起業についての連載の2回目は「起業するには、まず何から手を付けるか」のお話です。

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公認会計士・佐藤幸恵さんによる「女性の起業ノウハウ塾」第2回は「起業を想ったら、真っ先にすべきこと」
公認会計士・佐藤幸恵さんによる「女性の起業ノウハウ塾」第2回は「起業を想ったら、真っ先にすべきこと」

私の想定している起業家とは、自らの可能性を信じて、新たな事業により経済的自立を目指し、マネジメントをする人のことです。女性が起業に踏み切らない大きな理由に「やりたいことをどうしたら事業化できるかわからない」ということがあります。事業化の本質はとてもシンプルです。自分の提供するものに、継続的に「ありがとう」とお金を払って頂けることです。

そのためにするべき事がふたつあります。

1. 「なぜ」 を100回 問う
2.  ビジネス用語を使ってみる

これだけ見てもピンとこない方も多いと思いますので、今回はこのふたつを解説していきます。

■1:「なぜ」を 100回 問う

一見、事業化とは対局にあることですが、事業化は技術的な側面があり、他人を頼ることも可能です。事業で最も大切なことは、ビジネスモデルや戦略ではなく、その根底にある事業への情熱、意味付けです。これは経営者にしか出来ないことで、強固な想いなくして持続可能な事業化は成しえません。

なぜ、やりたいのか
なぜ、価値があるのか
なぜ、選ばれるのか
なぜ、なぜ、なぜ……

やりたいことに、あらゆる側面から「なぜ」をしつこく問うていると、想いの輪郭が具体的になり、さらに情熱を産み出します。成功している経営者で、自らの事業の意義、事業の価値を熱く語らない人はいません。

先日、SONY歴史資料館に行きました。私が最も敬愛するITベンチャーの経営者に、「すごいから行ってみたほうが良い」と勧められたので。SONYの創業者、井深 大さんが掲げた、創業の理念を初めて全て拝見し、感動で震えました。

会社設立の目的
一、    真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設
一、    日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発な活動
……省略
経営方針
一、    不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を置き、いたずらに規模の大を追わず
……省略  
出典:SONY 企業情報 設立趣意書

創業の理念は、後に、自らの行動、戦略、チームメンバーの 判断基準になります。迷い悩んだらここに立ち戻り、枯れることない情熱の炎を灯し続ける原動力になるのです。ですから、自分だけの心の底からの言葉で語れるように、問うて欲しいのです。

■2:ビジネス用語を使ってみる

ビジネス用語って何? それはズバリ、数字です。最も嫌がられる硬い言葉で言うと、事業計画をつくりましょう、ということです。どうしても気が進まないこの作業をナントカ避けたい、事業計画っておいしいの!? と思っている方、起業という素晴らしい活動を苦行にしたいのなら、数的計画なしでどうぞ。

「1」で自らの想いを言葉にしました。次は、具体的な行動の目標、未来への意思を数字というビジネス言語にするのが事業計画です。どうしたら事業化できるかわからないなら数字で考えてみることです。
基本は「収入-費用=利益」です。経営とは、利益を長期的に最大化することなのです。

収入すなわち売上は、単価×数量 数量は1人(あるいは1社)当たりの販売数×リピート に分解されます。

費用は、売上に連動する費用(変動費)と売上に関わらずかかる費用(固定費)に分解されます。

収入を増やすか、費用を下げるか、費用の増大が収入の増大を上回るか、しか利益を増大させる方法はありません。たったこれだけのことから、マーケティング戦略、原価計算、投資戦略、生産性管理など、多くの活動が組み立てられているのです。

