茶の湯や生け花を中心とした趣味の道に突き進み、名物収集に励む「数寄者」は、マニアックなまでに凝ったディテールのお洒落を楽しむピッティ・ウォモの洒落者や、時計や靴のコレクターたちと通じるものがある。
「身をやつす」という意味から生まれた「やつし」の美学は、あえて古ぼけたヴィンテージアイテムを取り入れることで着こなしにこなれ感を生む、ミックススタイルのようなものだ。そして室町時代に生まれた元祖かぶき者「ばさら」は、既存の権威を打ち崩すパンクやモードスタイルといったところだろうか。
2020年7月に惜しまれつつ逝去したデザイナーの山本寛斎氏など、まさしく現代の「ばさら」であった。そのデザインが放つ強烈なエネルギーは「わび」「さび」の精神とは対極にあるが、これもまた、日本が世界に誇るべき美意識なのである。
自分が愛するファッションと日本的美意識の共通点を熟知し、装いに活かすことは、もっとあなたを魅力的に見せ、その生活を心地よいものにしてくれる手段である。ぜひとも自由な気持ちで学び、そして取り入れていただきたい。
和魂洋装な3大スタイル
■1:数寄|マニアックなまでにこだわり抜いたディテールを楽しむ
風流を愛し、追い求める「数寄」の道は、上質な仕立てや洒脱な色使いにこだわり抜くクラシコイタリアの美学と通じるものがある。スーツのストライプとシャツのストライプ、そしてタイの柄をベージュでそろえるという完璧に調和のとれたカラーコーディネートで、日本人ならではの繊細な美意識を漂わせよう。
■2:窶し|高貴なスタイルをあえて着くずす含羞を感じさせる美学
もともとは見すぼらしい姿に「身をやつす」を意味しながらも、いつしかそれは意識的に行われるようになり、江戸時代には歌舞伎や浄瑠璃の文化と融合することで、洒落た意味合いでも使われる言葉となった。いわばドレスダウンの美学だ。上質なスーツやジャケットに古着のコートやジーンズを合わせるような、粋な装いがその現代版といえよう。
■3:婆娑羅|既存の価値観を塗り替える、時代の改革者
南北朝時代の混乱期に現れ、奇抜な服装で身を飾り身分の違いなどをものともせず、常識外れに振る舞う「ばさら」たちは、さしずめ伝統価値を打破するモードブランドのデザイナー。日本的な装いの美意識と西洋のクラシックを融合してしまったダンヒルなどは、まさしく現代の「ばさら」を表現しているのだ。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2020年秋号より
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- PHOTO :
- 熊澤 透(人物)
- STYLIST :
- 四方章敬
- HAIR MAKE :
- MASAYUKI(the VOICE)
- MODEL :
- Daisuke
- COOPERATION :
- 赤峰幸生、海老屋美術店