自分の船とともに過ごす優雅な休日は、決して手の届かないところにあるものではありません。Precious.jpは日本ではまだあまりなじみのないクルーザーの世界に注目! 「日本ボート・オブ・ザ・イヤー」の選考委員を務める編集者の川辺一雅さんに、クルーザーの魅力と基礎知識を解説していただきました。
クルーザーのある暮らしは別世界ではありません
青い海、太陽が降りしきり、白い優雅な船のデッキチェアで横になるイケメンがカクテルをひと口。周りにはゴージャスな美女たち…。「クルーザー」というと、そんな映画やドラマのワンシーンを思い浮かべるかもしれません。自分の船を所有して休日を過ごすなんていうのは、どこかのセレブだけ。そんなふうにも思ってはいないでしょうか。
しかし、欧米では、クルーザーを所有して、家族や恋人同士で小さな航海をしたり、船上でバカンスを過ごしたりすることは、決して特別なことではありません。アッパーミドルの普通の生活の一部といってもよいでしょう。
美しい海に囲まれている国・日本に住んでいるのに、海を楽しまないというのは、もったいないこと。日本でも、クルーザーのオーナーになるというのは、休日と人生を充実させるとてもよい選択肢なのです。
しかし、日本でクルーザーに関する情報は、まだまだ十分とはいいがたいのが実情です。そこで、クルーザーの魅力と基礎知識をご紹介し、あなたを洋上の世界へ誘うことにしましょう。
クルーザーは初心者でもドライブできます!
そもそも、「クルーザー」とはなんでしょうか。ボートと同じ意味? ヨットとは違うの? と疑問がわいてくる方もいらっしゃるでしょう。実は、ちょっとあいまいな言葉なのです。もともとの意味としては「巡航できる船」ということになりますが、ここでは、①個人が所有する小型の船で、②キャビン(船室)が備わっていて、③主にモーターを動力にしている、と定義しておきます。「モーターボート」と呼んでもよいでしょう。
クルーザーを運転するには、あとで述べる「小型船舶操縦免許」が必要ですが、それは自動車免許よりもずっと手軽に取得できるものです。また、大きな艇でなければ、運転は決して難しくありません。風を使って走るヨットのように複雑な技術や体力が必要ということもありません。マリンスポーツ未経験の初心者でも、まったく大丈夫です!
マリーナのある生活
クルーザーと必ずセットで考えたいのがマリーナです。マリーナとは、クルーザーやヨットのための保管施設と説明すればわかりやすいでしょうけれど、しかし、それはマリーナの機能の一部にすぎません。
マリーナは、シャワーを浴びたり、仲間同士が交流したり、くつろいだりするクラブハウスでもあります。新艇、中古艇が展示されたディーラーであり、燃料を補給してくれるガソリンスタンドであり、メカニックがメンテナンスをしてくれる整備工場でもあります。小型船舶操縦免許のための教習所でもあります。レストランやショッピングセンター、ホテル、レジャー施設を併設したマリーナも少なくありません。マリーナとは、小さな港町であり、社交場であると言い換えてもよいかもしれません。
クルーザーのオーナーになり、マリーナの会員になるということは、単にクルーザーに乗ることだけでなく、豊かなマリンライフを手に入れるのと同じことなのです。
マリーナの会費は、預けるクルーザーの艇長によって決まることが多く、都心に近いマリーナでは年会費が100万円を超えることはざらです。初心者は、この額に二の足を踏むことが多いと思います。しかし、この額はたんなる預かり代ではなく、クラブのステータスを得ることや、海辺に別荘をもつことにも等しい価値を含むということを覚えておいてください。
また、マリーナもぴんきりです。シンプルな設備のところや、地方のマリーナでは、会費はぐっと安くなります。クルーザーを友人同士で共同保有し、マリーナの会費を分担しあうという方法もあります。自宅に近いマリーナばかりでなく、新幹線や飛行機で出かけやすい範囲まで探すというのも一案です。
なにより、自分の気に入った海で、気にいった仲間とマリンライフを満喫する。これこそクルーザーの醍醐味です。
クルーザーは浮かぶパーティールーム