「単価が適切かどうか解らない」という相談を受けることがあります。

値付けは重要、かつ、最も難しい意思決定のひとつです。一般的に、価格決定の方法は、以下の3つの要素を考慮し、総合的に判断します。

(1)原価を考慮して決定する方法
(2)需要を考慮して決定する方法
(3)競合状況を考慮して決定する方法

(1)は、製造原価(または仕入原価)に利益を加えて価格を決定するものです。(2)は消費者の立場に立ち、いくらなら購入してもらえるかにより、価格を決定するものです。(3)は市場に同じような商品サービスが多い場合(差別化されていない場合)、競合の価格を考慮して価格を決定するものです。

モノを仕入れて販売するビジネスでは、モノの販売額と仕入額の差が利益になると思いがちです。それは違います。仕入は売上に連動する費用(変動費)ですが、売上の多少に関わらずかかる費用(固定費)があります。売上から仕入の差額は粗利(あらり)と言われ、ここから固定費を支払って最終的な利益が決まるのです。

単純化した例で考えてみましょう。SNSでマーケティングして商品を販売しようとします。ECサイトやブログサイト構築に10万円、掲載写真に5万円、装飾代その他に5万円、以上の準備の後、一個の販売価格を1,000円、仕入価格300円、送料100円で個人事業主としてスタートするとしましょう。
 
販売価格 1,000円-仕入300円-送料100円=600円 
一個の販売で600円の利益があります。20万円の固定費を先に支払っています。
20万円÷600円 = 333.333……. 
334個の販売で固定費の回収ができます。言い換えれば、売上333,333.33…円で赤黒トントンになります。しかし、まだ自分の取り分は生み出せていません。

 さらに、仕入をいくつするか検討し、事前に必要なキャッシュも算出できます。いくら準備すれば、事業をスタートさせて何か月は持ちこたえられるとか、まずは334個販売を目標にしようといった具体的な行動指針を持つことができるのです。

 計画通りにはいかない、といって計画を立てないまま進むと、見えないことが多く、指の間からサラサラと時間とお金が落ちていってしまいます。計画を立てて具体的な目標を持って行動し、結果を検証しさらに次の活動に役立てる。いわゆるPDCAサイクルです。

ある女性経営者で食品の企画販売をしている方がいました。お客様への販売が軌道に乗っていましたが、このままで良いのか漠然とした不安を持っていました。事業を次の段階に進める戦略に迷っていたのです。彼女へのヒアリングで理念を理解し、これまでの販売データ、コストデータを分析しました。販売先は一般消費者と卸売販売でした。彼女の中では、いずれのお客様も一括りになっていましたが、両者には販売量・売上高に顕著な差異があり、事業の強み、サービスの課題が一目瞭然でした。私たちは数字を元に戦略を再構築する事にしました。

彼女の強みは卸売販売にあり、いわゆるBtoB事業の強化に取り掛かりました。一般消費者と異なり、卸売販売は卸売先の会社の販売がうまく行かないと彼女の会社の売上は上がりません。卸先のメリット、何を求めているかを徹底的に考えました。結果、その女性経営者は卸売先の会社の販促をサポートするサービスを開発し、同時に、卸売先との間で、代理店や販売店としての契約面も整え、社内で卸売用のオペレーションを構築していきました。 当然ですが、売上が前年比で20%〜30%の増加を達成しながら推移しました。

自分のやりたい事を沢山の人に言ったら成功した、と言う話を聞いたことがあると思います。それは、1の心の底からの想いを、2の具体的な数字にして多くの人に語ることなのです。起業への気持ちが芽生えたら、このふたつにチャレンジして、初めの一歩を踏み出してみてください。

今回も私の好きな言葉で締めたいと思います。

計画のない目標はただの願い事にすぎない  サン=テグジュペリ
この記事の執筆者
2007年、大手監査法人に入所。上場会社の国内監査の現場責任者、IPO(上場準備会社)等の監査業務などに従事。2014年、国会議員秘書として会計、財務、経済分野にたずさわる。 2015年7月より佐藤幸恵公認会計士・税理士事務所代表、2017年6月より株式会社ロジック常勤監査役を務める。
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WRITING :
佐藤幸恵
EDIT :
安念美和子
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