クルマとコート、趣味嗜好を極める男にとって、それはある種、同意義の存在だ。ある著名なカーデザイナーは、インタビューでこのように語っていた。「クルマは感情移入のできる機械製品です。冷蔵庫や洗濯機にクルマほど強い思い入れを抱く人は少ない。それが、クルマが特別な機械製品である理由でしょう」
彼の言葉どおり、クルマが究極の嗜好品であるとするならば、数あま多たある中でなぜそのクルマを選ぶのか?
卓越したスピードと運動性能を追求するスポーツカーなのか。あるいは、優雅な疾走を慈しむグランドツアラーなのか。
デザインはクラシックかモダンか。ドイツ製、イタリア製、英国製、日本製など、製造国のDNAによってクルマのキャラクターも大きく異なり、その選択肢は限りなくある。
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さらに、コートもクルマ同様にメンズウエアの中で特別な地位を占めているアイテムだろう。ダッフルコートのようにミリタリーに由来するもの、またチェスターフィールドコートのように英国貴族に由来するもの、コート特有の歴史に裏打ちされたスタイルと素材が語るキャラクターは千差万別だ。
双方に共通するのは、第一義に機能性を追求しながら、その選択には自分のライフスタイルや美学が如実に表れている点だろう。
英国で、ある象徴的な場面に遭遇したことがある。イングランド南西部サマーセット州にあるマナーハウスに滞在していたときのことだ。マホガニーのパネルが張り巡らされた重厚なシッティングルームには、暖炉の火が赤々と燃えていた。
そこに突如としてヘビーツイードのハンティングスーツに身を包んだ紳士、およそ10名の集団が現れた。ひと目でビスポークとわかるハンティングスーツに、これもビスポークと思しき銃身に凝った細工のある猟銃を抱えている。
翌朝には、マナーハウスのコートヤードにずらりと並ぶ『レンジローバー』を見つけた。これこそ、英国人の誇る、シューティングパーティだ。狩猟というスポーツ(趣味)を最大限に愉しむための機能性と嗜好性に富んだ彼らの装いは見事だった。
彼らのようにだれもが狩猟をするわけではないが、シューティングスーツが持つ意味合い同様に、万人にとってドライブの重要な要素となるのがコートの選択だろう。
そこには自らを高揚させる、そのクルマ、そのコートでなくてはいけない理由が、必ずあるに違いない。(文・長谷川喜美(ジャーナリスト))
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MNE'S Precious2021年冬号より
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- PHOTO :
- 平郡政宏
- STYLIST :
- 大西陽一(RESPECT)
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- EDIT :
- 櫻井 香