上野の森美術館で開催中の「怖い絵」展。「恐怖」というテーマのもと、約80点もの名画が世界各地から集結。大きな斧で若い娘が処刑される瞬間を描いた作品、猟奇連続殺人鬼の元祖とされる切り裂きジャックの寝室を描いた作品、悪魔や怪物が人を襲う様子を描いた作品など、思わず背筋が凍る作品が勢ぞろいしています。

本展覧会は「この絵がなぜ怖いのか」を読み解きながら、作品を観ることができるのが特徴。色彩やタッチ、雰囲気や表現方法などを楽しむ普段の美術展とはひと味違った、心躍り、頭をひねる絵画鑑賞体験ができそうです。

■1:ポール・ドラローシュの大作『レディ・ジェーン・グレイの処刑』が初来日

ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 1833年 油彩・カンヴァス 251×302cm ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey, © The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902

展覧会最大の注目作は縦2.5×幅3mにもおよぶ、ポール・ドラローシュの『レディ・ジェーン・グレイの処刑』。16歳という若さで亡くなったイングランド史上初の女王、レディ・ジェーン・グレイの最後を、繊細な筆致で描いた作品です。司祭が彼女を優しく導いているその先には処刑台が。彼女はこれからその首置台に腹這いとなって首を置き、一瞬にして血まみれの首なし死体となるのです…。

■2:夢の中に現れた魔物のギョロリとした目に、ゾクリ…

ヘンリー・フューズリ 《夢魔》 1800-10年頃 油彩・カンヴァス ヴァッサー大学、フランシス・リーマン・ロブ・アート・センター蔵 © Frances Lehman Loeb Art Center, Vassar College, Poughkeepsie, New York, Purchase, 1966.1

眠っている間に、何か恐ろしいことが自分の身に起こっているのでは…。そんな恐怖の感情を思い起こさせるのが、ヘンリー・フェーズリの『夢魔』です。仰向けの女性の腹の上にいるのは、夢の中でレイプする男の怪物「インクブス」。この怪物は淫靡(いんび)な夢をみせ、快楽を与えます。しかしそれは夢にすぎない。彼女が夢で感じている恍惚を裏切るひどい魔物です。暗闇の中でギョロリと光る瞳はなんとも恐ろしい!

■3:絶世の美女、クレオパトラの死の秘密を解き明かす

ゲルマン・フォン・ボーン 《クレオパトラの死》 1841年 油彩・カンヴァス ナント美術館蔵 © RMN-Grand Palais / Gérard Blot / distributed by AMF

絶世の美女として誰もが知るエジプトの女王・クレオパトラの死の瞬間を描いた、ゲルマン・フォン・ボーンの『クレオパトラの死』。クレオパトラはさまざまな権力争いの末、権力者アントニウスと結婚しましたが、彼の失脚とともに命運尽きて自殺しました。自殺の手段として選んだのは、アスプコブラ。この蛇の毒は、神経性の猛毒のため、体はぐったりと弛緩し、まるで眠っているかのように綺麗に死にます。見苦しくなく、美しいまま死にたいという彼女の願いだったといわれています。

■4:美女に惑わされた者の末路とは…

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 《オデュッセウスに杯を差し出すキルケー》 1891年 油彩・カンヴァス オールダム美術館蔵 © Image courtesy of Gallery Oldham

椅子に堂々と座る美女を描いたこの作品は、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの『オデュッセウスに杯を差し出すキルケー』。杯を持った魔女キルケーの背後の大きな鏡には、部下たちを探しにきた古代ギリシャの英雄オデュッセウスの姿が映し出されています。実はその部下は、キルケーの美貌に惑わされ、進められるまま魔酒を飲んでしまい、足元にうずくまっている豚に変えられていたのです。それを知らないオデュッセウスは、その後キルケーと恋に落ち、一年以上も共に暮らしたんだとか。

そのほかにも、ターナー、モロー、セザンヌなど、ヨーロッパ近代絵画の巨匠による「怖い絵」も出展されます。そしてこの展覧会は、ベストセラー『怖い絵』シリーズの著者・中野京子さんが特別監修! 「この絵はなぜ怖い?」という怖さを読み解く中野さんの解説とともに、絵画鑑賞ができるのも魅力のひとつです。

■5:『怖い絵』シリーズの著者・中野京子さんが女優・吉田 羊さんと語った本展の魅力

2017年5月30日に行われた本展の記者発表会には、展覧会のナビゲーター&音声ガイドを担当した女優の吉田 羊さんと中野さんが登壇。

左から/吉田 羊さん、中野京子さん

作品の背景を知ることで、絵画鑑賞の新たな楽しみ方が見つかる!

中野京子さんが2007年に出版した『怖い絵』は、絵画が描かれた時代背景や隠された真実などの「影」の部分に焦点をあて、「恐怖」という、これまであまり取り上げられてこなかった側面から絵画を読み解く美術書として話題に。

セザンヌやモローなど、巨匠たちが描いた作品も数多く掲載されてきましたが、この展覧会においても、多くの著名画家たちによる作品がそろいます。

中野京子さん

「展覧会を開催するからには、これまでに来日したことのない作品を」という中野さんの要望により、■1でご紹介したロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵の『レディ・ジェーン・グレイの処刑』の初来日が決定。あの夏目漱石もイギリス留学中に魅了されたという、ポール・ドラローシュによる大作です。

中野さんは、「絵画は、ただ“感じろ”と言われても鑑賞が難しい。例えば、何も知らない西洋の人が『お岩さん』の絵を見たとしても、時代や文化を知らないので正しい鑑賞ができないですよね。背景をしっかりと理解することで、絵画をより楽しむことができるのです」と、作品の背景を知ることの大切さを語っていました。

吉田 羊さん

また、■4でご紹介した『オデュッセウスに杯を差し出すキルケー』の不気味さと怖さに惹かれたという吉田さんは、「自分の感性だけに頼ると、目に見えている部分のみで完結してしまうので、作品の背景を理解することは重要だと感じました。“怖さ”への好奇心を入り口に、絵の解釈の大きな可能性を感じてほしいです」と、絵画鑑賞の楽しみ方を再発見できる展覧会の魅力をアピールしていました。

まさに「怖い絵」の教科書のような展覧会。たまにはじっくりと時間をかけて、「ひとり美術鑑賞」というのも粋な美術の楽しみ方ではないでしょうか。

問い合わせ先

  • 「怖い絵」展 TEL:03-5777-8800(ハローダイヤル)
  • 会場/上野の森美術館
  • 会期/2017年10月7日〜12月17日 ※会期中無休
  • 開館時間/10:00〜17:00 ※入場は閉館の30分前まで
  • 料金/当日券1,600円(一般)
  • 住所/東京都台東区上野公園1-2
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
EDIT&WRITING :
谷 侑希美
TAGS: