米国人作家レナード・コーレン氏は著書『Wabi-Sabi わびさびを読み解く』の中で、「わびさびにもっとも近い英語は、おそらく『rustic』だろう」と解説している。「シンプル、人為的でない、あるいは野暮ったい、表面がザラザラとした、デコボコした」といった意味を持つこの言葉は、コーレン氏によると「わびさび美学の限られた面しか表していない」というが、その響きと意味合いは、直感的に「錆び」が転じて生まれた「さび」の美意識を指す言葉として、最もしっくりくる。そう考えると、「さび」の名品は以下のような条件が挙げられる。

自然素材からつくられた簡素なもの。土臭いもの。長い時間を経て朽ちゆくもの……。色褪せたジーンズなど、まさしく「さび」の極致ではないか。ただし気をつけたいのは、殊更に「さび」を狙った加工品などに手を出さないこと。芭蕉や山頭火の俳風のように、突き放した不完全さにこそ、「さび」の豊かさ、面白さは宿るのだ。

「さび」の名品

枯淡の境地を感じさせるドレイクスツイードジャケット

自然の風景に映える、ガンクラブチェックのツイードジャケット。生地にわずかに残った脂の薫りが、私たちが自然の一部なのだと思い出させる。肩パッドなどを使わず仕立てたナチュラルなシルエットや、気どらない簡素なディテールも、そでを通すたびに居心地のよさを与えてくれる大切な要素なのだ。ジャケット¥148,000(ドレイクス 銀座店) ストール¥26,000(バタク日比谷)
自然の風景に映える、ガンクラブチェックのツイードジャケット。生地にわずかに残った脂の薫りが、私たちが自然の一部なのだと思い出させる。肩パッドなどを使わず仕立てたナチュラルなシルエットや、気どらない簡素なディテールも、そでを通すたびに居心地のよさを与えてくれる大切な要素なのだ。ジャケット¥148,000(ドレイクス 銀座店) ストール¥26,000(バタク日比谷)

原始的なアプローチで表現したストール

織物作家である濱野太郎さんが織った、ブランケットストール。完成像を決めずに織るという原始的なアプローチによってつくられた1枚は、どこか色褪せ、ところどころ繕った古布を想起させる。ここまでこだわりながらも、まったく「衒てらい」を感じさせない点も、またすごい。¥130,000(カセドラル 銀座〈TARO HAMANO〉)

「さび」の精神が見出した色褪せたインディゴのジーパン

名もなき男たちがはき込み、自然に風化したジーンズこそ、ファッションにおける「さび」の象徴。特に1960年代までのリーバイスの風合いは絶品だ。実は世界で初めて古着のジーンズに価値を見出したのは日本人。割れた器にこそ美しさを感じる、「さび」の精神の賜物なのだ。¥128,000(フェイクアルファ〈リーバイス〉)

冬の海を想起させる寂しくも豊かなインバーアランのニット

かつてはスコットランドの漁師たちに愛された、未脱脂の英国産ウールを手編みしたセーター。決して肌触りがよいとはいえず、脂っこさも感じさせるが、その無骨さと着込むほど肌になじむ風合いこそが真骨頂。荒れ狂う冬の海を思い出させる、「冷え枯れ」の精神が宿った1枚である。¥37,000(セプティズ〈インバーアラン〉)

※価格はすべて税抜、参考価格です。

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MEN'S Precious編集部 
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MEN'S Precious2020年秋号より
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唐澤光也(RED POINT)