「ファントムハンズ」によるクラフツマンシップの革新
家具工房「ファントムハンズ」で見たインド職人の驚くべき可能性
だからインドで当時の設計図を忠実に再現しているリプロダクト家具があると聞き、私はそれを迷わず手に入れた。そしてその家具をつくっている工房「ファントムハンズ」の存在を知り、生まれてはじめてインドを訪れるに至ったのだ。
「ファントムハンズ」の工房は、インド南部のIT都市、バンガロールの郊外にある。そのオフィスは自社製品とインドのヴィンテージ家具とが見事にコーディネートされており、趣味のよさに驚かされる。こちらの代表をつとめるディーパク・シュリナットさんは以前金融アドバイザー会社を経営していたエリート。洗練された趣味を持つ彼だからこそ、「ジャンヌレのデザイン」と「インドの手仕事」という、この家具が秘めたふたつの可能性を見出せたのだろう。彼は極めて冷静な分析に基づき、インドのものづくり事情を語ってくれた。
「インドには、世界ではもはや失われてしまったクラフツマンシップが、今もなお残されています。95%手仕事でつくられた品が、この国では普通に流通しているのですから。近年は都市で生きる人々のサステナブルに対する意識が、急速に高まっています。そんな時代に私たち『ファントムハンズ』の家具が支持されているのは、それが単なるお金を出せば買える物質ではなく、生き方の方向性を指し示すものだと、彼らに伝わっているのでしょうね」
「ファントムハンズ」のものづくりは、広大なインド各地から呼び寄せた、50人ほどの腕利き職人が担っている。しかも木工ならラジャスタン州の歴史ある大工集団、ラタンの編み込みならタミルナードゥ州の職工家族……といった具合に、コミュニティごとこの工房に移植することで、バンガロールに新しい職人の生態系をつくってしまった。もちろん給与や保険などを含め、その待遇は抜群だという。そんな恵まれた環境下で働く彼らの作業は素人目にも精密で、機敏で、リズミカル。しかも木材の切り出しや研磨作業以外で、機械を使うことはほぼ皆無。クッションの縫製すら手縫いである。思わず「インドの職人おそるべし」とつぶやいてしまった。
ちなみにこの工房が家具に使用するチーク材は、伐採から100年以上が経過した古材が中心。最近では新しい木材を使うこともあるが、その場合でもトレサビリティ管理されたミャンマー産チークを使うのだとか。サステナビリティにおいても、時代の先端を行っている。「今までが1stステージだとしたら、アーティストとのコラボレートを通して、インドのものづくりを21世紀にアップデートさせるのが今後の目標です」と語るシュリナットさん。インドのクラフツマンシップは、これからが面白い。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- PHOTO :
- 山下英介