
その際、キッチンや収納を見せないこと、愛着ある家具(朱棚など)を引き続き使うこと、ヴィンテージマンションの天井の低さを感じさせない開放感を出すことを、建築家・デザイナーの方にお願いしました」。そこで提案されたのが、大きな鏡の扉とウッド×アイアンをベースにした案。四季折々の景色が鏡に映り込む開放感、木の温もりをアイアンの黒がキュッと引き締めるバランス、すべて気に入ったとか。
その際、キッチンや収納を見せないこと、愛着ある家具(朱棚など)を引き続き使うこと、ヴィンテージマンションの天井の低さを感じさせない開放感を出すことを、建築家・デザイナーの方にお願いしました」。そこで提案されたのが、大きな鏡の扉とウッド×アイアンをベースにした案。四季折々の景色が鏡に映り込む開放感、木の温もりをアイアンの黒がキュッと引き締めるバランス、すべて気に入ったとか。
すっきりと使いやすいキッチンは料理研究家ならではの工夫が。「キッチン道具は無印良品やイケア、100円ショップのものがほとんど。シンプルで飽きがこなくて、気軽に買い替えられる。長く使い込むよさもありますが、私は毎日使うものはできるだけピカピカでいたい派。鍋やフライパンも定期的に買い替えます」
すっきりと使いやすいキッチンは料理研究家ならではの工夫が。「キッチン道具は無印良品やイケア、100円ショップのものがほとんど。シンプルで飽きがこなくて、気軽に買い替えられる。長く使い込むよさもありますが、私は毎日使うものはできるだけピカピカでいたい派。鍋やフライパンも定期的に買い替えます」

そんなアイテムたちは、旅先での思い出や、訪れた土地の空気感や歴史をまとっていて、一緒に暮らすとより愛着がわく、と衣真さん。

「必要なものより、好きなものを。古今東西のものが雑多にミックスされているけれど、どこか統一感があるのは、住む人の"好き"が共通ワードだからかもしれません。逆にいえば、心から好きだと感じないものは、たとえわが家のインテリアに合うとすすめられようが、今、必要なものだろうが、置かないかも。それゆえ、うちは数年間、ダイニングテーブルやソファ、コーヒーテーブルがない日が続きました。不便といえば不便でしたが、本当に気に入るものに出合うまでは妥協しない。そこは、夫婦に共通していますね」

リビング・ダイニングの大きな扉の鏡は、明るくなりすぎないよう、薄くブラウンの色をつけている。中央には朱色の棚、右はキッチン&カウンター、左はすべて収納棚。鏡の戸に3本、波打つようにデザインされたアイアンは、東京・西麻布「鍛冶増」三代目が担当。照明はイタリアの1950年代のアンティーク。探し続けたダイニングテーブルは〝エルメス〟。「香港のショップでひと目惚れ。シンプルながら美しいシルエットと優しい木の色に惚れ込んで、日本のお店で取り寄せてもらいました。カイ・クリスチャンセンの椅子は、金沢の北欧ヴィンテージ家具専門店で。ひとつずつ見つけてはシートを張り替えてもらい、やっと6脚そろいました」
リビング・ダイニングの大きな扉の鏡は、明るくなりすぎないよう、薄くブラウンの色をつけている。中央には朱色の棚、右はキッチン&カウンター、左はすべて収納棚。鏡の戸に3本、波打つようにデザインされたアイアンは、東京・西麻布「鍛冶増」三代目が担当。照明はイタリアの1950年代のアンティーク。探し続けたダイニングテーブルは"エルメス"。「香港のショップでひと目惚れ。シンプルながら美しいシルエットと優しい木の色に惚れ込んで、日本のお店で取り寄せてもらいました。カイ・クリスチャンセンの椅子は、金沢の北欧ヴィンテージ家具専門店で。ひとつずつ見つけてはシートを張り替えてもらい、やっと6脚そろいました」

馬さんのHouse DATA

●間取り…3LDK
●家族構成…夫と息子
●住んで何年?…約13年

「家で過ごす時間が長くなるからこそ、心地よい空間の大切さに気づきます」

居心地のよさと、洗練と。大きな窓から明るい陽光が入り込むリビングには、そこかしこにアートが。

「骨董も好きですが、今の時代をともに生きているアーティストの作品も好きです。リビングの絵は、窓から見える景色を描いてもらったもの。Ryu Itadaniさんの作品です。12、3年前、彼がまだ駆け出しのころに購入した作品を描き直してもらいました。十数年の間に変化した作家としての手法や、景色(ビルが増えました)が楽しめます。また、ずっと恋い焦がれていた美術作家・須田悦弘さんの作品も昨年、縁あってついにわが家に。時節柄、自宅にいることが多くなる今だからこそ、"好き"なものに囲まれた心地よい空間の大切さに、改めて気づく日々です」

