日本最古の物語とされる『竹取物語』に、「野山にまじりて竹をとりつつ、よろづのことに使ひけり」とあるように、竹は昔から、私たちの暮らしに密接に関わってきました。私が家で使っている竹ものは、もっぱら、食卓にあがるもの、というより、台所で活躍するものがほとんど。いつから使っているか忘れてしまうほど、息の長いものばかりです。
そんな理由からか、ベルギーでの生活を始める際、日本から持っていこうと決めた数少ないものの中に蒸籠(せいろ)とざると箸がありました。これさえあればなんとかいける、と思ったわけですが、竹文化のないヨーロッパでは、料理にも調理にも、まったくと言っていいほど、竹の道具を使いたくなることはありませんでした。改めて、竹は日本の風土・文化に合ったものなのだ、と知った出来事でした。
「ベルギーへ、もてなしの勉強をしに来た」という私に、修業先のレストランのムッシュが、「君の国には、Tea Ceremonyという、もっといい『もてなし』文化があるではないか!」と言ったことは、外国のものへの憧ればかりで、自国のよい文化をなおざりにしていた自分に気づかせてくれるよいきっかけでした。
実際に、1年ほど前から習い始めた茶道は、あらゆる道具を用いて、その組み合わせの妙でお客様をもてなす作法など、まさに日本的なスタイリング。そして気がついたのは、茶杓(ちゃしゃく)や茶筅(ちゃせん)はもちろん、花入や盆、はたまた、電気コードを隠すカバーまで、茶室の至るところに竹が使われていること。茶道を通して、竹と日本文化の関係を強く感じています。
竹の生息地は気候が温暖で湿潤な限られた地域で、日本は幸運にもそのエリア。自然との共存、限りある資源を大切にと言われる昨今、改めて竹の恩恵に与(あずか)っていることに感謝し、どんどん利用していくべきと感じます。今回は食卓を離れ、台所の風景を。ベルギー生活では思いつきもしなかったレシピに、気合いが入るのです。
<今回のアイテム:竹細工>竹細工の歴史は古く、縄文後期の遺跡から竹かごが出土している。イネ科の植物の竹は生長が早く、1 日に1 m 以上伸びることも。使われるのは主に幹の部分の「竹稈(ちくかん)」。しなやかで軽量、耐久性が高い竹は衣食住を支え、茶道や華道では、わび・さびを表現する素材として重宝された。近代はプラスチックなどに代わられ竹製品の生産量は減っていたが、その使いやすさや風合いが今、再評価されている。
■「西上州竹皮編でんえもん」のかご
ドイツ人建築家ブルーノ・タウトは、戦前の群馬県で竹皮編みの草履を発見、その技法を用いて日用品をデザイン。裂いた竹皮を巻きながら針で縫い込んでつくるかごは丈夫。現在、職人は前島美江さんのみ。
CARPE TEL:0467-40-5457
■「松野屋」のざると鬼おろし
暮らしの道具店「松野屋」が扱う淡竹のざるは編み目が美しく、丈夫。竹の形状を生かした鬼おろしは食材の繊維を壊しすぎず、歯ごたえのある仕上がりに。
谷中松野屋 TEL:03-3823-7441
■下本一歩さんのトングとお玉
高知県で下本さんが炭焼きの合間につくる調理道具やカトラリーは、竹の節やしなやかさを生かしたもの。燻した表面には防カビ効果も。
ババグーリ本店 TEL:03-3820-8825
- TEXT :
- 城 素穂さん スタイリスト
- BY :
- 『Domani7月号』小学館、2016年
- クレジット :
- 撮影/濱松朋子 スタイリング・料理・文/城 素穂