クルーザーにはキャビンがあり、通常、ギャレー(コンパクトなキッチン)、トイレなどが備わっています。大型になれば、複数の寝室やシャワー室もあります。いわば水上のキャンピングカーのようなものです。あるいはパーティールームや隠れ家が浮かんでいるようなものともいえます。
ですから、心地の良い天候のときに、そこにいるだけで、もう十分に特別でハッピーな気分になれます。それこそ船出しなくたっていいのです。桟橋に係留したクルーザーの上で、潮風に吹かれながらの宴会をするもよし、読書をするのもよしです。
とはいえ、クルーザーの本領発揮はやはりマリーナの外で。クルーザーのタイプによって、楽しみ方、選び方はさまざまです。まず、どんなタイプにもいえることですが、価格は数百万円から数億円と、とてつもなく大きな差があります。新品もあれば中古もあります。オーダーメイドで建造されたクルーザーも珍しくはありません。船体は、ほとんどがFRP(強化プラスチック)でできていますから長持ちで、メンテナンスさえすれば10年から20年以上、平気で使えます。クルーザー選びはマンション選びにちょっと似ているかもしれません。
車検のような船検という制度がありますが、車検のように高額が求められるわけではありませんし、自動車税や自動車重量税に相当する税金はありません。また、自動車とちがって、抵抗が大きい水上を高速で走る乗り物ですので、走行中は軽油やガソリンといった燃料を大量に消費します。小さなクルーザーでも燃料タンクの容量が数百リットルあるといったら、その規模が想像できるでしょう。その数百リットルの燃料を、ときには1日の航海で使ってしまいます。
ですので、クルーザーには、例えば海外に出かけるとか、東京から沖縄に行くといったような長旅は、性能としても、経済的にも、あまり向いていません。長距離航海は、風の力で走るヨットの独壇場なのです。クルーザーは、通常、母港であるマリーナを中心とした一定のエリア内を航行するものと考えてください。
問い合わせ先
- 横浜ベイサイドマリーナ
- 利用料金例/全長6.0~8.0m未満×全幅2.2~2.8m未満 ¥420,000(年)、全長8.0~10.0m未満×全幅2.8~3.5m未満¥735,000(年)
- 営業時間/9:00~17:00 ※オーナーはいつでも係留桟橋へのアクセスが可能
- 定休日/火曜
- 付帯施設/専用駐車場、クラブハウス、シャワー、給油・給電スポット、メンテナンスヤード、バーベキューテラス、ホテル、レストラン、カフェ、ボートショップ、船具専門店、アウトレットショップなど
- 係留隻数/約1,500艇
- TEL:045-776-7590
- 住所/神奈川県横浜市金沢区白帆1
海の楽しみ方に合わせた3タイプのクルーザーをご紹介
個人で初めて所有するとなると、運転のしやすさ、維持費から判断して、艇長が30ft(約9m)前後以下のクルーザーがよいでしょう。さらに、船体の大きさや形状、エンジンの種類、スクリューの数や回し方…など、細かなスペックを言い出すときりがありませんので、次ではクルーザーをおおまかに3つのタイプに分けて解説しましょう。
■1:釣り好きの憧れ「フィッシングクルーザー」
日本で最も人口が多い趣味は釣りといわれます。変化に富んだ海や川に恵まれた国ですから当然です。特に海では、少し沖に出るだけで獲物を狙えるポイントは格段に広がります。それこそ、あちこちでタイやヒラメが舞い踊っているわけです。GPSや魚群探知機を駆使しながら、自分だけのポイントを開拓し、釣果を上げる。釣り好きにはたまりません。
フィッシングに向いたクルーザーでは、ウォークアラウンドといって、アングラーが移動しやすいようにデッキ(甲板)が船体の周囲すべてに設けられていたり、アフトデッキ(後部のデッキ)でも操船できるようになっていたりするなど、釣り用の独特の工夫が凝らされています。
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また、スポーツフィッシャーと呼ばれる、主にカジキマグロを狙うクルーザーもあります。船上に物見やぐらのようなタワーがあって、左右にひげのような竿(アウトリガー)が付いているクルーザーを見かけたら、それです。洋上で、アングラーだけでなく、ドライバーをはじめとした乗員がチーム一丸となって巨大なカジキマグロと格闘するというのは、ダイナミックでスリリング。まさにスポーツです。とある日本の有名俳優の趣味としても聞いたことがあるかもしれません。
