「営業成績など、それなりの成果を出しているのに、後輩が先に昇進していった」であったり、「頑張っているのに、ほかの同期のほうがかわいがられている」など、し職場における自分の立ち位置について、モヤモヤとした悩みを抱えていませんか? せっかく努力するのなら、会社や上司に、その頑張りを認めていただきたいですよね。

でもちょっと待って。もしあなたが、無自覚のうちに、「結果を出しても評価されにくい」言動を取っているとしたら……? それは、どんなふるまいや発言なのでしょうか。業界の垣根を越えて6度の転職をしつつも、一貫して広報やPR、宣伝などの業務に携わってきた、戦略PRとブランドコミュニケーションのプロである片岡英彦さんにお聞きしました。

■1:自分ひとりで頑張ろうとして虚勢を張る

 
 

「しっかり頑張ってこられたから、今の役職を任されていると思うんです。失敗したくないとか、隙を見せたくない気持ちも分かるんですが……」と前置きしつつ、片岡さんは業界は違っても、これまでに出会ってきた上司の共通点をこう指摘します。

「上の立場に登る人って、連絡をし忘れたであるとか、時間を間違えたなどの軽いミスは意外と多いんです。ただし、ポイントがあって、ここいちばんという局面では失敗しないんですよね」。

さらに「これもまた、上のポストに就く人に共通していえるのが、『失敗をしないからすごい』のではなくて、失敗しても愛されちゃうんですよね」と話します。致命傷になりかねないミスも、部下や同僚、上司といった周りが助けてくれて、かすり傷程度にしかならないらしいのです。それは、どういうことなのでしょうか。

たとえば、予算5000万円のプロジェクトを任されたとします。事業を成功させるには、あと500万円足りないし、人手も足りません。そんなとき、あなたならどうしますか?

失敗しても愛される人というのは、上司や同僚、部下などに「今、500万円足りないこと」「人手が不足していること」を、包み隠さず本音をさらけ出すことができるそうです。そして、相手にどう見られるか、どう思われるかよりも、正直にサポートを求めることができる人なのだとか。

「仕事に一生懸命取り組むのはもちろんですが、できないことがあったら、本音で早めに弱音を吐いて相談することが大事です」と片岡さん。自分ひとりで頑張ろうとして、ウソをついたり、虚勢を張ったりしてしまった経験、ありませんか? 本音で周囲の人とつながることが、評価を得られるかどうかの分かれ道ともいえそうです。気をつけたいですね。

■2:言われたことや決まったことを、そのままやる

「管理職に限らず、専門職として長くやり続けていると、ルーティンワークに陥りやすいんです。決められたことを繰り返すほうがラクだから、どうしてもハプニングに弱くなるんです」と、片岡さんは言います。

言われた通り、決まった通りにやるほうが、一見すると効率がよさそうに見えます。けれど、受け身の姿勢で仕事をしていると、ハプニングが起きたら「面倒だわ」と感じて、イレギュラーな事態を避けるようになり、思考停止に陥ってしまうのです。すると、その人の能力の見せ場がなくなってしまい、評価されにくくなってしまいます。

ハプニングやイレギュラーなことを嫌わずに、走りながら考えて、最善を尽くすようにしたいものです。とはいえ、子育てや介護など日々の雑事はいろいろありますから、仕事でのハプニングを避けたくなる気持ちもわかります。

「だからこそ、年に何回か『誰かに子供の面倒を見てもらえる日』などを設け、イレギュラーな日をあえてつくることをおすすめします。その日に何をするか決めると、レギュラーになってしまうので、予定を入れないのがポイント。おもちゃ箱みたいに、何をしてもいい時間を意識的につくるよう、自分自身も心がけています」と片岡さん。

ハプニングやイレギュラーを受け入れるという発想は、仕事上でも大いに役立ちます。たとえば、売り上げ目標などを立てるとき、次の「3つの数字」を考えます。

ひとつめは努力目標とも言える「最善の値」。
ふたつめは必達目標とも言える「最悪の値」。
3つめは「中間の値」です。

仮に、売り上げの努力目標値「最善の値」を500万円とし、必達目標「最悪の値」を200万円、「中間の値」を300万円とするなら、300万円を基準にし、200万円以上・500万円以内に収めればいいわけです。