ソファも探し続け、やっと出合ったのはモルテーニ。カバーはグレーと白を、季節によってつけ替えている。「アルフレックス東京」で購入。手前の椅子はイタリアデザイン界の巨匠、アントニオ・チッテリオ。3枚組のカラフルな絵画はRyu Itadani作。もともとモノクロのペン画だったものを購入。その後アクリルに転向したRyu氏の希望もあり、2015年からアクリルで描き替えることに。その際、新たに増えたビルなどを書き足してくださり、約3年かかって戻ってきたそう。
ソファも探し続け、やっと出合ったのはモルテーニ。カバーはグレーと白を、季節によってつけ替えている。「アルフレックス東京」で購入。手前の椅子はイタリアデザイン界の巨匠、アントニオ・チッテリオ。3枚組のカラフルな絵画はRyu Itadani作。もともとモノクロのペン画だったものを購入。その後アクリルに転向したRyu氏の希望もあり、2015年からアクリルで描き替えることに。その際、新たに増えたビルなどを書き足してくださり、約3年かかって戻ってきたそう。
キッチンにもRyu氏の作品が。
キッチンにもRyu氏の作品が。
本物と見間違えるほどに精巧な花や草木の彫刻作品をインスタレーションで発表し、世界中で高い評価を受ける美術作家・須田悦弘氏の作品『クレマチス』。「ギャラリー小柳」で購入。須田氏自身が自宅を訪れ場所を決め、取り付けてくださったとか。「ため息が出るほど美しい…。意外な場所にあるので、ゲストに探してもらうのも楽しみのひとつです」
本物と見間違えるほどに精巧な花や草木の彫刻作品をインスタレーションで発表し、世界中で高い評価を受ける美術作家・須田悦弘氏の作品『クレマチス』。「ギャラリー小柳」で購入。須田氏自身が自宅を訪れ場所を決め、取り付けてくださったとか。「ため息が出るほど美しい…。意外な場所にあるので、ゲストに探してもらうのも楽しみのひとつです」
気に入ったものがなくずっと探していたマガジンラックは、アメリカのインテリアショップで見つけて購入。
気に入ったものがなくずっと探していたマガジンラックは、アメリカのインテリアショップで見つけて購入。
須恵器の花器は京都の「古美術清水」で。
須恵器の花器は京都の「古美術清水」で。
花器と手前の花皿は陶芸家・内田鋼一氏の作品。サイドテーブルは、タイ・プーケットのリゾート「アマンプリ」に滞在中、プールサイドで見つけて気に入り、交渉して同じものを購入。
花器と手前の花皿は陶芸家・内田鋼一氏の作品。サイドテーブルは、タイ・プーケットのリゾート「アマンプリ」に滞在中、プールサイドで見つけて気に入り、交渉して同じものを購入。
中国の古い窓枠がシノワズリな雰囲気。「香港で見つけて、これを天板にしてテーブルにしようと思いついたんですが、持ち帰ってやってみたら、ちょっと違ったので、結局窓枠に」。椅子は実家から、クッションはジョナサン・アドラー、ライトは「メゾン・マルジェラ」のもの。
中国の古い窓枠がシノワズリな雰囲気。「香港で見つけて、これを天板にしてテーブルにしようと思いついたんですが、持ち帰ってやってみたら、ちょっと違ったので、結局窓枠に」。椅子は実家から、クッションはジョナサン・アドラー、ライトは「メゾン・マルジェラ」のもの。
家紋入りのつづらには年賀状やカード類を収納。
家紋入りのつづらには年賀状やカード類を収納。
木のオブジェ。「夫が突然買ってきたもの。何万年も前のバリの古木だそうで、小さな子供が来ると、みんなのぼって遊んでいます(笑)」
木のオブジェ。「夫が突然買ってきたもの。何万年も前のバリの古木だそうで、小さな子供が来ると、みんなのぼって遊んでいます(笑)」
この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
BY :
『Precious8月号』小学館、2020年
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
長谷川 潤
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)