新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるい始めて半年以上が経った。人同士の接触を避けるため、飲食店の営業自粛、イベントの中止などが相次ぎ、経済活動は停滞したままだ。感染防止を目的に、特に国や都道府県からの自粛要請が強く出されたのが、スナックをはじめとする夜に営業する飲食店だ。
東京都に限定すると、4月11日からの休業・時短営業要請が6月18日まで続き、8月3日〜9月15日まで再び夜10時までの時短営業要請があった。自粛要請が明けた今、スナックはどのように営業しているのか。連載第17回で紹介した上野広小路にある『おゃじのお店』を取材した。
スナックの感染症対策、客の動向の変化をマスターに尋ねる
23区のアルコールを提供する飲食店に向けた営業時短要請が明けた9月下旬、夜の上野広小路を訪れた。数多くの飲食店が軒を連ね、普段なら多くの人が行き交っているはずなのにどうにも寂しい光景が広がっていた。
『おゃじのお店』が入居するビルへ向かった。
店は扉を開け放ち、換気を徹底していた。扉には東京都が提供しているレインボーカラーの感染防止徹底宣言ステッカーと、台東区が独自に行っている新しい日常取組宣言店ステッカーが貼られていた。
前回の取材以来に会う平野マスターに、コロナ禍で営業がどのように変わったのか、尋ねた。
「影響が出始めたのは4月からだね。国から緊急事態宣言が出たでしょう。それで4月のお客さんの数は前年の半分になって、5月は完全に閉店。6月から再開できたけど、また8月から時短営業要請だから参っちゃうよねぇ」
6月半ばに終わるまで、営業開始時間を通常の19時から15時や18時に前倒しするなどして、休業・時短営業要請をどうにか乗り切ったという。
カラオケにはフェイスシールドや使い捨てカバーを導入
換気に加え、アルコール除菌スプレーや除菌クリーナーも設置している。その他にはどのような感染防止策を実施しているのだろうか。
「しょっちゅう消毒はしていますよ。ドリンクを作るマドラーをお客さんごとにかえたり、カウンターだけの狭い店だから密にならないようにしたりね。混みそうな時はお客さんに時間をずらして来てもらうようにしてもらっています」
スナックには欠かせないものの、飛沫が気になるのがカラオケだ。当初はマイク用のフェイスシールドを導入していたという。
「でもね、シールドを付けて歌うと声が跳ね返って、通らないの」
そこで現在感染防止で活用しているのが、マイク用の使い捨てカバーだ。1曲歌い終わるごとに都度交換するため、反響や飛沫を気にせず、これまで通りに歌える。
以前よりもマスターと話したがるお客さんが増えた
コロナ禍でお客さんの動向にも変化が見られると、平野マスターは話す。
「スナックって2軒目以降に来る人が多いから、大体21時以降から忙しくなるものなんです。でも最近は来店時間が早くなって、開店直後に訪れる常連さんが増えました」
コロナ禍は企業にリモートワークだけでなく、フレックスタイムの導入も促進した。フレックスタイムだとある程度個人の裁量で時間配分ができるため、決して悪いことではない。早く仕事を終えられれば、こうしてスナックでリフレッシュする時間も設けやすくなる。
「人と接するのがよくないって言われているじゃない。だからか、前より人と話すのを恋しがっているお客さんが多いかな。本当は仕事の話を聞くのは好きじゃないけど(笑)、今はちゃんと耳を傾けています。来店してくれるだけでありがたいからね」
Withコロナの時代、『おゃじのお店』の営業はどう変わっていくのだろうか。
「みんなストレスが溜まっているのかなぁ、とは感じるけれど、コロナは誰が悪いわけでもないから、恨むこともできないもんね。うちができることは、今までどおりストレス解消の手助けをするだけ。時代に合わすような店じゃないし、感染症対策はしながら今までどおりなすがままです。美空ひばりの『川の流れのように』みたいにね」
【おゃじのお店】
問い合わせ先
- おゃじのお店 TEL:090-4060-8165
- 住所:東京都台東区上野2-4-1 エクセル上野ビル2F
- 営業時間:19:00〜24:00
定休日:大晦日、正月
メニュー:平日飲み・食べ・歌い放題2時間5,000円、日曜・祝日飲み・食べ・歌い放題1時間3,000円、ワインボトル3,000円〜 - ※来店する際は一度お電話でお問い合わせください。
- TEXT :
- 津島千佳 ライター・エディター
- PHOTO :
- 小倉雄一郎(小学館)