振れ幅を予測することができれば、走りながら考えて、ちょうどいい落としどころを探り、調整することができるようになります。こうした想像力を養うことが、ハプニングが発生しても慌てず、着実に成果が出せるようになるコツのようです。

■3:結果を出すことに囚われて「見える化」を後回しにする

 
 

「忙しそうに残業をしているし、成果も出すけれど、『今、何をしていて、何に困っているのか』…仕事内容を抱え込んでいて外から見えない人は、管理職には向かないですね。優秀な担当者で終わってしまうタイプと言えます」

外部とのつながりもあるし、ノウハウもあるので、新規の依頼はあるし、成果も上げるのですが、こういう人が部下をもつと、うまく機能しないことがあるのだとか。「上司が仕事を抱え込む」タイプだと、部下は何をすればいいかわからないので、常に指示待ちになってしまいます。すると当然のことながら部下は育たないため、その人(上司)の評価もそれ以上は上がらない…というわけです。

一方、部長や局長など、ポジションが高くなっていく人は、会社や部門の方針だったり、戦略だったりを、同僚や部下にわかりやすく説明したり、シェアすることに長けています。

方針や企画の考え方をわかりやすく「見える」ようにすることで、部下は動きやすくなり、上司も何をしているのかわかるため、どちらの側からみても安心。「使い勝手がいい人材」になれるようです。優秀な現場担当者ほどには専門の仕事ができるわけではないのに、どんどん評価され、上のポジションに引っ張られるのは、こうした理由があるからです。

「上司が部下をサポートするのは、『上司の仕事のうち』なんです。だから、部下が仕事を見える化してくれるとサポートしやすくなるし、自分のアドバイスを取り入れて、85点だった内容を90点にしてくれたら、かわいがってくれますよ」と、片岡さん。

同期が昇進していくなか、結果を出しているのに、いつまでも自分はプレーヤーのまま、という人は、もしかしたら、「仕事を見える化」していないのかもしれませんね。とはいえ、評価されて管理職になる人と、優秀な現場担当者では「そもそも仕事への取り組み方が違う」と感じるのも当然のこと。自分はどっちが向いているのか、冷静に見極めることも大切といえそうです。

■4:専門分野にこだわって同じ仕事をただ繰り返す

財務や経理、人事採用など、ひとつの部署に長くいて、プロフェッショナルを自負している人が気をつけておきたいのは、「同じことの繰り返し」です。たとえば、片岡さんの専門分野である広報やPR、宣伝についても、新人だった20年以上前と今とでは、業務内容は随分と様変わりしていると言います。

かつては「新商品のプレスリリースを出すこと」「記者会見などの準備」「メディア取材を促進すること」が、PR活動の主流だったそうです。ところが今では、ソーシャルメディアはどうするのか、自社サイトはどうするのか、顧客サービスとの連携はどうするのかなど、お金をかけずに周知する方法はアイディア次第で無限に広がり、多彩になっています。

今までのやり方に頑なにこだわり、死守しようとすれば、新しいことをしようとする人たちの目に「抵抗勢力」と映ってしまいかねません。特に異動などで上司が変わったときは、要注意です。着任した新しい上司は、既存の体制を見直し、組織をブラッシュアップして、何かしらの成果を出すことを求められているからです。そんなタイミングで従来のやり方にこだわっていたら、評価されるどころか、改革の邪魔者とみなされる危険もあります。

「今まではこのやり方でやってきました」。この言葉が、無意識のうちに口から飛び出してきたら、同じことの繰り返しになっている可能性大です。時代に即した変化に対応して、自分自身の仕事の切り口を見直し、専門分野に磨きをかけていきたいですね。

■5:できない理由を考えてしまう

 
 

「もう議論はいいわ、いつまでできない理由を口にしているの?」

職場でこれに近いフレーズを聞いたことはありませんか? たとえば、新商品のキャンペーンを展開するとき。担当者の元には、部下や外部の代理店からさまざまなアイディアや企画書などがたくさん届きます。「これはおもしろい」と担当者が感じても、上司の反対に合うことは珍しいことではないようです。

