私たちが予想だにしなかった、世界レベルのパンデミックに見舞われた2020年。外出を控えて静かに立ち止まると、見えてきた世界には、これまでとは異なる価値観が生まれつつありました。
そんな中、雑誌『Precious』編集部は、新しい時代が求めるファッションの「名品」とは何か?について、最新1月号の「ニューノーマル時代の『新名品』」特集を通して深く考え抜きました。その特集の中で、生き方やおしゃれに共感を集める素敵な女性たちに、今の暮らしの中で「名品がどうあるべきか」をインタビューしました。
この記事ではプロダクトデザイナーの田村奈穂さんからうかがった、暮らしやよそおいの変化についてご紹介します。
「軽やかであること。本質的なところを見ていれば、大きくブレることはありません」
「ニューヨークで暮らして20数年になります。こちらはあっという間にコロナ禍に巻き込まれ、マンハッタンは機能せず、ゴーストタウン化していました。一方、若者の多いブルックリンではレストランの外に人があふれてお祭り騒ぎのよう…。
早々にマンハッタンから2時間ほどの所にあるロングアイランドに避難してきたのですが、こんなに長く滞在することになるとは思いませんでした。『ニューノーマル』の時代を生きることに、少しずつ慣れてきたところです。
私の仕事は基本的にはひとりでするものなので、日常のペースはさほど変わりません。ファッションもほとんど変わらなくて(笑)、カットソーやニットにデニムというのが定番スタイルです。
特に、プロダクトデザインという仕事は本質的なところを見つめなくてはならないので、流行に左右されて求めるものが大きくブレることはありません。
ファッションも同じで、その人になじみ、似合っているのが一番かっこいい。またいつも軽やかでありたいから、ふだんはポケットにスマートフォンとカードと鍵だけ入れて、手ぶらで外出。荷物がある日は、両手が自由になるバックパックを愛用しています」
「小学生のころに遡りますが、ランドセルが壊れてしまった私に、母が買ってくれたのがポーターの黒いレザーのバックパックでした。表にポケットがふたつある、やわらかな巾着仕様のシンプルなもの。子供心に気に入って、実は今でも大切に使っています。レザーがすっかりいい感じの風合いになって。
どんな状況下でも軽やかさと自由をもたらすバックパックは、ウィズコロナ時代に不可欠なツール。使えば使うほど、たたずまいが様になる上質レザーなら、新しい『名品』としての条件を満たすものでしょう。
高価ではなくとも、その後も長年使えるであろう黒レザーのリュックを、小学生の女の子に買い与えた母は、とてもおしゃれな人でした。10年もすれば忘れられるものより、いいものを長く使うという考え方を、私も受け継いでいるのかもしれません。
私がつくったテーブルランプの『ターン』もプラスチックではなく、本物の金属を削り出して形づくり、壊れてもパーツごとに直せる構成になっています。金属は使ううちに味が出ますが、それも新しい時代の気分に近いと思うのです。
今、改めて問いかけられているサステナブルへの動きも、これまでだれもが漠然と考えていたこと。それが加速して、顕在化しただけなのでしょう。コロナによって、本質的なものを見つめる機会が与えられたのだと思います」(田村さん)
※掲載した商品は、すべて税抜です。
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- 藤田由美、小林桐子(Precious)