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■2:浮かぶプライベートリゾート「サロンクルーザー」
「クルーザー」といったら、多くの人が思い浮かべるのが、このタイプではないでしょうか。スタイリッシュな外見と、豪華なインテリアがまず目を引くはずです。都会の生活を忘れ、海でバカンスや週末を過ごすためにつくられたボート、すなわち、自分だけのリゾートを提供してくれるクルーザーといえます。
喧騒を離れ、家族や仲間たちと人気のないビーチや無人島にでかける。アイランドホッピングしながら数日を過ごす。昼には積み込んできたマリンギアで遊び、夜にはデッキで星を見ながら語らう。そんな休日をかなえてくれるクルーザーです。
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このタイプのクルーザーは、世界的に人気が上昇していて、より大きく、より贅が凝らされたモデルが次々と市場に投入されています。ハイエンドでは、億超えのプライスタグが当たり前のように付いています。
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■3:船旅を楽しむ「ロングレンジクルーザー」
最近は、日本でも船旅を楽しまれる方が増えています。飛行機や自動車の旅とはひと味ちがって、ゆっくりと移り変わる景色ともども船上での食事やエンターテインメントを堪能するというのは、贅沢な時間の使い方です
クルーザーは、一般に高速で航行します。プレーニングといって水の上を飛ぶように走り、最高速ではだいたい30ktから40kt(約56km/hから74km/h)くらいに達します。水上での体感速度は陸上の3倍といわれますから、初めてその速度を体験されると、ジェットコースターのような速度感、爽快感にきっと驚かれることでしょう。
しかし、高速での航行性能は抑えて、長距離の航行に向くように造られたクルーザーも存在します。プレーニングは得意ではないけれど、その分、エンジンを効率良く回して、ゆっくり長く、経済的に走れるよう設計してあるのです。
問い合わせ先
- ウインクレル TEL:045-681-0101
トローラーと呼ばれるフィッシングクルーザーの一種がそうですが、最近はサロンクルーザーでも「ロングレンジクルーザー」という提案が現れています。
まさに「旅するクルーザー」。長期の休暇を使って日本列島沿岸の島々を訪れていくなんていう、自分だけの船旅を実現してくれます。それはまた、海の近くに無数の別荘をもつようなことなのかもしれません。
問い合わせ先
- 安田造船所 TEL:03-3790-2230
小型船舶操縦免許の取得
日本でクルーザーを操縦するためには、国土交通大臣が交付する小型船舶操縦免許という免許が必要です。全国のマリーナや教習所などで講習を受け、学科、実技の国家試験に合格すると得られます。
免許は、大きく一級と二級に分かれています。二級では、海岸から5海里(約9km)までといった制限がありますが、この範囲でクルーザーの魅力をほぼ満喫できますので、まずは二級の免許からで十分です。二級であれば、費用はおおよそ10万円くらい。学科と実技の講習と試験で2日から3日で取得できます。
この週末、天気がよかったら、近くのマリーナに出かけてみませんか? 購入や免許取得の相談をしないまでも、ずらりと並ぶ美しいクルーザーやマリンライフを楽しむひとたちを眺めるだけでも、夢やイメージが広がるはずです。クルーザーのある生活は、決してどこか遠いところにあるわけではないのです!
※ktはノット、psは仏馬力(PferdeStärke)、hpは英馬力(Horse Power)の略です。
※掲載した商品はすべて税抜です。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 川辺一雅
- EDIT :
- 難波寛彦