今は亡き服飾評論家の林勝太郎氏は、著書『英国流おしゃれ作法』(朝日新聞社)で、「ダンディとは『おしゃれな服』ではなく、『おしゃれな人』である」と喝破している。服だけがひとり歩きすることなく、着る人と自然に溶け合い、その人間性を表現すること。そんなファッション作法の体現者が、ここで挙げる男たちだ。

サヴィル・ロウが支えた男たちの優雅な佇まい

ケーリー・グラント/CARY GRANT

お洒落に見せないお洒落を貫いたスノビズム。1904~1986年。貧しい生まれだったが上流階級のアクセントを身につけ、ハリウッドで大成功を収めた20世紀を代表するスター。着道楽として知られ、英国の「アンダーソン&シェパード」のほかに、ビバリーヒルズの無名テーラーや香港の激安テーラーにいたるまでを制覇したという。(c)Getty Images
お洒落に見せないお洒落を貫いたスノビズム。1904~1986年。貧しい生まれだったが上流階級のアクセントを身につけ、ハリウッドで大成功を収めた20世紀を代表するスター。着道楽として知られ、英国の「アンダーソン&シェパード」のほかに、ビバリーヒルズの無名テーラーや香港の激安テーラーにいたるまでを制覇したという。(c)Getty Images

往年のスターやセレブリティでまずその名を挙げられるべきは、やはりケーリー・グラントだろう。その魅力は控えめな趣味と徹底したミニマリズムだ。共演する女優を引き立てる地味なデザインや色に終始する反面、タイトなアームホールにこだわり尽くすテーラー泣かせの顧客だったというケーリー・グラント。そんなストイックな趣向を極めた結果、スーツはまさしく彼のイメージと一体化したのだ。

ハーディ・エイミス/HARDY AMIES

エレガンスの番人を自負したデザイナー。。1909~2003年。英国諜報部員を経て、1946年にロンドンのサヴィル・ロウにて洋装店‘ハーディ エイミス’を開店。エリザベス女王付きのデザイナー、そしてテーラーとして大活躍する。’89年にはナイト爵位を叙せられた。モダンな仕立てのスーツを見事に着こなす、自身のスタイルにも注目が集まった。(c)Getty Images
エレガンスの番人を自負したデザイナー。。1909~2003年。英国諜報部員を経て、1946年にロンドンのサヴィル・ロウにて洋装店‘ハーディ エイミス’を開店。エリザベス女王付きのデザイナー、そしてテーラーとして大活躍する。’89年にはナイト爵位を叙せられた。モダンな仕立てのスーツを見事に着こなす、自身のスタイルにも注目が集まった。(c)Getty Images

ロナルド・コールマン/RONALD COLMAN

「コールマンひげ」で知られる往年の名優。1891~1958年。トーキー黎明期の'20年代から活躍し、アメリカや日本でも大人気となった、通称‘パーフェクト ジェントルマン’。代表作に『心の旅路』('42)や、アカデミー主演男優賞を獲得した『二重生活』('47)がある。彼の影響から、その端正な口ひげは「コールマンひげ」と呼ばれるようになった。(c)Getty Images
「コールマンひげ」で知られる往年の名優。1891~1958年。トーキー黎明期の'20年代から活躍し、アメリカや日本でも大人気となった、通称‘パーフェクト ジェントルマン’。代表作に『心の旅路』('42)や、アカデミー主演男優賞を獲得した『二重生活』('47)がある。彼の影響から、その端正な口ひげは「コールマンひげ」と呼ばれるようになった。(c)Getty Images

ローレンス・オリヴィエ/LAURENCE OLIVIER

気品あふれる英国的二枚目スター。1907~1989年。ロンドンで舞台俳優として活躍後、ハリウッドで『レベッカ』('40)などの名作に出演。帰国後はシェイクスピア演劇や映画に注力。映画『ハムレット』('48)でアカデミー作品賞、主演男優賞を獲得した。サヴィル・ロウ仕立てのスーツを優雅に着こなす、甘いマスクの正統派二枚目。(c)Getty Images
気品あふれる英国的二枚目スター。1907~1989年。ロンドンで舞台俳優として活躍後、ハリウッドで『レベッカ』('40)などの名作に出演。帰国後はシェイクスピア演劇や映画に注力。映画『ハムレット』('48)でアカデミー作品賞、主演男優賞を獲得した。サヴィル・ロウ仕立てのスーツを優雅に着こなす、甘いマスクの正統派二枚目。(c)Getty Images

ほかにもサイレント映画期のスターであるロナルド・コールマンやチャールズ・チャップリン、シェイクスピア演劇で知られるローレンス・オリヴィエ……。

英国俳優の洒落者ぶりは枚挙にいとまがないが、その中でもダンディとして名高いのは、『八十日間世界一周』('56)や『ピンクパンサー』シリーズ('63~)などの作品で名高い、粋の化身と呼ばれた男、デヴィッド・ニーヴンだ。整えられた口ひげと美しいドレープを描くスーツを身につけ、ハリウッドで英国紳士の真髄を体現し続けた名優。実は作家イアン・フレミングは、もともと彼の姿をイメージして『007』シリーズを執筆したという伝説からも、そのダンディぶりはうかがえよう。

