今は亡き服飾評論家の林勝太郎氏は、著書『英国流おしゃれ作法』(朝日新聞社)で、「ダンディとは『おしゃれな服』ではなく、『おしゃれな人』である」と喝破している。服だけがひとり歩きすることなく、着る人と自然に溶け合い、その人間性を表現すること。そんなファッション作法の体現者が、ここで挙げる男たちだ。
サヴィル・ロウが支えた男たちの優雅な佇まい
ケーリー・グラント/CARY GRANT
往年のスターやセレブリティでまずその名を挙げられるべきは、やはりケーリー・グラントだろう。その魅力は控えめな趣味と徹底したミニマリズムだ。共演する女優を引き立てる地味なデザインや色に終始する反面、タイトなアームホールにこだわり尽くすテーラー泣かせの顧客だったというケーリー・グラント。そんなストイックな趣向を極めた結果、スーツはまさしく彼のイメージと一体化したのだ。
ハーディ・エイミス/HARDY AMIES
ロナルド・コールマン/RONALD COLMAN
ローレンス・オリヴィエ/LAURENCE OLIVIER
ほかにもサイレント映画期のスターであるロナルド・コールマンやチャールズ・チャップリン、シェイクスピア演劇で知られるローレンス・オリヴィエ……。
英国俳優の洒落者ぶりは枚挙にいとまがないが、その中でもダンディとして名高いのは、『八十日間世界一周』('56)や『ピンクパンサー』シリーズ('63~)などの作品で名高い、粋の化身と呼ばれた男、デヴィッド・ニーヴンだ。整えられた口ひげと美しいドレープを描くスーツを身につけ、ハリウッドで英国紳士の真髄を体現し続けた名優。実は作家イアン・フレミングは、もともと彼の姿をイメージして『007』シリーズを執筆したという伝説からも、そのダンディぶりはうかがえよう。
イアン・フレミングの洒落者ぶりは後のページで述べるが、英国においては作家やアーティストたちの知性あふれるスーツスタイルも見逃せない。ケーリー・グラントやローレンス・オリヴィエ、チャールズ皇太子も愛したロンドンのビスポークテーラー、「アンダーソン&シェパード」を贔屓にした作家サマセット・モームはその代表格である。
ショーン・コネリー/SEAN CONNERY
デヴィッド・ニーヴン/DAVID NIVEN
サマセット・モーム/SOMERSET MAUGHAM
チャールズ・チャップリン/CHARLES CHAPLIN
ジェイムズ・ジョイス/JAMES JOYCE
それにしても彼らの写真を眺めていると、そのスタイルが実に変わらずその新鮮さを保ち続けていることを痛感するはずだ。
女王エリザベス2世御用達のデザイナー、ハーディ・エイミスは、著書『ハーディ・エイミスのイギリスの紳士服』(大修館書店)の中で、「イギリス人はスーツが歴史と伝統を凝縮した衣服だということを本能的に知っていた」とつづる。まさしくこれこそが、英国スーツダンディの普遍的な格好よさを象徴する言葉だろう。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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