「法律に抵触するからできない」「会社のブランドイメージを悪くする」「お客さんからクレームがくる」など、できない理由を理路整然と並びたてられると、業務はそこでストップしてしまいます。

にもかかわらず、上司の上司などの「できる方法を考えろ!」という鶴の一声で、そのあとで事態が動き出す場面を何度も見てきた…と片岡さんは言います。

また、会議などでいつも「できない理由」を挙げ、ネガティブな発言をする人、心当たりありますよね? そういう人の大半は、みんなが暴走しないよう、反対することが自分の役目だと勘違いしている可能性が高いのです。

けれど、「できない理由」をいくら挙げても評価にはつながっていきません。なぜなら、何か新しいことに挑み、現状を変えて成果を出すことでしか、評価はされないのですから。

もし「できない理由を考える」クセがあるなら、「できる方法を考える」思考を今から習慣づけましょう。

■6:社歴やキャリアの浅い新任上司の邪魔をする

「管理職の本領を試されるのは、他部署から新しい上司が来たときなんです」と、片岡さん。その上司が、自分よりも社歴やキャリアなどが浅いと、ちょっと複雑な心境になりますよね。とはいえ、自分は部下なのですから、普通に考えれば、上司にとって最善のサポートをしたほうが、評価も得られるし、メリットもあるはずです。

「それなのに、上司の嫌がることをする、協力をしない人がいるんですよ」

なぜでしょうか。「他部署から来て、仕事の内容をよくわからない人に言っても仕方ないよね……」と、どうやら報告をしなかったり、サポートを求めなかったりするようなのです。決して、上司の邪魔をしようとか、嫌がらせをしようなどとは考えていないのですが、「ホウレンソウ」を怠った言動が、上司とのコミュニケーションを硬直化させ、やがて「冷戦」が始まるようです。

この部署で、今まで頑張ってきた人ほど、もしかしたら自分のやり方にこだわり、「自分のほうが詳しいのに、何を言ってるの。従えないわ」という気持ちになるのかもしれませんね。けれど、反目していても評価は下がるばかりです。社歴もキャリアも、もしかしたら年齢さえも若い上司が来たら、育てるつもりでうまく付き合ってみませんか。

新しい上司はわからないこと、困ったことがあると、まずは自分に聞いてくる。そんな関係性が築ければ、上司は目をかけてくれるようになります。さらに、社内での上司の評価が上がれば、自分の評価も当然上がります。「上司を育てる」。そんな風に気持ちを切り替えると、新しい展開が待っているかもしれませんね。

 

以上、自分が職場で評価が得られないオフィス内での6つの悪習慣をご紹介しましたが、どうやら単独で仕事で成果を上げることだけが、評価の対象ではないことがよくおわかりいただけたかと思います。

上司をサポートし、部下を育てるなど、組織全体をうまく機能させていく総合力が求められていると言えそうですね。「こんなに頑張っているのに……」と憤りを感じたときこそ、自分のやり方にこだわり過ぎていないか、上司や同僚、部下に腹を割って話せているか、振り返るチャンスなのかもしれません。

PROFILE
片岡英彦(かたおか ひでひこ)さん
1994年日本テレビ放送網入社。報道記者、報道番組ディレクターを経て、広報局番組事業宣伝部にて「進め!電波少年」「伊東家の食卓」「箱根駅伝」などの番組宣伝を担当。2001年アップルコンピュータ(現アップル)入社。ipod発売時の顧客コミュニケーション等に携わる。2004年MTVジャパン入社。広報部長・社長室長を務める。2006年日本マクドナルドマーケティングPR部長。2009年よりミクシィのエグゼクティブプロデューサー。2011年、震災を機にフランス・パリに本部を持つ、国際NGO「世界の医療団」(メドゥサン・デュ・モンド・ジャポン)広報責任者就任。同じタイミングで独立し、片岡英彦事務所(現、株式会社東京片岡英彦事務所)設立。adobe、iPhone、マクドナルド他、大手企業や製品の戦略PR・プロモーション支援、地域活性のためのプロジェクト等を行う。2015年より東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科准教授/広報部長。
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『日本テレビ・アップル・MTV・マクドナルド・ミクシィ・世界の医療団で学んだ、「超」仕事術』片岡英彦・著 方丈社刊
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
山本裕美