イアン・フレミングの洒落者ぶりは後のページで述べるが、英国においては作家やアーティストたちの知性あふれるスーツスタイルも見逃せない。ケーリー・グラントやローレンス・オリヴィエ、チャールズ皇太子も愛したロンドンのビスポークテーラー、「アンダーソン&シェパード」を贔屓にした作家サマセット・モームはその代表格である。

ショーン・コネリー/SEAN CONNERY

史上最も魅力的なボンド俳優! 1930年~2020年。ナイトの称号を持つ、英国を代表する俳優。'62年にジェームズ・ボンド役に抜擢され、一躍スターダムにのし上がる。『007』シリーズ出演の際には監督やプロデューサーから徹底的な指導を受け、ファッションから所作にいたるまで上流階級のスタイルを身につけたのは有名な話である。(c)Getty Images
史上最も魅力的なボンド俳優! 1930年~2020年。ナイトの称号を持つ、英国を代表する俳優。'62年にジェームズ・ボンド役に抜擢され、一躍スターダムにのし上がる。『007』シリーズ出演の際には監督やプロデューサーから徹底的な指導を受け、ファッションから所作にいたるまで上流階級のスタイルを身につけたのは有名な話である。(c)Getty Images

デヴィッド・ニーヴン/DAVID NIVEN

ハリウッドで認められた英国紳士のスタイル。1910~1983年。アメリカに渡り、'30年代に俳優デビュー。役者としては長く伸び悩んだが、知性とユーモアを兼ね備えた風貌や演技で徐々に人気を博し、『旅路』('58)でアカデミー主演男優賞を獲得。小粋な口ひげや優雅なスーツ姿も相まって、典型的な英国紳士役なら右に出る者はないと評された。(c)Getty Images
ハリウッドで認められた英国紳士のスタイル。1910~1983年。アメリカに渡り、'30年代に俳優デビュー。役者としては長く伸び悩んだが、知性とユーモアを兼ね備えた風貌や演技で徐々に人気を博し、『旅路』('58)でアカデミー主演男優賞を獲得。小粋な口ひげや優雅なスーツ姿も相まって、典型的な英国紳士役なら右に出る者はないと評された。(c)Getty Images

サマセット・モーム/SOMERSET MAUGHAM

生涯旅を愛した英国を代表する文豪。1874~1965年。イギリスを代表する小説家、劇作家。『月と六ペンス』('19)などの小説で、英語圏で絶大な人気に。'30年代当時、原稿料の最も高い作家といわれた。洒落たファッションや旅行を愛する趣味人としても名高く、シンガポールのラッフルズホテルを絶賛して一躍有名にした。(c)Getty Images
生涯旅を愛した英国を代表する文豪。1874~1965年。イギリスを代表する小説家、劇作家。『月と六ペンス』('19)などの小説で、英語圏で絶大な人気に。'30年代当時、原稿料の最も高い作家といわれた。洒落たファッションや旅行を愛する趣味人としても名高く、シンガポールのラッフルズホテルを絶賛して一躍有名にした。(c)Getty Images

チャールズ・チャップリン/CHARLES CHAPLIN

劇中とのギャップに驚く紳士的なスーツスタイル! 1889~1977年。言わずと知れた世界最高峰のコメディアン、監督、俳優である。ボウラーハットにステッキ、だぶだぶのパンツといった劇中のスタイルがあまりにも有名だが、その若き日の素顔は意外にもスマートな二枚目。小柄だがビスポークスーツを着こなした姿はスタイリッシュである。(c)Getty Images
劇中とのギャップに驚く紳士的なスーツスタイル! 1889~1977年。言わずと知れた世界最高峰のコメディアン、監督、俳優である。ボウラーハットにステッキ、だぶだぶのパンツといった劇中のスタイルがあまりにも有名だが、その若き日の素顔は意外にもスマートな二枚目。小柄だがビスポークスーツを着こなした姿はスタイリッシュである。(c)Getty Images

ジェイムズ・ジョイス/JAMES JOYCE

スーツ姿からにじみ出る芸術家的センス。1882~1941年。当時英国連邦下だったアイルランドで生まれた文豪。'22年に著した『ユリシーズ』は、史上最も難解な、20世紀文学の金字塔と呼ばれている。クラシックなスーツスタイルに丸眼鏡、帽子、そしてステッキなどを合わせた、個性的なスタイルがそのトレードマークである。(c)Getty Images
スーツ姿からにじみ出る芸術家的センス。1882~1941年。当時英国連邦下だったアイルランドで生まれた文豪。'22年に著した『ユリシーズ』は、史上最も難解な、20世紀文学の金字塔と呼ばれている。クラシックなスーツスタイルに丸眼鏡、帽子、そしてステッキなどを合わせた、個性的なスタイルがそのトレードマークである。(c)Getty Images

それにしても彼らの写真を眺めていると、そのスタイルが実に変わらずその新鮮さを保ち続けていることを痛感するはずだ。

女王エリザベス2世御用達のデザイナー、ハーディ・エイミスは、著書『ハーディ・エイミスのイギリスの紳士服』(大修館書店)の中で、「イギリス人はスーツが歴史と伝統を凝縮した衣服だということを本能的に知っていた」とつづる。まさしくこれこそが、英国スーツダンディの普遍的な格好よさを象徴する言葉だろう。

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